第16話 格闘ゲームの特訓 その5

 姉は風呂から上がると、少しリラックスしたのか表情はいつものように戻っていた。俺としては、いつもの癖で裸で出てくるなんてハプニングが起こらないかが心配だったのでパジャマの姿で出てきてくれた時点で安心していた。


 それを見るなり、メイさんは服貸してくれない?と姉に頼んで自分も風呂に行くと言って風呂場に消えていった。すると当然、二人になるのだが、風呂上がりの異性というのはどうも色っぽいため、妙な緊張が走る。家で暮らしていた頃はなんとも思わなかったので、おかしな話ではあるのだが、実際にそう感じてしまっているのだから仕方がない。


 姉はそんなことを気にも留めないで、俺の隣に座ってゲームを再開した。風呂上がりのいい匂いがふわっと漂う。俺はできるだけ変なことを考えないようにゲームに集中しようとした。


 メイさんがやってくる前のルールで、姉がどれだけ成長したのか、実際に戦ってみると彼女はまるで別人のように強くなっていた。と言っても流石に勝ち負けできるほどの実力はない。しかしそれでも、ストックが3つあれば一度は撃墜されることの方が多い程度にはなっていた。


「上手くなったね。こんな短時間で」

「メイちゃんが教えるの上手いだけだよ。私なんて全然ダメ」


 姉はあくまで謙遜していたのだが、それでもその成長は確かなものだった。数戦を終えると、すぐにメイさんが戻ってきた。彼女は髪をバスタオルでくるんだ姿だった。風呂はシャワーだけで済ませるのか、とにかく姉に比べると入浴時間が短かった。


「あー、さっぱりした。弟くんも風呂入ってきたら?」

「じゃあ、この試合が終わったらそうします」


 そんな会話を交わし、さくっと姉を倒して風呂に向かった。脱衣所には白の飾りの少ないシンプルなブラジャーが脱衣カゴにそのまま置いてあった。おそらくサイズ的にメイさんのものなのだろうが、見て見ぬふりをしてそのまま浴室へ。身体を洗っている時に脱衣所に誰かが入って何かを持っていった音がした。風呂を上がるとブラが消えていたので多分それだったのだろう。


 メイさんにもその辺に対する羞恥があるというのは意外だったが、部屋に戻った後もお互いにそのことについては何もコメントがなかった。


 結局、三人でワイワイとゲームをやるうちに深夜の3時くらいになってそろそろ眠るかという話になった。


「で、どこで寝る?」

「奈々子ちゃんは寝室でいいじゃん。私はソファで寝るし」


 メイさんはそう言ってクッションを頭にしいて既に眠るような体制に入っていた。掛け布団はないが、夏も近いし一日ぐらいならどうということもないだろう。


「じゃあ、優くんは一緒の布団で寝る?」


 姉はごく自然にそう言ったが、そんな提案は断じて受け入れられるものではなかった。


「え?来客用の布団とかないの?」

「買っとこうか?って言ったときに泊まらないからいらないって言ったの優くんだよ」

「あー……」


 そういえば、一人暮らしを始めると言い出した時にそのような会話をした覚えがあった。あの時はまさか泊まるときが来るとは全く想定もしていなかったのだ。


「じゃあ、それでいいんじゃない?お姉ちゃんと寝たことくらいあるでしょ」

「確かにあるにはありますけど何年前の話なんですか……さすがにまずいですよ……」

「え?緊張して眠れないの?お姉ちゃんに欲情しちゃう?」


 メイさんは深夜テンションなのだろうか爆弾発言をぶっこみ始めた。それはどのように答えたところで今後致命的な問題になりうる質問だった。


「じゃあ、俺がそのようなこと一切しないって言ったら、メイさんは俺と寝てくれるんですか?」


 とりあえず話をずらしてカウンター攻勢に出ようと口から出た言葉は、余計に事態をややこしくしうる最悪の発言だった。


「え……//」


 メイさんは胸のあたりを押さえてわざとらしい照れた声をあげた。


「すいません。冗談です。忘れてください。できれば今すぐに」

「ねえ、それってメイちゃんより私の方が性的魅力があるってこと?」

「姉ちゃん、本当にややこしくなるからやめて。仮にの話だから」

「え?私ってそんなに魅力ないかな」

「メイさんも乗っからないでください」

「じゃあいっそ、皆で川の字になって寝るのはどうかな」

「いいじゃん。真ん中は弟くんね」

「なんですかそのハーレム。ていうか物理的に入らないですよ」


 ……結局、女性二人が同じベットで寝て、俺がソファの上で眠るという最も現実的な案に落ち着く結果になった。ただ、変なことばかり想像してしまい、あまり眠ることができなかった。

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