第13話 格闘ゲームの特訓 その2
『私、最近始めたばっかりでめっちゃ弱いよ。相手にならないと思う』
『大丈夫。私も初心者だから』
そんなやりとりを横で見ている中で
「とりあえず一回やってみたら?初心者なんだったら勝てるかも」
という俺の発言から配信者二人の非公開マッチが成立することになった。
姉のキャラクターはピコミンという小さなキャラクターを使って戦うファイターを選択。メイさんはファルコというハヤブサをモチーフにしたマスクを被ったファイターを選択したようだった。
さっきと同様のルールで対戦が開始されると何ということだろうか……!!
姉は無残にも3タテされた。
もしかするとさっきよりも惨敗だったかもしれないレベルで。俺はすぐに彼女が嘘をついて姉をだましたことに気づいたが、間の鈍い姉は自分が圧倒的に弱いと思い込んでいるようだった。
「ねえ、優くん、私ってそんなにゲームへたくそなのかな……ここ最近は結構いろんなゲーム触らせてもらう機会も多かったんだけどなー……」
見るからに調子を落としている姉も可愛かったが、さすがにいたたまれない。
「メイさん多分経験者だよ。姉ちゃんをからかって遊んでるんだ。もう一回やろうって言って。今度は俺がやる」
そう言って彼女からコントローラーを譲り受ける。メッセージのやり取りをして、再戦が決まった。やり取りの中で、メイさんはネタ晴らしをしなかったようだった。しばらくからかって遊ぶつもりなのだとしたら、こちらとしても倒しがいがあるものだ。
俺は当然一番使い慣れたピンクのプププ。彼女は先ほどと同じファルコだった。正直、自分の実力がどれだけ彼女に通用するのかが楽しみで、完全に童心に帰っていた。
試合のルールは先ほどまでと同じ、アイテムなし、ステージギミックなしの純粋なタイマン勝負。旧作にもいたキャラクターなので大まかな動きを理解しているという意味でもかなり戦える条件はそろっている。
試合開始の合図とともにお互いに距離を取り合って探るような時間が数秒間続いたかと思えば、一度のぶつかりから戦闘が開始し細かな技の応酬で相手の吹っ飛ばし率を貯めていく。おそらく、もうすでに相手も画面の向こうで対戦しているのがナナではないことを理解しているだろう。そして、相手が俺であることも。
先ほどまでの二戦とはうって変わり、画面上をちょこまかと動き回るキャラクター。一度大技を食らってしまいストックを一失ったものの、すぐに巻き返してイーブンの状態に何とか戻した。FPSが上手いのは知っていたが、このジャンルのゲームも上手いのかと関心を覚えつつ、ゲームに意識を集中される。画面上ではほとんど五分五分の試合展開が続いてお互い最後のストックとなったとき、やや不利状況だった俺が、キャラクター特有のコピー能力で得た大技のパンチが炸裂し、ギリギリ勝利することができた。
ゲームが終わった後、俺のラインに『モメモメ弟(おっぱい)』なんていう不謹慎極まりないグループから『おい、さっきの弟くんでしょ。さすがに気づくわ』というメッセージが爆速で送られていた。
『はい。メイさんが姉のことをだましてからかってたんで、こっちからも何かしたいと思って反撃させてもらいました』
『ってことは今二人は菜々子ちゃんの家にいるってことだよね』
『そうだよ』という姉の返信。
『もしよかったらなんだけど……今からそっち行っていいかな?』
メイさんは皆で遊びたいようだった。姉が一度こちらの方を見たが、直接対戦のことについて聴きたいこともあったので、俺は問題ないというジェスチャーをする。
その瞬間に姉は『問題ないよ。ぜひぜひ来て』と返信。
『ありがとう。30分くらいでつく』
というメッセージがすぐに返ってきた。
そんなこんなで先月に集まったメンバーがまた再集合することになってしまった。まあ、今回は久々に本格的に強くなるための方法を直接人に聞くことができるかもという点で、昔のガチ勢の血が心の奥で燃え滾ってテンションが上がっていた。
「彼女がこっちに来るまでに一戦やる?」
と姉に話しかけても
「あんなに強いの見せられた後でまともに戦える気がしない」
との言葉が返ってくるだけだった。
姉は俺とメイさんのタイマン勝負を見て完全に心が折れてしまったようで、足を伸ばしたまま寝っ転がってソファーを占有していた。後で何らかの方法でリカバリーしてやらないとな、と思いながら、とりあえず一番強いCPUに設定してさっきと同じキャラクターと対戦してみることにした。
CPUとの対戦ということで記憶に残っていたのは、小学生の頃、友人との対戦に飽き足らず、皆が家に帰った後にCPUの一番レベルが高いやつと何人同時に戦えるのかというチャレンジをしていたことだろう。
CPUは当然最高レベルにしたが、はっきり言ってCPUは前作のそれよりも想像以上に強かった、その精神的な油断から、序盤に大きなアドバンテージを取られてしまい、終始敗北濃厚だった。ただ、何とか途中からコンピュータの動作をよむことに成功して、最後は一発貰うと即負けの状態から吹っ飛ばして逆転勝利を収めることができた。あまりの嬉しさにソファーに姉が寝転がっているにも関わらず、そのことを失念して姉の背中に尻からダイブしてしまった。
「ぐふ~セクハラです~。姉弟です~。エッチなのはだめです~。それにしても優くんお尻おっきくなったねぐへへ」
「セクハラをされた側なのかしてる側なのかはっきりしてくれ」
「はい、裁判長。判決、両者無罪」
と姉は酔ってんのかってくらい適当なキャラクターになってしまっていた。
俺はソファの下にもたれかかってコンボの研究をスマホの動画で見直した。こんな動きは小学生の頃はしなくても勝てて居たが今は時代が違うのだろう。既にこのゲームにドはまりしてしまった。まあ、高校生の比較的暇な時期で助かった。というのが正直な感想だ。
そんな中、部屋にインターホンが鳴り響く。メイさんが家にやってきたのだった。お土産、と言って簡単なコンビニのお菓子を3つ持ってきてくれていた。
俺は集中していたあまり、メイさんは10分もかからずにここまで来たように思えた。
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