第2話 姉はVtuber その2

 姉から連絡があった翌日、俺は言われた通りに学校の帰りに彼女の部屋に寄ることにした。『今から向かう』とメッセージアプリで連絡を入れたものの、既読はつかなかった。だが、合鍵を貰っているので部屋に入ることはできる。


 買い物に行っているのか、打ち合わせか何かでスマホを見ることができないのか、理由は後で聞けばいいので何でもよかった。一応、配信が行われていないかだけをyoutubeでチェックした。万が一でも事故が起こって彼女の配信に問題が起こってはいけないからだ。


 彼女が住んでいるマンションはオートロックがある、普通の女子大生が一人で住むにしては少し広めのいい部屋だ。事務所から補助が出ているとかなんとか言っていた気がするが高校生の俺はあまり興味がない。


 合鍵でエントランスを通過し、エレベーターを使って彼女が住む五階のフロアへ。504号室のカギを開けて玄関へ足を踏み入れる。


「姉ちゃん。来たよ」


 言ってみたものの返事はない。部屋の中は暗く、誰かがいるような気配はなかった。とりあえず、洗面台で手を洗ってから、リビングに向かう。すでに何度も来ているので、どの部屋がどこにあり、部屋のどこに何があるかはだいたい把握している。


 少し喉が乾いたので、冷蔵庫に飲み物でも入っていないかと勝手に開ける。数本のお酒と缶ジュースが見つかったので、ジュースを飲みながら、今期追っているアニメでも消化しようかとテレビをつけた。


 姉が契約しているサブスクライブの配信サービスで、見たいアニメを検索する。履歴が残っていたので、彼女は俺が見たかったそれを既に見たようだった。後で一緒に感想を話そうと思いながら再生のボタンを押した。


 配信業を営んでいることと関係があるのかは分からないが、彼女はテレビもスピーカーもこだわっているようで、姉の部屋で見るアニメは家で見るそれよりも何倍も良いものに感じられる。


 彼女の部屋は居心地がいい。


 10分くらい経ったころ、隣の部屋に妙な気配を感じた。そこは俺がほとんど踏み入れることはない、彼女の寝室兼配信用の部屋である。もしやと思い恐る恐る部屋を部屋に入ると、そこにはキャミソール姿で寝ている姉がいた。乱れた長い髪とかわいい寝顔。なんというか、だらしがない新卒社会人の休日のような様相だ。


 もう低くなり始めた日がカーテンの隙間から差し込んでいる。机の上には酒の空き缶、平日から一体何をしているのだろうか。我が姉ながら将来が心配になる。


「姉さん、大丈夫?」

「あ、ごめん。優くん。寝ちゃってた……もうそんな時間か」


 彼女は配信に際して、特に声を作ることはない。寝起き姿の彼女の声はナナのそれだった。音声だけのASMRで配信されてたらバズるだろうなぁ……。でも俺に向けての声だからダメじゃん。炎上不可避。


「そこのPC。パスワードだけ開けるから、運営さんに教えてもらった海外ゲームの日本語化mod、入れておいて欲しい」


「わかった。やっておく」


 彼女はベットから這いずるように出ると、四足歩行でPCの元へ行き、椅子に座らずにパスワードだけを打ち込んだ。


 なお、下半身はパンツ一枚だった。


 下半身は『パンツ一枚』だった。


 反射的に目をそらしたものの、その端にフリフリがついた白いパンツは流石にまずかった。はっきり言って、かなり扇情的というか、要はエロい。


「じゃあ、あたしシャワー入ってくるわ」


 彼女はそう言って俺の方を振り向かずに風呂場の方へ行ってしまった。綺麗な尻は見てて大丈夫なやつなのかわからないが、恐る恐る目に焼き付けた。


 彼女の酒癖について言及するならば、おそらく決して良い方ではない。現状を元にした推測でしかないので真相はわからないが、彼女はあの配信の後、僕に電話をし、その後プライベートでだれかと飲みながら夜通し麻雀かAPEXかまあそんな感じのゲームをしていたのだろう。そして朝8時から夕方5時までの9時間、しっかり眠っていたのだろう。9時間睡眠、なんて健康的!?昼夜逆転してることを除けばな!!


 なんて一人で突っ込んでいても何も始まりはしない。俺は起動したPCを触り始める。メールフォルダを漁るとマネージャーからの、手順が一通り説明された資料を見つける。かなり丁寧に説明がなされていたので、それに従うだけで作業はあっさりと完了してしまった。


 することがなくなると気になるのはさっきまで姉が眠っていたベットである。それは決して性的な意味ではなく、単に「さっき起きました」と言わんばかりに散らかる布団が目障りであるという意味である。


 姉に比べれば、俺は幾分か綺麗好きであった。リビングがこの部屋に比べて綺麗なのも、俺が定期的に掃除しているからである。


「はぁ」


 と短い息を吐き、布団を綺麗に折りたたむと布団の中から一枚の薄手のズボンが飛び出した。だから下半身がパンツ一枚だったのかなんて妙な納得感を抱いていると、姉がシャワーを浴び終わったようでリビングに人が歩いてくる気配がした。

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