姉がVtuberなんだが俺の話ばっかりで困る〜本当に弟なんです。信じてください〜
赤井あおい
第1話 姉はVtuber その1
「この前ね。実家に帰ったとき、弟が家にいるって知らなくて~。普通にリビングをパンイチで歩いてたらソファで弟が寝ててさ。『キャー』って大声で叫んだら弟が起きちゃって。そこでガッツリ見られちゃったんだよね。色々と」
『やば』
『えっろ』
『そもそもなぜパンイチ?』
『えっっっっっ』
『うらやま』
『裏山』
『いかんでしょ』
・
・
・
画面上をすごいスピードで流れる文字列。それは今勢いに乗っているVtuber、
現在は雑談の配信中である。彼女の身の回りで起こった話だったり、コメント欄やスーパーチャットから話題を拾って、そのことについて語ったりする。俺は彼女のチャンネルを開いたまま、別窓でとあるインターネット掲示板を開く。
0231 なななな名無し 2023/05/13(土)
『まーた弟の話だよ』
0232 なななな名無し 2023/05/13(土)
『どうせ彼氏だろ』
0233 なななな名無し 2023/05/13(土)
『これは普通に弟じゃね?俺もそういう経験あるし』
0234 なななな名無し 2023/05/13(土)
『>>233黙れ』
0232 なななな名無し 2023/05/13(土)
『俺にもおっぱい見せてくれー』
こちらの掲示板は本人が見に行かない限り直接見られることはない。それゆえ、配信のコメント欄には書き込みにくいようなことがつらつらと書き込まれている。彼らは決してアンチではないものの、弟についてはよく思っていないようだ。
まあ、実際に彼氏とのエピソードを弟と偽って話すようなケースはあるようだし、彼らが疑心暗鬼におちいる気持ちも分からなくはないが、彼らの推測は全くの的外れであった。
何故そのような確信が持てるのか。答えは簡単、俺が彼女の弟だからである。そう、この目でがっつり見たのである。たわわなそれを。
「でもさ、そこでとっさにクッションを手に持って弟を思いっっっきり殴ったの。そしたらこっち向かなくなったから大丈夫だと思う」
『普通にアウト』
『そのクッション使って隠せよ』
『何故殴った』
『馬鹿』
『草』
そう、俺はその後すぐに、ぶん殴られたのである。幸いクッションだったから怪我はしていないものの、おかげでそのたわわな胸についての脳内データは一部破損したようで、大事なところは思い出せない。
主に先端の方の、色とか、サイズとか、形とか。あまり覚えてないということは、綺麗だったんだと勝手にそう思っている。
だから、彼女の言い分はある意味で正解であった。まあ、俺がそのことを書き込む可能性は万に一つもありはしないので、絶対に誰も知り得ない情報なのだが。
「それがゴールデンウィークに帰省して一番びっくりした出来事だったね」
彼女はそう言って話を終えた。トークテーマは最近一番驚いたこと、だったようだ。俺も驚いたよ本当に。
まあ、姉が向こうの家では裸族のような状態でいることは配信でも話していたし(流石に配信中は着ているらしいが真偽は不明)その癖が出る可能性を考えていなかったわけではなかったが、大声で起こされた瞬間にもう大学生にもなった姉の半裸を拝む羽目になるなんて流石に思いもしなかった。ちなみにパンツは薄いミントグリーンのヒラヒラしたやつだった……気がする。(殴られたショックで記憶が曖昧)
ちなみに彼女、配信していることは両親に隠しているので、彼女の正体を知っているのは事務所や関係者を除けば俺だけになる。正直、昔からドジな気質があった彼女がVtuberなんて炎上しないか心配であったが、その辺も愛されてなんとかやっているようだ。
彼女のアバター七菜ナナはピンクの髪の毛の大型犬の垂れ耳のような飾りがついた姿をしている。有名な絵師さんが書いてくれたものらしく、デザインが本当に可愛い。設定としては、犬が魔法の力で大きくなって〜云々というものがあるらしいが、今やそれは死に設定となっている。
ちなみに、身長は163cm、胸はGカップらしい、現実の方も163cmであり、胸もFかGあたりだろうと睨んでいる。その辺が現実準拠なのは3Dライブなどで都合がいいからなのだろうか?よく知らないし、姉に聞いたら教えてくれるだろうが、特に知ろうとも思わない。
「そろそろ終わろうかな」
画面の向こうではナナがスパチャ読みを始めた。俺は画面を開いたまま部屋を離れた。
下の階で風呂を洗ってから、コーヒー牛乳ををタンブラーに入れて部屋に戻ると、配信は終わっていた。椅子に座ってゲーミングPCを動かそうとするとスマホから通知がなった。
『今日の配信見てくれた?』
『ゲームしながら』
『電話していい?』
『いいよ』
返信してから一瞬で着信があった。
「優くん。明日学校の帰りにうち寄ってくれない?新しいゲームの設定がわかんなくて」
「いいよ。ていうかそれくらいならメッセージでいいのに……」
「えへへ……ごめんね。優くんの声が聞きたくて」
うちの姉はどうしようもないくらいのブラコンであった。配信の終わりには、毎日のようになんらかの理由をつけて電話をかけてくる。
そして、うちにやって来るか俺を家に呼ぶ。一応、頻繁に会ってることはあまり話さないようにと言ってあるのだが……。いつかこんな関係が世に出てネット上で叩かれないか、俺は心配でならない。
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