10月31日

週末はいつも決まって2人でお風呂に入るという暗黙のルールが立てられている。

私から先に入り、湯に浸かって彼を呼ぶ。

シャンプーを終えたあと「あっ」という声が浴室に反響した。

「リンスきれてる」

「ごめん変えるの面倒くさくて」

「も~」

そう言いながらもリンスの詰め替え用ストックを取りに出ていった。

その間に、少しリンスが残っているボトルを綺麗に濯ぐ。

「んー、開かない」

「ハサミで切ってくれば?」

「お前がいく?」

「やだ」

俺もヤダと言いながらリンスの先端部分を口に持っていき、雑に開けた。

「やべ、綺麗にあかなかった」

案の定、うまく開かなかったらしい。

ほらいった、ハサミで切ればよかったのにという言葉を押し込んで「大丈夫だよ」と言った。

しゃがむ彼の目の前に洗ったボトルを差し出す。

私はボトルを固定したまま、彼は袋を逆さまに持ちぎゅっと手に力をこめる。

その瞬間、ブボボ!と大きな音が反響し思わず吹き出してしまう。

「やだあ、おならしないでよ」

「は?やめろよ俺じゃないし、こいつだよ」

「リンスはおならなんかしないよ」

「お前が言い出したんだろ」

そういって2人で長いこと馬鹿みたいに笑った。

些細なことだった、長いことと言ったが人生の年表には刻まれないくらい数秒間の出来事が昨日のことかのように思い出された。

「何が面白かったのよ、こんなの」

1人でリンスの詰め替えをするのは難しい。

固定されてないボトルはグラグラするしなかなか綺麗に出し切れないことにイライラして涙が出る。

こんなことになるならハサミで綺麗に切ればよかった。

「ここにバスタオルおいとくよ」

曇りガラス越しに聞こえる落ち着いた低い声。

「ありがと」

ここから出ればもう、君はいない。

少し年季の入ったドアを開けるとギィッと音が鳴った。水滴をボタボタ落としそっとマットの上に足を乗せる。

顔を上げると先程、バスタオルをおきにきた彼がコンタクトを外そうと洗面台にたっていた。

「あっごめんね、そんなに早くに上がると思ってなくて」

照れくさそうに笑い、目線を外す姿はデリカシーのない君とは似ても似つかない。

鼻を鳴らすと、目線が私に戻る。

「ん?どうした?」

そういってバスタオルを手に取り、ワレモノを扱うかのような手つきで優しく私を包んで髪の毛の水滴を丁寧にとってくれる。

「…うん、詰め替えにイライラして」

「リンスの詰め替えしてくれたんだ、ありがとう」

鼻声で返事を返すとふわっと笑いかけられそのまま彼の腕の中へ閉じ込められた。

「ねえ、まだ濡れてるよ」

「いいんだ」

私の頭を優しく撫でる手は大きくてあったかかった。

「風邪ひいちゃうね、もう1回湯船につかっておいで。暖かいココア入れておくから」

「うふふ、甘いのがいいな」

もうここに君はいない。

ここにはいない君の豪快な笑い声が背から聞こえた気がした。

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