日付が変わり8/10 am2:14

「あなたが振りまいた憂鬱は一生残るよ」

タバコの煙を吐き、ルージュをのせた唇が宝石のように光って彼女が私の目を真っ直ぐとらえながら、そう言われたのを薄くなった敷布団の上で思い出した。

私が振りまいたゆううつ。

衝撃だった、そう言われてなんだかショックで、すごくショックで涙を流しながらごめんなさいと言ったのを覚えてる。

取り返しのつかないことをした後にごめんなさいと言うのは間違っている、赦しをもらえる前提で言ってるようなものでじゃあ最初からするなという話なのだ。

そう思っていたくせにすんなりと言ってのけた、なんて卑しいのだろう。自分の意思も守れないくせにどうやって目の前の彼女を守ろうとしていたのか、不思議でならない。

「いや別に謝ることじゃないんだけど。あー違うそうじゃなくて、言い方が悪かった。あなたの憂鬱も忘れないよって話ね」

ティッシュで垂れてきた鼻水を乱暴に拭いてくれる、「私が泣かしたみたいじゃん、やめてよ」と真っ赤なマニキュアが丁寧に塗られたか細い指先で涙を掬った。

気づいてしまったのだ。誰かにあーだこーだ罵詈雑言を吐き、1日泣き喚いて目を腫らした後あれはなんだったのだろうとその問題が解決してもその人には私の憂鬱の破片が残ったままということを、刺さったままだということを。

「それって悪いことだよね」

「悪いこと?なにが?」

「だって、その憂鬱が君に移ってしまったらどうするの、蝕んでいったら」

「あーっ。またそうやって考える、あなたの悪い癖だよ。移ることもないし蝕んでいくこともない、ただ私が憂鬱になってしまったらあなたに聞いてもらうよ。それを受け取ってもらって優しく温めてもらえればいい。私が傷ついて泣いてたってこと忘れないでくれたらそれでいいの」

ああ、そっか。私の憂鬱だって忘れないと言った彼女にその破片が残って、肩代わりしてくれてるんだ。優しく温めてくれてるんだ。そう思ったらまた涙が出た。

「あなたにしか、私にしか出来ないことなんだからね」

ずっとひとりでいる気でいた。彼女にそう言われ誰かによって憂鬱から助けられていること、確かにひとりじゃないということに気がついた。

そんなことを思い出して目を瞑る午前3時。

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