月
◇USBに残されたデータ◇
◇私小説を書こうとした痕跡◇
ふと、見上げた空は夜とは思えないほど明るかった。
町に備え付けられている街灯の所為ではない、下から照らされているのではなく夜空で夜を照らしていたモノが在ったからだ。
それは月、夜空で居る分には十分すぎる輝きを持ったものだった。
空が暗くて解らないが月に雲がかかってない分、月の輝きは夜歩く者の気を引けるほどに強かった。
月は太陽ほど強い光を放っていない、だからこそ月に心を奪われる人も居るのだろう。そして、強い光を放ってないが故に気が付いた。
(この月は完璧ではない)
月の下を見るとほんの少し欠落していた。だが、完璧である必要もないと私は思った。
(完璧であったとして、何が変わる。光の面積が少し増えるだけじゃないのか。)
完璧である必要はない。完璧な月ほど美しいものはないと歌うものも居るが否、完璧でないからこそ今、私は月から目が離さないでいるのではないか。
金色に輝く月、私は黄金の出す金色と呼ばれる色は嫌悪するほど嫌いだ。人間の欲望の深さをそのまま表しているようだから。それだから、私は月の金色が好きなのかも知れない。人間にはないような柔らかい、色――――。
気が付くと私は月に手を伸ばしていた。そして思考する。
(何故、今更こんなものを求めている。)
月を見ているうちに気が付く。身を引いたような穏やかな大人しげな光は人を誘うと、それは妖艶な様子も齎しており、人を誘うが人を寄せ付けず人と必要以上の関わりを持たせない、人が求めるが人に踏み入らせさせないそんな存在であると。
私はもともと人が普通といえるような者だった。
人と関わりを持ち、人に求められるのが好きで、人が自分を『人気者』と呼ぶ時を待っていた事もある。それは人には当たり前の欲だった。そのための努力はしたつもりだ。それでも、他人には敵わず平凡なこどもになっていた。
そんな中、自分の自慢は記憶力だった。
人より早く、多く覚えられ、神経衰弱をしても負けなかった。それにより、私は『人気者』ではなく『すごい人』となっていた。
育って行くにつれて、面白くても『人気者』にはなれると知った。だから私は、その時一番簡単だった自分の呼び方を変えて笑いをとる方法をとった。
呼び方を『私』から『わし』へ、『わし』から『俺』へと変えた。それから、その呼び方に合う性格や言動はもっと人を引き付けると解った。だから私は男のように振る舞い、喧嘩にも強くなった。皆が私のことを見ていた。
でも、何時からか私は人を避けるようになった。人と関るのが嫌になった。
『人気者』
憧れがなくなったわけではなかった。
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