第43話 新たな旅立ち

 ◇それから数年後。王都から離れたかつて貧民街があった場所


「やはり、ここにいたのかアキレウス」


「モルドレッドか、この国を旅立つ前に改めて皆の墓参りをやっときたくてな」


 魔王討伐後。俺とモルドレッドの願いが受け入れられて故郷であった貧民街があった所に霊園と教会が作られた。

 かつて過ごした貧民街の面影は無く。綺麗に整備された様子が何だか寂しくもあった。


「しかし、アキレウス。昔から夢見ていた将軍職を辞退して旅に出るなんてどういう心境の変化だ?流石のパリス王子も凄く驚いていたぞ」


「ははは。あのパリス王子が驚いた顔は凄かったなぁ」


「お前な~こっちは心配して言っているんだぞ。せっかく念願の地位も名誉も手にいれたのに。それを手放すなんて一体何がしたいんだよ」


「う~ん。何というか一言で言ってしまうと自分探しだな」


「自分探し?何でまた突然に?」


「突然ではないよ。この街が襲われた時からずっと考えていた事だ。何で俺は奴らと同じ召喚術が使えるのだろうか?俺は一体何者なのだろうかってさ」


 魔王軍との戦いを通してその答えを得る事ができるのかもしれないと思っていた。しかし、魔王を倒してもその答えまでには至らなかった。


「もう少しトロイ王国で考えてからでも良いんじゃあないか?せっかく平和になってゆっくりと調べものもできる環境になったんだ」


「この数年の間にソロモンとあらゆる資料を見たけど、何も目ぼしい情報は見つける事は出来なかった。だから多分、俺のルーツはトロイの外にあると思うんだ。お前の時のフレイム神殿みたいにな。それに…」


 それにこれは直感でしかないのだが、俺のルーツ次第ではトロイ王国この場所にいるのはあまり良いとは思えない。アガメムノンのあの言いぶり、もしかしたら俺は恐らく…


「あぁ、分かった、分かった。要するにお前のその決意は固いんだな。なら俺もその旅につれていけ」


「はい?え~ついてくるの?お前が!?」


 モルドレッドの予想外の発言に俺は久々に驚きの声を上げた。


「何だよ。俺が一緒だと嫌なのか?傷つくな。親友だと思っていたんだが…」


「いやいや、めちゃくちゃ嬉しいよ。でもお前って活躍が認められてトロイ王国のめっちゃお偉いさんポジション与えられていなかったけ?」


「お前がそれを言うか!?何となくこうなると思って断ってきた。俺はやっぱりこのトロイ王国よりも親友であり家族でもあるのがお前の方が大切だから。まぁパリス王子には悪い事したかな。流石に二人目からは呆れ顔だったな。ははは」


「ありがとう 。お前がついてくれるなら心強いよ」


 俺は泣きながらモルドレッドの手をとった。

 正直、旅をすると決意をしてはいたが寂しい気持ちはあった。だけど俺のわがままに誰かを巻き込むのはいけないとその気持ちを押し殺していた。その気持ちが今、思わず溢れだした。


「おい、おい。大袈裟な奴だな~。そんなんじゃあこの先が思いやられるぜ。それに俺だけでなく、もう一人いるみたいだぜ」


「えっ」


「おい、連れて行けって言ってきたクセにいつまで隠れているんだ」


 モルドレッドがそう叫ぶと木の影から見知った女性が姿を現した。


「あわわわぁ、だって、最近会ってなかったから緊張しちゃって。それに君達だけで雰囲気が良すぎて入りずらかったんだよ!コミュ障の私でなくてもハードル高いよ」


「ソロモン!引きこもりのお前が何でここに?」


「うわぁ、いきなりきつい。事実陳列罪で死刑だよそれ。せっかく私もアキレウス君の旅に同行してあげようと思っていたのに~」


 ソロモンの見え見えの心にもない言葉に対し、俺はつい意地悪で困った態度をとってソロモンの反応を見て見たくなってしまった。


「えっ!ソロモンもついてくるのか?それはちょっとなぁ…」


「そんな~。お願いします。連れていってください。邪魔しませんから。もうパリス王子に啖呵を切ってちゃったんだよ。今更、恥ずかしくって戻れないよ~。それに親友を見捨てる何て酷いよ」


「冗談、冗談だから。嬉しいよソロモン」


「もう、アキレウス君のバカー。こんな時までからかう何て信じられない!」


 意地悪が過ぎたかな。へそを曲げてしまったようだ。しかし、思っていた反応と少し違ったな。

 昔だったら(そうですよね。私の様なコミュ障はお邪魔でしたよね。失礼しました。退散します~)ってな感じで直ぐに引き下がっていたと思うんだけど、今はぐいぐい食いついてくるもんな。

 やっぱり変わっていないようで変わってきている。それは多分、俺も。


「二人とも本当にいいのか。当てのない旅だぞ?」


「アキレウス(君)とならきっと楽しめるから大丈夫(だ)」


「ありがとう二人とも!!」


 俺達の新たな旅はまだ始まったばかりだ。望んだ答えにたどり着ける可能性は低いかもしれない。だけど、この仲間達とならどんな事でも乗り越えられる。そんな明るい気持ちでの幕開けとなった。



 完


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る