第42話 決戦

 戦況はトロイ側がかなり不利であった。

 エキドナと一体化したアガメムノンは俺の召喚術よりも遥かに効率良くモンスターを召喚できる様でモンスター同士の戦いはこちらが数・質ともに負けている。将達の奮戦が加わって何とか持ちこたえている状態だ。


「召喚が追いつかない。クソ、何でだよ。皆に龍脈を制圧してもらっているのに情けない」


「君が弱いわけではない。あのエキドナの能力がでたらめ過ぎるんだよ。まずは落ち着いてア自棄やけになってはダメだ」


「分かっている。分かっているけど…。こんなのどうすればいいんだよソロモン!勝ち筋が全く見つからないぞ!」


「………」


 あぁ、情けない。ソロモンに当たってしまった。互いに自立したつもりでいたのにな…。

 ここまで一緒に頑張ってようやく魔王アガメムノンとの決戦まで来たのに。

 ここに来てなすすべなしなんて…


「アキレウス君。召喚術を一旦抑えて」


「えっ」


 パリス王子の思わぬ言葉に俺は驚き固まる。


「このままではじり貧だ。だから敵総大将アガメムノン一点狙いでいく。僕と兄さん達で道を切り開くから君の残っている力を全部、あいつにだけぶつけるんだ!」


「パリス王子…。しかしそれでは味方がもろに敵のモンスターの被害に…」


「言いたい事は分かるよ。でもこれしか方法はないんだ。

 モルドレッド、ソロモンはアキレウス君のサポートを頼むよ。他の皆は僕と兄さんと共に道を作るのを手伝ってくれ!」


「待ってくださいパリス王子!俺、正直、勝てる自信が…」


「大丈夫。自信を持つんだ。僕の見立てなら君はアガメムノンやエキドナ何かよりもずっと凄いよ。それに今までもこんなピンチを何度も乗り越えて来たじゃあないか。君たちなら今回も逆転の手を思いつくと信じているよ」


「しかし…」


「アキレウス君は僕やモルドレッド、ソロモンも信じられない?」


「それは……」


「うん、それじゃあアガメムノンに本当の仲間の力っていうのを見せてやろうじゃあないか」


「本当の仲間…」


「そうだ。アガメムノンは大群のモンスターを扱っているが、実際のところは奴一人なんだ。その違いに勝機があると僕は思う。さて、偉そうな御託ごたくを並べたけど後は君達に賭けるよ」


「いくぞ、アキレウス。やるしかないみたいだ。大丈夫。お前ならやれる。俺もお前を信じてる!」


「怖いけどアキレウス君の為なら私も頑張るよ。こうなったらモンスターの使い方は私達の方が上手うわてだというのあの魔王に見せてやろう!」


「モルドレッド、ソロモン。あぁ、そうだな俺たちなら魔王にも負けない」


「よし、決意は固まったようだね。それじゃあいくよ。『太陽神の神罰パニッシュメント・アポロン』」


「思うところはあるが、今はお前達と弟の目を信じよう。託したぞ。『戦神の咆哮ロアー・アレス』」


 二人の王子から放たれた凄まじい威力の矢と槍が大型のモンスター達でさえ弾き飛ばす。そして更に兵士達も今まで以上に死に物狂いでモンスターに攻撃を仕掛ける。

 そして魔王アガメムノンへの直線での道がわずかな瞬間ではあるが生まれた。後ろ髪を引かれる思いを何とか振り切りながら、モルドレッドを先頭に俺達はアガメムノンへと走り出した。


「フッ、少しは考えたようだが無駄な足掻きだ。われと貴様らとは能力の差がありすぎることを身をもって知るがよい」


 アガメムノンは近づいて来る俺達を見ると再び片腕を上げモンスターを召喚しようとする。


「させるかー!『火龍の炎息ドレイク・ブレス』」


「ちっ、小賢しい虫が!『戦の女神の盾アイギス・アテネ』」


 アガメムノンは上げかけていた片腕を向かってくるモルドレッドに向けて兵士達を石化させた魔術を発動させようとする。


「モルドレッド。大丈夫だからそのまま攻撃をして!」


「おう!」


 モルドレッドはソロモンの言葉に従い怯むこと無く、アガメムノンに攻撃を与えた。片腕に大きな傷ができる。あの傷では召喚の為に腕を上げるのも辛そうだ。


「ぐわぁぁぁ。馬鹿な石化しないだと!ありえん」


戦の女神の盾アイギス・アテネ。少しでも恐れを抱いた者を石化する魔術だよね。モンスターや魔人しか使い手がいない珍しい魔術。専門外だけど勉強しておいて良かった~」


「馬鹿な仮に知っていたとしても全く恐れを抱かないなどそう簡単な事では無いはずだぞ!現に先程の兵達は勇敢であったが石化した。貴様には恐怖心というのが無いのか?」


「正直怖いさでもそれを乗り越えれるぐらい

 信頼している仲間がいる。だから1人で戦うお前なんて怖くないのさ」


「減らず口を!不敬者め、モンスター共で押し潰してやる。ぐっ」


 再びモンスターの召喚を試みようとしたアガメムノンは後ろから強い衝撃を受けて体勢を崩す。


「これは…カリュドーンのイノシシか…」


「あぁ、残念ながら俺が召喚したモンスターだ。お前は誰よりも召喚術が簡単にできるらしいが、それでもある程度は集中する必要があるんだろう。

 分かるぜ。召喚するモンスターをイメージするのって大変だもんな!俺も一緒に戦ってくれる仲間がいなければスライム一体だって出せねぇからな」


 そう、たとえ奴が召喚術で多くの モンスターを出せるとしてもそれは単なる烏合の衆にすぎない。

 奴一人で召喚も、その後の判断も命令もしなくてはならない。結局のところ俺達に対し敵は魔王アガメムノン一体なのだ。

 だからこうしてこの様に仲間と連携して絶えず攻撃を仕掛け、奴に一切の隙を与えなければ数の差があっても簡単に崩すことができる。


「追い討ち行くぜ」


 俺はステュムパリデスの群れを追加で召喚し、更に撹乱かくらんさせる。案の定。アガメムノン飛び交うステュムパリデスに集中力が削がれているようだ。あとは隙をついてモルドレッドの強力な攻撃をまた当てさせる事ができたら勝てる。そう思った時…


「いい気になるなよ虫けら共。『戦の女神の剣ソード・アテネ』」


 突如としてアガメムノンの周りに多数の刃現れてが舞う。そこから凄まじい斬撃が発生した。それによりモルドレッドと俺が召喚したモンスター達が遠くへ弾き飛ばされてしまう。


「ぐっ…」


 しかも運の悪い事に打ち所が悪かったらしくモルドレッドは気絶してしまった。


「ふっははは。残念だったな虫けら共。惜しかったがこれでもう我に近づく事さえできまい」


 アガメムノンが痛みを我慢しながらもゆっくりと片腕を上げようとする。マズい!今、奴にモンスターを召喚されたらまた奴に接近する事さえ難しくなる。せっかく皆が作ってくれたチャンスが無駄になってしまう。

 俺は気づいた時には無謀にもアガメムノンに向かって駆け出していた。

 どうするべきか?召喚術で食い止める?いや、間に合わない。手持ちの武器で攻撃する?ダメだ。俺の剣ではダメージを与えるどころか気を引くのすら難しい。


「くそ!!」


 どうやっても詰みだ。アガメムノンは向かって来る俺を見ながらも全く気にしていないようだった。俺一人では何の脅威でもないと認識しているのだろう。

 悔しい。敵の気を引くことさえもできないなんて。結局、俺自身は雑魚のままかよ。

 あぁ、いつか夢で見た黄金の剣でもあれば少しは変わったのかな…。

 情けない事に俺はすっかり弱気になり、こんな状況にも関わらず、そんな下らない事を考えてしまった。


「まさか貴様それは!」


 アガメムノンの瞳孔が今まで無いぐらいに開き、動きが止まる。何かを見てひどく驚いているようだった。


「これは…」


 気づくと俺の手には夢で見た黄金の剣があった。その剣を見た瞬間俺の脳内に突如としある言葉が浮かぶ。俺は戸惑いながらもその言葉を叫びながらアガメムノンに切りかかる。


「俺に力を貸せ我が共鳴獣シンクロモンスタークリューサーオール!!」


 その言葉を叫んだ瞬間、黄金の剣から目映まばゆい程の光の刃が伸びアガメムノンを貫いた。


「ぐっ…力が入らない。エキドナの力もろとも剣に吸収されているのか…?

 なんと言うことだ。我に歯向かった者の子孫にその力が宿るなど…。あぁ、神はなんと残酷なのだ…」


「子孫?おい、それはどういう事だ!俺は一体…」


「ふっ…教えてやるものか。せいぜい悩み苦しめ。貴様の地獄はこれからかもな?我は冥府でそれを待つとしよう」


 アガメムノンはそう言い残し、光の粒子となり黄金の剣の中に消えていった。それと同時にアガメムノンが召喚したモンスター達も消えていく。

 勝った…。敵の総大将、全ての元凶をこの手で倒したのだ。

 しかし、何だこのすっきりとしない感じは…アガメムノンは俺の一体何を知っていたんだ?そもそも俺は何故、奴らと同じ召喚術を……


「ア・キ・レ・ウ・スくーん!!」


「ぐっふ」


 俺のその思考は突然のソロモンの全速力突撃により飛ぶ。


「クリューサーオールってマジか、マジかよ。見せて見せてグヘヘヘ、文献にもほとんど情報がない伝説中の伝説のモンスターをこの目で実際に見られるなんてなんたる僥倖ぎょうこう。あ~私は今、最高に幸せだ~」


「ソロモン、痛い。見せるから落ち着いてくれ。危ないだろ」


「うわぁ、まさか謎のモンスターであるクリューサーオールの姿が黄金の剣そのものだったなんて!いやぁ~、これは衝撃的過ぎる事実だ。今までのモンスターの常識が変わるぜ!!フゥー」


 最近は落ち着いていて忘れていたけど、ソロモンは珍しいモンスターには目が無かったんだった。今までの緊張状態が続いてから抑えられていたのが今、一気に解放されたのだろう。俺の声も届かず、クリューサーオールを凄いキラキラした眼差しで見ている。

 その様にわちゃわちゃしている間にモルドレッドやパリス王子、ヘクトール王子も俺の近くに駆け寄ってくる。


「すまないアキレウス。肝心な時に役に立てなくって、結局最後はお前一人に戦わせてしまった」


「気にするなよモルドレッド。お前のお陰でアガメムノンに接近する事ができたんだしな。お前の与えたダメージがあったからこそ何とか間に合った。

 そもそもみんなの力が合わさっての勝利だ。俺一人じゃあ何も出来なかったさ」


「うん、うん。いいこと言うなアキレウス君は。その通りだ僕達トロイ王国の勝利だ。

 トロイ王国の脅威である魔族は滅んだ。これで長き戦いの日々が終わる。つまらない反省や難しい事は無しにして今は共に喜ぼう」


「見事であった。トロイ王国の王子として感謝を述べる。ゆっくりとと貴様達の活躍を称えたいのだが、勝ったとはいえど今だ戦場だ。

 まずは各部隊にこの事を伝え、完全にこの地を制圧するのが先だ。すまないが、もうしばし働いてもらうぞ」


「あ~もう、兄さんはこんな時でも相変わらず固いなぁ~。でもその通りか。早くこの事をトロイ王国で待っている皆にも伝えたいしね。

 それじゃあ、悪いけどもう少しだけ頑張ってくれ!帰還したらその分、思い切りお互いに喜び会おう。その時は固いの無しで無礼講ではしゃごうじゃあないか」


「おー!!」


 兵士達は疲れ切っていたがパリス王子のその言葉を聞くと再び活気を取り戻した。

 そうか、これで本当にトロイ王国に平和な日々が訪れるのか…。これで俺はようやく皆のかたきを討つことができたんだな…。そう思うと涙が溢れそうだったが何とかこらえた。

 今は泣いている場合じゃないな。皆を困らせてしまう。この涙は故郷に戻った時にまでとっておこう。


 その後トロイ王国軍は魔王城の中心部にあった龍脈も制圧し、場内に蔓延はびこっていたモンスターの排除も完了した。これで二度とモンスターの被害に会うものはいなくなるだろう。

 そしてそれらの事を無事に終え、俺達はトロイ王国へと勝利の凱旋がいせんを果たした。

 正真正銘トロイ王国の完全勝利の結末に王都は歓声に包まれた。今回の魔王討伐で活躍した者は皆、勲章などが惜しむことなく与えられた。まさに大英雄扱いであった。

 勿論もちろん俺にも多くの報酬や将軍への推薦の話が来たが…

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