第41話 魔王復活

 東と西の両方の龍脈の制圧に成功した俺達はいよいよ魔王城中心部に足を進める。

 その途中でモルドレッドの部隊に合流。グラウコスの部隊は西の龍脈の守護としてその場に留まったらしい。


火龍の炎息ドレイク・ブレス


 モルドレッドを先頭に突き進む。精霊の力を完全に制御できる様になったモルドレッドの前では並みのモンスターでは相手にならず、どんどんと進んでいく。

 また龍脈を2つ一気に失った事で魔王軍のモンスターのが弱体化している様にも感じられた。今や勢いは完全にこちらにある。

 このまま何事もなくトロイ王国軍が完膚なきまでに勝利すると誰もが思い始めた時


 ドッ


 あまりにも桁違いな魔力をこの場にいる全員が感じ動きが止まる。それは徐々にこちらに近づいている様だった。敵も味方も関係なくその魔力の出現元に目線がいく。


(馬鹿な2つの龍脈を制圧しているこちらがおくする程の圧。何なんだ。しかも気配からすると単体だと…)


 その魔力の持ち主が敵のモンスターの群れから姿を現す。


「女…?」


 誰もが己の目を疑った。姿を現したのはこの場に似つかわしくない美しい女性だった。しかし、瞬時にその魔力と雰囲気、怯えるモンスターの様子からこの女性がただ者ではないと誰もが察する。


「我が名は魔王アガメムノン。今しがた目覚めたばかりだが、何だこの不甲斐ふがいない惨状は。

 守護獣ガーディアンおろか、将も役立たずとは。よもや我が直々にこの下等生物共の相手をする羽目になるとはな。怒りが収まらぬよ」


「えっ…この女が魔王アガメムノンだと…」


 女の口にした言葉に誰もが耳を疑った。まさか、恐るべき魔王の姿が女性とは誰もが思ってもいなかったのだ。だがこの魔力にこの圧力。冗談でも間違いでもなく、この眼前の女が正真正銘の魔王なのだろう。


「怯むなー!敵の総大将が目の前にいるチャンスだ。かかれー!」


戦の女神の盾アイギス・アテネ


 アガメムノンがそう呟くと飛びかかっていった最前列の兵士とモンスターが一瞬で石になって固まってしまった。


「虫けらが寄るな。うじゃうじゃと鬱陶うっとうしい。仕方ない本当に業腹だが、我の本気で一掃してやる。光栄に思いながら死ね下等生物共。現れよ共鳴獣シンクロモンスター


 アガメムノンの体が黒い光が放たれる。その闇よりも深い黒から巨大な何かが這い出てきた。それは上半身は絶世の美女であったが、下半身はおぞましい悍ましい巨大な蛇の体であった。


 その姿を見たソロモンが震え出す。いつもの好奇心に心震わせている様子ではなく、心の底から恐怖している様だった。


「これは…伝説の中の伝説のモンスター。エキドナ!?だとしたらチートにも程がある!」


「ほう、小娘にしては詳しいな。いかにもお前が言うとおり我の共鳴獣シンクロモンスターのモンスターの名はありとあらゆるモンスターの母であるエキドナだ。恐れおののけ下等生物共。」


「怯える事はない。強敵であろうと数ではこちらが優勢だ。アガメムノンを倒せば終わりな事には変わらない!」


「そうだ。総大将が出てくるチャンスなんて滅多にないぞ」


 兵士達はその重圧と恐怖で足がすくんで動けなくなりそうなのを声を掛け合い勇気を振り絞る。


「お前らは馬鹿か?召喚術の前では数の差は意味がない。特に我とエキドナの前ではな。エキドナ!貴様の力をこの下等生物達にも分からせてやれ」


「Aaaaー、Aaaaーー」


 エキドナが美しい咆哮ほうこうをあげると辺りに沢山の魔方陣が浮き出てきた。

 そしてその魔方陣から大型のモンスターが姿を現し始めた。

 数えきれない程の首を持つドラゴン、以前戦ったカリュドーンの猪も上回る程の巨躯の猪、巨大な獅子の体に鷹の様な翼と人間の女性の顔を持つモンスターなどいずれも守護獣ガーディアンクラスいや、それ以上の存在だと感じる。



「ありえない龍脈の大半はこちらが制圧しているんだぞ。これ程のモンスターをしかも複数召喚する魔力は相手にはないはずだ!」


 あまりにも信じられない光景に俺は思わず叫んでしまった。


「むっ、お前はそうか…。そうなったのか。特別に教えてやる。エキドナは少ない魔力でモンスターを呼び出す事が可能なのだ。

 何しろ召喚術のシステムの大元はこいつだからな!」


「なっ!」


「エキドナの能力はあらゆるモンスターを産み出すというものだ。寛大な我はこの能力を術として作り直して臣下達に与えたのが召喚術の始まりだ。

 まさかそれが我自身に牙を剥く事になるとは思いもしなかったぞ。やはり力なき者達に過ぎた物を与えてはいけなかったか」


「待て、どういう事だ。つまり俺は…」


「うるさい、もう面倒だ。貴様も他の役立たずの魔族もどうでも良い。好きにしろ。

 長い眠りの間でようやく気づきいた我人身一人いれば良いのだ。他など信じられぬ。

 エキドナ!!お前の力も全て我によこせ!『共鳴融合シンクロフュージョン』」


 エキドナの巨体がアガメムノンに勢いよく吸収されていく。邪悪な黒い光が辺りを包む。

 その光が収束する。そこに立っていたのは蛇のうろこをもった美しい女性だった。


「あれが…エキドナの一体化したアガメムノン…」


 美しい、美しいが…それ以上に禍々しい。膨大で邪悪な魔力の塊そのものだ。寒気がする。吐き気がする。


「ふむ」


 アガメムノンが片腕を上げる。すると先程エキドナが咆哮ほうこうをあげた時と同様に沢山の魔方陣が浮き出し、そこからモンスターが現れる。


「モンスターと一体化しながら召喚術を!そんな事が可能なのか?」


 機嫌が良いのか意外にもアガメムノンは俺の疑問に答え出した。


「他では無理だな。我とエキドナだからこそできるのだ。

共鳴融合シンクロフュージョン』は肉体は飛躍的に強化されるが、一体化したモンスターの情報に粗方あらかた、変わってしまうからな。元からの魔術はともかく後付けの魔術、魔力は消えてしまう。故に召喚術が使えなくなる。

 だが、召喚術の元になったエキドナの力は別だ。こちらがオリジナルだからな。むしろ今まで以上に簡単にモンスターの召喚ができるぞ。ふっははは。これで皆殺しも苦労しないな」


 その目ににらまれて足がすくむ。俺は完全に魔王軍を追い詰めたと思っていた。しかし、この魔王は単独でも状況を変えるだけの力がある。その圧倒的な力を前に絶望と恐怖が湧き始める。

 こんな奴とどう戦えば…。そう思いかけていた時、後方から物凄い足音が聞こえる。


「パリス軍本隊、へクトール軍本隊が到着したぞ!!」


「皆、よくここまで頑張ったね。相手は絶望したくなる程の強敵だが、僕達はそんな強敵を今まで倒してきた。それにアガメムノンさえ倒してまえば全てが終わる。だから今回も僕と乗りこえていこう!」


「我が愚弟の言うことは少し楽観的だが一理ある。長きに渡る戦い苦しみをここで終らせよう。我々が追い詰めたのは間違いない。奴自ら出たのがその証拠だ。

 それにトロイの脅威であるこいつを野放しにはできないだろ。ここが踏ん張り時だぞトロイの英雄達よ!」


「おーー!!」


 二人の若き王子のげきにより絶望の色が希望に変わる。

 そうだ。ここまで来たんだ。こいつを倒せば全て終わる。故郷を焼いた憎き元凶が目の前にいるんだ。これ以上の悲劇が起こらない様にこいつはここで倒す。


 ついにトロイ軍、魔王軍としての最後の戦いが始まった。

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