第38話 魔王城

 トロイ王国は遂に魔王アガメムノンの根城がある領地への進軍を開始した。今回は何とヘクトール軍とパリス軍の両軍で魔王軍と戦う。ここまでの大規模な進軍は今までにない。まさに総力戦だ。

 ヘクトール軍は大将ヘクトール。副官はそのヘクトール弟のであり、信頼の厚いデイポボス。そしてそれに加えて魔人アイアスを相手に激しい戦いをした猛将サルペドンの弟分であるグラウコス。ヘクトールに対して様々な助言をしてきた知将プリュダマスを将としてひきいている。

 俺達パリス軍に関しては今まで通りの構成である。大将パリス。副官アイネイアス。参謀ソロモン。そして前線を率いる将としてモルドレッドとペンテシレイア。そしてモンスター部隊の俺、アキレウスってな感じだ。


「これが魔王城…なんて凄い魔力なんだ」


 魔王城を目の前にして俺は驚愕きょうがくした。禍々しい城の様な物が建てられており、そこから膨大な魔力の流れを俺でさえも感じる。恐らく。これまで制圧してきた土地以上の龍脈があるのだろう。


「アキレウス殿も感じますかこの膨大な魔力の流れを。流石は龍脈の知識がある魔族の主が根城として選んだ土地ですね。しかも周りの土地からも無理矢理魔力を引っ張ってきている見たいですね。ここに来るまでに枯れた土地が多かったのはその影響でしょう」


 成る程、アイネイアスの言葉を聞き納得がいった。土地によって龍脈の大小はあれどここまでの差があるのは見た事は無かった。自然的な龍脈に更に手を加えて流れを大きくしたというわけか。川でイメージすると分かりやすいな。他から水を引っ張って来てここで塞き止めている感じか。

 しかし、本当に凄い魔力だ。俺等の総合魔力量を上回っているんじゃあないか?

 この膨大な魔力と禍々しい雰囲気に兵士達の間に恐怖感が広がる。


「皆、今回はヘクトール兄さんとの軍と協力して戦うけど、基本的にはいつも通りだ。まずはアキレウス君の召喚術で出したモンスター部隊で攻撃を仕掛ける。そしてそれに続いてこちらからはペンテシレイアの部隊、ヘクトール兄さんの軍からはグラウスコの部隊が突撃する。

その後は敵の動きなどによって戦法を変えていく。これが最終決戦だ。魔王軍に苦しめらるのもこれまでだ。敵は強大だけど大丈夫。僕は負けない。それに兄さんもいるからね。今回ばかりは僕も怒られないように気合い入れていくぞー!」


「「おー!」」


 流石はパリス王子。禍々しい空気に飲まれて下がりはじめていた兵士達の士気を一気に上げ直した。

 そうだ。魔力量で負けていたとしても俺には力強い仲間達がいる。それにこれまでの戦いのほとんどがこんな逆境の中での戦いだったじゃあないか。

そんな中でもこの軍は勝ち続けてここまで来たんだ。びびることは何一つない。いつも通りやるだけだ。


「よし、まず同上空からハルピュイアで偵察と城壁の上の敵部隊の撃破を行う。そして地上からはサイクロプスとオーガの部隊を前進させて城壁を壊させる。これが成功したら各部隊が続いて」


「うん、アキレウス君もかなりさまになったもんだね。これは私の出番はないかも」


「こんな時までそんなふざけた態度をとれる度胸に感服するよソロモン。何かあったら頼りにするからサボるなよ」


「そうだね。平和な引きこもり人生を謳歌おうかするために私も頑張るか」


 これまでの戦いなどを通して俺とソロモンの掛け合いも最初の頃とはかなり変わった。

 出会った時はこんなに皮肉を言い合える仲になるなんて思いもしなかった。

 まぁ、短い期間だったけど色々な事があったからな~って思い出に浸っている場合じゃあないな。状況を確認しながらモンスター達をちゃんと動かさないと。


「GAaaaaー」


 先行したモンスター達の悲鳴が聞こえる。どうやら城壁の上にエルフやケンタウロスなどの弓が得意なモンスターを配置していたらしい。放たれる矢の雨により上空からハルピュイアは勿論の事、地上のサイクロプスとオーガの部隊も城壁にまで接近できない状況だ。


「やっぱりそう簡単にいかないみたいだな」


 諸説はあるが本来、力攻めで城を落とすとなると数倍の兵力が必要となる。それだけ城攻めというのは大変な事だとアイネイアスから説明を受けていた。

 敵である魔王軍にとっての兵力そして兵糧は魔力の源である龍脈と言えるだろう。それが今、攻めている土地となれば残念な事にそれを上回るのは困難である。

 なので策が必要だ。この異常な戦いを制する為にソロモンと考えてきた策が俺達にはある。


「一旦、下げる。だけど直ぐに仕掛ける」


 俺はサイクロプスとオーガ達を下げながら、その策の為の新たなモンスターの召喚を開始した。召喚したのは俺が初陣の時に召喚した宙に浮く火の玉のモンスターと船を襲われて苦戦した事がある金属の部位を持つ鳥のモンスターであるステュムパリデスだ。

 こいつ等を城壁の上に向かわせる。敵は再び矢を放って来るが先程のハルピュイアとは違い簡単に撃ち落とす事ができない。更に火の玉のモンスターにより城壁に火が着き始める。その火は小火ぼや程度ではあるが放置すれば致命的になる。

 この二種類のモンスターにより城壁の上にいる弓兵達は混乱し、矢の雨が弱まり始めた。


「よし、再び突撃だ。今度こそ城壁の扉をこじ開けてこい!」


 その様子を確認しながら再度サイクロプスとオーガの部隊を向かわせる。今度は何とか城壁の扉の前まで辿り着く事はできた。しかし、扉を破壊しようとすると見えない壁に武器が弾かれてしまい。扉を破壊する事ができない。


「魔術による防壁ですね。しかもモンスターの攻撃も弾く強力なもの。これは私が行って解除しなければ」


「その必要はありません。アイネイアス様。すでに手は打ってありますので大丈夫です。うん、タイミングばっちりだ」


 突然、城壁の門が開かれる。城壁内に侵入したモルドレッドと数名の精鋭が魔術のかかっていない内側から門を開放したのだ。


「おぉ、お見事。しかしどの様にしてモルドレッド殿達は閉ざされた城壁の中に侵入したのですか?」


「事前にドワーフ達に城壁の中に通じる地下通路を掘らせておいたのですよアイネイアス様。混乱に乗じてそこからモルドレッド率いる精鋭部隊を送りこんだのですよ」


「これまでの戦いの経験が余すこと無く活かされていますね。感服致しますアキレウス殿」


「いやいや、ソロモンや皆のお陰ですよ。俺一人の考えや力では無いです」


「それもアキレウス殿の人柄と勤勉さがあってこそですよ」


「そうですかね?」


「そうですよ。アキレウス殿。貴方だからこそ、皆が協力したのです。始まりは召喚術という力を頼りにしただけかもしれません。

 ですが今はその力だけでなく、貴方自身に皆が希望を抱いているのです。これはアキレウス殿自身の確かな力であり成果です」


「あ、ありがとうございます。アイネイアス様のお褒めの凄く嬉しいです」


 うわぁ、ヤバい。嬉しすぎて感情がめちゃめちゃだ。返事も変な感じになってしまった。お堅い印象のアイネイアスからこんなに褒められるとは


「ふむ、どうやら無事にグラウコス殿とペンテシレイア殿の部隊も城壁を突破した様ですね。それでは私達も前線の指揮をとる為に前進を開始しましょう」


「そうですね。俺がモンスターの見える範囲に行かないと上手くモンスター達を動かせない。改めて護衛よろしくお願い致します。アイネイアス様」


「はい、任されました。責任重大ですね。それと今回はソロモン殿も同行するという事でしたが…本当に大丈夫ですか?」


「大丈夫、問題ないよ。ってか、その質問は今更過ぎるでしょアイネイアス!危険っていうのは百も承知だよ。だけどもうここまで来たのなら、この最終局面は何としてもアキレウス君と共に私も見届けるよ。それに珍しいモンスターも色々見れそうだしね」


「分かりました。覚悟があるなら止めはしません。それでは行きましょう」


 アイネイアスに続いて城内に入る。魔王軍との戦いの最終局面の幕は上がった。この総力戦を何としても勝ちに導く。俺を認めてくれた仲間の為にも

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