第37話 パリス王子の過去?

「今から20年前トロイ王国にヘクトール王子に続く見目麗しい新たな王子が誕生した。その王子こそが僕だ。

 新たな王子の誕生は直ぐに王都中に広まり、皆が喜び祝福したらしい。しかし、この誕生は直ぐに王宮内の大きな悩みの種となった」


「悩みの種?特段問題ない無いように思えますけど。後継者争いとかですか?」


「それがトロイ王国の第一王女であり、予言の神アポロンの神殿の巫女でもあるカッサンドラ姉さんが僕がいずれ国を滅ぼすという神託を受け取ってしまったんだ。

 しかもそれに加えて名の王ある王宮の占い師達も同じ様な結果を出して生まれたばかりの僕を殺す事を父である王に進言したりもしたんだよ」


「そんな事で王子を殺すなんてあるんですか!?」


 あまりにも衝撃的な言葉に俺は思わず叫んで勢い良く立ち上がってしまった。それにより隣にいたソロモンも驚く。その様子を見た見たパリス王子は思わず笑った。


「わっ!びっくりしたなぁ」


「あっ、ごめん。驚いてつい…」


「ハハハハ、アキレウス君はリアクションがいいね。お陰で僕も話をしていて楽しいよ」


 恥ずかしい。俺は赤面しながら座り直す。


「でも確かに私も最初に聞いた時はアキレウス君と同じ様な疑問を持ったし、それぐらい驚いたよ。ここ王都はアポロン神の信仰が強いみたいだね」


「そうだねソロモンの言う通りだよ。この王都は僕達王族の祖先がアポロン神の神託を聞きいて作り上げた国と伝わっているからね。王都での信仰は地方とは比べ物にならないぐらい強いね。

 今でもアポロン神の神託は政治や軍事に大きく影響している。その巫女の言葉となれば絶対的だ。しかも、国が滅びるって言うんだから王子であったとしてもその残酷な方法を選択するに十分だった」



「…そうなんですね。今の説明を聞いても正直、俺からして見れば理解しがたい事ですが」


 やはり、王都と貧民街では最早、住む世界が全く違う。物理的にではない感覚的な距離を俺は改めて感じた。


「アキレウス君は優しいね。まぁ、実際にこの予言には父である国王も頭を抱えた。

 結局、王として優し過ぎる父はアポロン神の予言であれ実の子を殺す決断ができなかったみたいでね。山奥に住んでいたとある羊飼いに僕を引き渡してかくまっった。

 表向きには僕が死んだと説明しながらね。そんなわけで僕は王子としてではなく、羊飼いの息子としてのびのびと育てられたのさ」


「成程、山で育てられたっていうのにはそんな経緯があったのですね。しかし、本当に凄い生い立ちですね。壮大な物語を聞かされているみたいです」


「改めて聞くと私も色々と新たな発見があるなー。

 こんな雑な方法でもパリス王子の死を皆が信じたのはトロイ王国の王プリアモス様の信頼度が高いからこそだね。王族、貴族だけでなく国民全体的に幅広く好かれているってのはやっぱり凄いね」


「その優しさのお陰で命拾いした身ではあるけど、僕としては我が父にはもう少しだけ王としての自覚を持って頂きたいものだね。

 今じゃあ、ヘクトール兄さんと僕に頼り切り何だもの。羊飼いをしていた時の方が楽だったかも」


 パリス王子はそう言いながら苦笑する。いや、照れ笑いだろうか。何だかんだ父親の事が好きなのかもしれない。少しばかり羨ましく思えた。



「それにしてもパリス王子はそれからどうやってトロイ王国の王子の地位に戻ったのですか?」


「よくぞ聞いてくれた。ここからようやく僕が活躍するところ何だ。それに僕自身が実際に記憶しているのもここからだしね。

 羊飼いとして育てられた僕は確かに王都とはほぼ無縁の生活をしていた。けれど、そんな僕の住んでいる山奥の村にでさえ王都の武道会の話は入ってきた。力に自信があり、生まれながら好奇心のかたまりの様な僕はその武道会に参加したくてたまらなかった」


 あぁ、その時のパリス王子の様子が目に見えるようだ。何しろ俺も同じ様な感じで武道会に参加したからなぁ。パリス王子も同じ様な時期があったのは何だか少し嬉しい。


「全ての事情を知っている僕の育ての親は当然、僕が王都に行くのを全力で反対した。最初は僕もその言葉に従っていたけど、ついに我慢の限界が来て家を飛び出して王都に行って武道会に参加してしまったんだ。

 今思うと我ながら手のつけられない子供だったよ。それでいながら何だかんだ実際に実力を持っていた僕はその大会で圧倒的な活躍をして優勝してしまった」



「もしかしてその所為せいでパリス王子の正体がバレてしまったのですか?」


「その通り」


 やっぱりか。王族と似ている顔つきの謎の美少年が活躍すれば確実に噂は立つし、良い成績を残した者を王が直々に称える事になっているからそりゃあそうなるよな。

 まぁ、事情を知らないパリス王子からして見れば気をつけようがないのだろう。そもそも正体がバレるって言い方もおかしい。何せ隠すつもりもないのだから。


「気付いたの王族だけならまだ騒ぎにはならずに隠蔽できたのだろうけど、武道会の参加者や観客含めて多くの人の中でいつの間にか噂になっていたみたいだよ。死んだはずのパリス王子が実は生きていたんじゃあないかって」


「うわぁ、ヤバい状況ですねそれは。王様が皆に嘘をついていたのがバレてしまうってのはかなり問題になりそうですし。何よりその滅びの予言を受けた王子が戻って来ているってなっているんですからパニックですよ。

 本当にどう切り抜けたんですか。全く検討がつかないです。……あっ、すみません。興奮してつい」


「アキレウス君も夢中になるとわりと回りが見えなくなるよね」


 パリス王子の話を聞いているうちに俺は前のめりになって余計な事をベラベラと喋ってしまった。恥ずかしい。ソロモンでさえ大人しく聞いているのに。しかもよりにもよってソロモンに指摘されるとは


「ハハハハ、アキレウス君は本当に面白いなぁー。大丈夫。気にしていないから。むしろ興味を持ってくれて嬉しいよ。

 アキレウス君の言った通り、騒ぎにはなったね。というかもう暴動の域だったね」


「そんなに…」


「皆からしてみれば騙されて裏切られたわけだからね。それぐらい怒るのも分かるんだけど、当時の僕からしてみればいきなり訳の分からない言いかがりをつけられる様なものだったから混乱したし、ムカついたよ」


 何も知らないパリス王子にも怒りの矛先が向くぐらい酷い状況だったのか。俺が想像していた以上だ。今のパリス王子の人気からは考えられない状況だな。


「僕もいっその事この訳の分からない状況に対する怒りに身を任せて暴れてやろうかと考え始めていたその時、魔王軍の襲撃を知らせる警鐘が鳴り響いた」


「最悪な状況じゃあないですか。パニックが起きている時に魔王軍の襲撃なんて余計に収集がつかなくなるんじゃ」


「最悪な時って色々と重なるものなんだよね。私も色々あったから分かるよ。借金したり、貴重な資料を失くしたりと…」


 ソロモンのはそれは何か違うだろう。多分、いや、確実に自業自得ってやつだろう。


「不幸中の幸いと言うべきか、この魔王軍の襲撃により皆の意識は僕から離れていった。その隙をついて僕は群衆から抜け出す事ができた。

 だけど、皆の逃げる方向と逆方向にあまりにも必死で走ったせいでなんとまさに魔王軍のモンスターと兵士が衝突し合う所に出てしまったんだよね。馬鹿みたいだろハハハハ」


「あははは…はは…」


 パリス王子はここが笑いどころの様に喋っているが、とてもそんな展開じゃあないだろ。合わせて笑ったけどひきつった笑いになってしまったよ。

 泣き面に蜂すぎるというか、この人の人生って実はかなりのハードモードては!


「こうなると僕も腹を括ってさ。兵士の一人から武器を奪うとモンスターを次々と倒して行ったね。それを見ていた兵士達は何が起きたか分からないって顔をしてたね」


 その時の兵士達からして見れば超強の謎の美少年がいきなりモンスターを倒して行くんだから混乱するだろうな。


「僕はもう完全に頭に血が上ってそのままモンスターを倒しながら前線を突き進んで行ったよ。何かその場にいた兵士達も訳が分からないまま僕についてきたからまるで僕が兵を率いているみたいだったよ」


「あまりにも陽キャ過ぎて怖い…」


 パリス王子の凄さにソロモンが怖がっている。ってかこれもう陽キャどうこうの範囲じゃあ無くね。埒外らちがいっていうか化け物というか…うん怖いね。


「結局のところこの魔王軍の襲撃はヘクトール兄さんを中心としたトロイ王国の英雄達の活躍により直ぐに撃退する事ができ、それによって起きた騒ぎも収まった。

 そしてなんと僕はこの時の暴れ…活躍ぶりが認められて何と王子の地位に戻して貰えたんだ」


「パリス王子が凄いのは分かってましたがここまでとは」


「流石、私達に目をつけただけあってかなりヤバイなこの王子」


 ソロモン、気持ちは分かるが言葉が悪いぞ。

 まぁ、気持ちは分かる。本当に…

 そんなソロモンが急に真剣な顔になり質問する。


「ところで滅びの予言に関してどう収拾をつけたんですか?アポロ神の神託ともなればくつがえす事は難しいのでは?」


 確かにアポロ神の信仰が強いなら下手にそれを取り消すのは大きな問題になりかねない。やっぱりソロモンは鋭いな。


「あぁ、そのくだらない予言に関しては上手いこと解釈を変えて貰ったのさ。

 今では僕は魔王国を滅ぼす者って呼ばれてもいるね」


 成程、滅ぼす国に確かに指定は無かった。トロイ王国ではなく、魔王国という認識のすり替えは上手い手だ。しかし…


「と言っても全ての人がそれで納得いったわけでも無かった。当然、僕に対して疑惑の眼差しを向けてくる人も少なくなかった。

 いやぁ~本当に居心地悪すぎて山に帰りたいと思ったぐらいだよ~。本当にもう」


 パリス王子は笑顔で話しているがその苦労はかなりのものだっただろう。


「それでも王都に残られたのですね」


「うん、まぁね。実の父の頼みという事もあったけど、僕自身も魔王を倒して皆の期待に応えたいっていう気持ちもあったしね。

 それに変な疑惑をかけられたままっていうの気分が悪いし。実際に僕が活躍するたびに疑惑は薄まり、期待の声が多くなっていったからね。

 もうこのまま魔王国を滅ぼす者っていう予言を本当にして一つの文句も言えないぐらいにしてやるって思っているよ」


「本人を前にして言うのも変なんですけど、何だかパリス王子らしいですね。だからこそ、この軍には色々な人達が手を取り合えているのかもしれませんね」


「僕自身の境遇が変わっているから他とは違って、変わった境遇の人達を仲間に取り入れる事に躊躇ためらいがないんだ。むしろ僕はそんな仲間達と一緒に魔王軍を討伐してこの国に君達の力を見せつけたてやりたいとさえ思っているよ」


「お話しありがとうございました。パリス王子の事を知れて良かったです。

 俺もパリス王子と同じ気持ちです。この軍で魔王を倒しましょう」


「お礼を言うのはこっちだよ。アキレウス君。君達のお陰で僕の夢まで後、少しというところまでこれた。このまま夢を現実にしよう」


「はい!」


 必ず魔王を倒そう。俺の為にもパリス王子の為にも。




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