第34話 1つの結末

「魔力の繋がりが切れただと!まさか僕の最大の切り札であるヒュドラが殺られたのか?四大精霊の力がこれ程までとは。

くっ、残っている魔力量はこちらも少ないがこのまま奴らを帰還させるわけにはいかない。

 船を動かせ!僕含めて全戦力でここで確実に奴らの息の根を止めにいくぞ!」


 オデュッセウスが慌ただしく号令を出し、モンスター達を動かす。予想外の連続でオデュッセウスの頭は混乱していた。ここまで計算狂わされた事は今まで無かった。その原因を一刻も早く排除していつもの自分の流れを取り戻さなければ。

 その考えだけにとらわれて彼にしては珍しく全体が見えなくなっていた。

 そう、相対している眼前の脅威を忘れてしまう程に…


太陽神の神罰パニッシュメント・アポロン


「ぐわぁぁぁぁ!!」


 パリス王子の矢で肩を大きく貫かれ、オデュッセウスはたまらず絶叫を響かせる。


「あぁぁ…くそ!!僕とした事があまりにも不覚。船の距離を詰められているのに気づけなかったなんて。いつの間にか風向きも変わっている。それにしても初めからこうなる事が分かっていた様にタイミング良く仕掛けてきやがったなパリスめ!」


 激痛が思考を妨げる。最早、己の意識を保つので精一杯だ。こうなってしまったら回復と防御に専念しながらここを離脱しなければならない。数ではまだ有利ではあるが痛みでまともに指揮が取れない。そのせいで忠実に動くモンスターの軍は今や烏合の衆に変化しつつある。勝てる見込は薄い。今ならまだ逃げられる。撤退して己の傷の回復とアガメムノン様の復活を待つべきだ。ここで命を捨てるわけにはいかない。

 あぁ、僕の方がこんな無様な撤退をする事になるなとは。それにしても何だこの気持ちは…。何が何でもパリス王子あいつを殺したい。使命とか立場とか関係なしに…。おかしいなこんなの全然合理的じゃあない。

 今だけは負けを認めてやる。だが


「必ずどんな手を使ってもこの借りは返させてもらうからなパリス!」


 オデュッセウスは怒りと痛みで顔を歪めながそう言い放ちながらモンスター達を使い船を動かして孤島とパリス王子達の船から離れていった。


 ◇


「ちっ、命中はしたけど殺りそこなったか。悪運の強い奴め」


「こちらも船を動かし追撃しますかパリス王子?」


「いや、あっちが海中を自由に動けるマーマンを引き連れている以上、下手な追撃は悪手だ。奇襲で船を沈められかねない。

 怒りで感情が溢れ出していても判断は間違えないとは改めて面倒臭いなあいつ。

 まぁ、そんな事よりもモルドレッド君とアキレウス君を回収するのが優先だ。二人を失ってしまっては元も子もないだろ」


「そうですよ。一刻も早くアキレウス君達を助けに行きましょう。私、もう色々と限界です」


 ソロモンはアキレウスの名が出るとそう叫び主張する。彼女からしてみれば数少ない友人であるアキレウスが別行動で前線に出ているのはそれだけ気が気でなかったのだろう。


「分かった。分かったから落ち着いて。それにしても僕の予想以上だ。凄いな二人共。あの二人は本当に…」


「パリス王子?」


 笑顔のパリス王子。しかし、ソロモンはその笑顔の奥に何か別な感情がある様に感じた。


「いや、ごめん、ごめん。これから先も楽しみだなぁ〜としみじみと思っできたら、何か言葉が出なくなってしまって。あははは。

 さて感慨にふけっている場合じゃあないよね。この成果をちゃんとトロイ王国に持ち帰らないと」


「そ、そうですね」


 それは本当に一瞬の違和感でその嫌な感じ直ぐに消え去った。私の気のせい?

 ソロモンは何処となく気味の悪さを感じながらも返事を返す。

 きっと気のせいだ。気のせいであって欲しい。何だかんだ言ってもパリス王子はソロモンにとっても恩人でもある。パリス王子にスカウトされなければこの場違いな世界で自分はどの様な扱いを受ける事になっていたか想像に難くない。そんな恩人を疑いたくない。それにそもそも自分は何を疑うというのだろう?

 そもそも異世界から来た私にとってパリス王子が何をしようが、例えこの世界がめちゃくちゃになろうが口を出す権利なんて…


「アキレウス君が無茶していないと良いんだけど大丈夫かな?」


 今はただこの世界でようやくできた本当の友人をうれう言葉しか口にできなかった。

 心の底に言いようのない不安と恐怖を抱きながら、パリス王子とアキレウスと自分がこれから先もこの様な関係を続けられる事を願うのであった。

 空を見ると何だが雲行きが怪しい。もうすぐ嵐がきそうだ。

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