第33話 死地
精霊の力を手に入れた以上はこの孤島に用はない。後は船へと帰還して無事にトロイ王国に撤退するのみだ。ペンテシレイアの部隊も俺達の姿を確認し後退を始めている。
モルドレッドを先頭に立ちふさがるモンスター達を蹴散らしながら俺達も帰還を試みる。このまま問題なく船に戻れるそう思っていた時。
とてつもなく強大な魔力と
9つの頭を持つ巨大な蛇。吐く息はドス黒く、この異様の大蛇が通ってき道は苦しみながら倒れているモンスター達が散乱している。
恐らく、こいつの何もかもが猛毒なのだ。肉体も粘液もそして吐く息すらも全てが毒。それも少量でも大柄なモンスターでさえも殺してしまえる程の…
ソロモンの解説がなくとも分かる。今、目の前にいるこいつが俺達を
「言われるまででも無いと思いますが、あのモンスターに近づいてはいけません。毒の息を吸わないように遠距離から攻撃をしてください」
ヒュドラは毒の領域を広げながらこちらに迫って来ている。動きが速いわけでは無いがここでこいつを止めなければ逃げ道が完全に潰されるだろう。それに劣勢を
全員が覚悟を決める。迫りくるヒュドラに対し一定の距離を保ちながら魔術や弓矢で攻撃を開始する。ネメアの獅子と違い意外にも遠距離からの攻撃でもダメージを与えられている様だった。少し時間はかかってしまうがこのまま倒す事ができるのでは?と希望が見えたかに思われたが…
「おい、何だよあいつ…。傷を負ても直ぐに再生してやがる。これじゃあ
その希望は直ぐに消え去り、兵士達に再び動揺が走る。ヒュドラにはネメアの獅子の様な鉄壁の防御は無かった。しかし、不死身とも思わせる様な脅威の再生能力を有していた。
切れた表皮が瞬時に繋がるのは当たり前、矢で体に穴を空けようとも直ぐに塞がる。傷を負う事に怯む様子もない。
また飛び散る血液もやはり猛毒のようでそれが付着した周りの植物達は見る見るうちに枯れていった。
段々と圧倒的な死のモンスターが近づいてくる。このままでは追い詰められてしまうと思った時であった。モルドレッドがヒュドラの方に走り出した。
「
放たれた炎がヒュドラに命中する。
「GYAAA!!」
どんな攻撃にも反応しなかったヒュドラが叫び声を上げる。蛇のモンスターだから熱に弱いのだろうか。それに炎で焼かれた場所の再生が遅いようだ。
もしかしたら今のモルドレッドならヒュドラを倒せるかもしれない。ヒュドラはモルドレッドを一番の脅威と認識したのか、全ての頭がモルドレッドの方へと向く。
「モルドレッド殿を援護するのです。最低でも矢で目を潰し、一瞬でも視界を奪うぐらいはやりましょう」
アイネイアスは兵士達にそう呼びかけるモルドレッドが見せた勝機により兵士達も士気を取り戻す。
そしてモルドレッドとヒュドラの凄まじい攻防が始まった。ヒュドラは毒の体液をモルドレッドに向けて飛ばしたり、その長い首を伸ばし噛みついて毒を直接注入しようとしたりする。
モルドレッドはその攻撃を
一見、モルドレッドがその圧倒的な精霊の力によって押している様に見える。しかし、恐ろしい事にその凄まじい炎の攻撃でさえヒュドラに致命傷を与えるには至らない。火傷を負った部分の再生のスピードは確実に遅くはなっているがそれでも驚異的な生命力だ。
「
モルドレッドが炎の斬撃でヒュドラの3本目の首を焼き切るがそれでも全く弱っている様子がない。攻撃が弱まる様子がない。むしろ切り落とした部位からも毒の霧が発生して毒の領域が徐々にではあるが広がり始めている。
またモルドレッドの様子にも変化が見られた。動きが悪くなっている。
恐らく、もうあまり長くは持たない。
「くそ、蛇などの爬虫類は本来は温度の変化に弱いはずなのだが、本当にしぶといなこいつ。はぁ、はぁ…」
モルドレッドが肩で息をしている。このままではヒュドラを倒し切る前にモルドレッドの方が先に倒れてしまう。何か方法を考えなければ。この状況であの不死を思わせる怪物に致命的な一撃を与える方法を…
ダメだ。今は火力を上げれそうな酒や油の用意が無い。それにこの逃場が少ない状況で大火を起こすのは味方にも大きな被害がでる可能性がある。現にモルドレッドだって攻撃の範囲を絞って戦っている。
いや、待て逆にその問題さえ解決できれば…
色々とギリギリだがいけるかもしれない。やるしかない。
俺はあるモンスターの召喚を試みる。残された魔力は少なかったが何とかその目的のモンスターを数体ほど召喚する事に成功した。それは巨大な土塊で出来た自立する人形。ゴーレムと呼ばれているモンスター。
「モルドレッド、俺の指示したタイミングでそいつの周りに火を放ってくれ!周りを気にするな俺がカバーする」
モルドレッドが俺の声に反応して
「よし、準備は整った。今だモルドレッド。思いっきり炎を放出してそこから離れろ」
「
モルドレッドからでている炎の翼が大きく広がりヒュドラを
「くっ」
モルドレッドは悔しそうにそこから離れる。
モルドレッドを覆っていた炎の
「すまない。今はこれが限界みたいだ。
「おう、任せとけ。まぁ、お前の炎を有効活用するだけなんだかな」
肥大化させたゴレームで炎ごとヒュドラを覆う。炎の熱が外に逃げる事なくヒュドラの体を熱する。それは時間にすれば数分も無いぐらいだったかもしれない。しかし、今まで以上に全体がしっかりと熱された事により不死を体現する為の再生機能までが狂い。細胞が次々と死んでいく。そしてヒュドラはついにその場で倒れ動かなくなった。
「単純にゴレームで囲うだけではなく、空気の通り道がしっかりと確保されている。成る程、これは簡易的な
「お褒めの言葉ありがとうございます。アイネイアス様。でもモルドレッドの精霊の力あってこそですよ」
「はぁ、はぁ…アキレウス、お前はもっと自信を持った方がいいと思うぞ。お前がいなかったら俺は力を使い果たして
「モルドレッド、大丈夫か?かなり辛そうだが」
「あぁ、思っていた以上に体にきているみたいだ。まぁ、あれだけの埒外な力を使うんだから当たり前だよな。むしろ対価として安いもんだ。とはいえ、限界ギリギリだ。正直、辛いな」
「モルドレッド殿、アキレウス殿。いや、ここにいる全員が魔力、体力共に限界が近い状態でしょう。
ヒュドラという強敵を退けはしましたが、戦況は油断を許さない状況です。モンスター達に包囲される前に急ぎ退却しましょう。
いいですか。ここからは一人、一人が全力を尽くしてこの死地を乗り越えるのです」
「オー!!」
アイネイアスの号令と共に再び駆け出す。そうまだ決して安心できる状況ではない。帰還できなければ何もかもが無駄に終わってしまう。
魔力が切れかかっていようが何としてここを突破するんだ。全員が死物狂いで奮闘する。
パリス王子、船は無事だろうか?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます