第32話 ヒュドラ

 オデュッセウスは戦いの中、違和感を感じ始めていた。パリス王子の狙いが分らない。こちらの船の破壊が狙いであると予測を立て動いていたがどうもそれは違うらしい。

 確かに予測していた通りに船の方に攻撃を仕掛けてはきたが距離をとっている様に感じる。召喚術によるモンスターの気配も感じない。


「妙だな。もしかして何か別の狙いがあるのか?しかし…」


 パリス王子がどの様な事をたくらんでいようと常識的には自分達の船を守るのが第一優先なのは変わらない。下手に動揺して隙を見せてはそれこそ相手の思う壺だろう。そうだ何も問題ない。今、自分は考えられる限りの最善手を尽くしている。そう思考をしていると


「何だこの膨大な魔力の流れは。共鳴獣シンクロモンスターにも勝るとも劣らないそんな個体がいきなり出現したというのか…。まさか四大精霊!?」


 オデュッセウスはこの魔力の発生源の方向に目を向ける。そこには強大な魔力と炎を纏った一人の騎士がモンスター達を焼き払っていた。


「馬鹿な!!僕でも分からなかった神殿の謎を解明したのか?ありえない。だが、信じたくはないがあの圧倒的な魔力は壁画から感じられたものと同じ…。

 くそ、どうなっているんだ。僕の計算外の事ばかり起きている。パリスめ、お前にはこの結果が見えていたというのか?お前は一体。いや、ともかく今はあれをここで止めなければならない」


 予想外の出来事に一瞬、取り乱しはしたがオデュッセウスは直ぐに頭を切り替えて冷静になる。あれは今ここで止めなければいけない。恐らく、まだ手にした精霊の力を完全に使いこなしているわけではないだろう。しかし、このまま更に実戦経験を積まれて完全に力を使いこなす様になったら厄介だ。そうなる前にここで潰さなければいけない。

 例え今の自分が万全の状態では無いとしても…


「はぁ~、ここまで狂わされたのは久方ぶりだな。もう何もかもめちゃくちゃだ。困ったことにあれは生半可なモンスターでは対処できない。これは帰りの為の魔力の温存をしている場合じゃないな。仕方ないこちらも切り札を出そう。来い僕の共鳴獣シンクロモンスター


 その呼び声に応じ、竜にも負けない程の巨大な毒蛇のモンスターが姿を現した。オデュッセウスの共鳴獣シンクロモンスターであるヒュドラ。神さえも殺すと言われた最悪の毒蛇である。

 その猛毒の危険性故に戦場での扱いが難しいモンスターでもある。敵味方関係無く被害が出る可能性がある。そのリスクを取ってまでオデュッセウスはヒュドラの召喚に踏み切った。それだけの脅威を感じたのだ。


ふねは僕達が守る。お前はあの炎の騎士を何としてでもここで殺せ」


 ヒュドラに命令オーダーを出して騎士の元まで進行させる。

 自分にしては珍しく確実な勝算があるわけではない。しかし、今はこれしかない。

 天秤に勝負を委ねるのは嫌いではあるが…


「あれ!?僕、何か少し気分が高揚しているような…?」


 オデュッセウスはいつの間にか自分が笑みを浮かべている事に気づき、この状況を自分が何故か楽しんでいる事を自覚するのであった。


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