第31話 覚醒

 神殿の最奥部と思わしき場所。そこには巨大な赤いドラコンがえがかかれていた壁画があった。


「これが四大精霊。なんと凄まじい姿と魔力。しかし、この場に辿り着いてさえ俺はどうしたらいいのか全く分からない」


 モルドレッドは悲痛な叫びを上げる。神殿の最奥に行けば何かが起きる。それだけを希望にしてここまで来た。しかし、奇跡のようなものが起きる様子はない。このままでは…いやまだ諦めるには早い。


「モルドレッド、あの壁画に近づいてもっと良く見てみよう。そして壁画に描かれている精霊の姿をイメージしてみよう。

 これはさ、俺が召喚術を使う時にやってることなんだけど、絵や字に描かれていることだけじゃあなく、そのモンスターの動きとか性質とかもイメージしてみるんだ。そうすると初めてのモンスターでも上手く召喚できるんだ」


「だが…」


「ともかく、足掻あがけるだけ足掻あがいてみよう。せっかく、皆で頑張ってここまで来たんだ」


「そうだな。なげいている場合じゃあなかったな。せめて壁画をもう少し調べるぐらいはしないとな」


 モルドレッドが壁画に近づく、俺もそのうしろをついていく。モルドレッドだけに背負わせるわけにはいかない。俺もこの精霊を味方につける方法を考えなければ。それにあまり時間はない。いつモンスター達に追いつかれるか分からない状況だ。恐らく外の戦況も良くないだろう。

 しかし、パリス王子の言っていた通り本当にモルドレッドはこの異界の神殿と同じ生まれなのだろうか?仮にそうだどしても精霊の力を宿せるかどうかなんて


「ん、これは…」


 壁画に何かきざまれている。文字だろうか?自分達の普段使っている文字に似てはいるが別物だ。何と読むのか全く分からない。この壁画に描かれている精霊の名前だと思うのだが


「どうした?何かあったのか?これは異界の文字か」


 モルドレッドも俺の様子に気がついてその文字らしきものを見る。そして…


「ファイヤー・ドレイク」


 その文字を見たモルドレッドが唐突にそう呟いた。それは聞き慣れない言葉と発音であり、その言葉を口にしたモルドレッド自身もなぜ読む事ができたのか、分からない様子で驚きの表情をしていた。

 瞬間、壁画が光り輝いて炎が勢いよく噴き出す。そしてその炎を纏うようにして巨大な翼を広げた巨大なドラゴンが姿を現した。ドラゴンはまるでマグマそのものかの様に真っ赤な色をしていてその姿は壁画に描かれた精霊の姿そのものであった。


「「うわぁ!!」」


 あまりの出来事に驚き声を上げる。俺達はその噴き出した炎に囲まれたが熱さを感じない。落ち着いてよく見れば炎もドラゴンも姿がけている。どうやらその中から現れたドラゴン含め実態を伴っていないようであった。

 ドラゴンはモルドレッドの方に視線を向けると姿勢を低くして頭を下げた。それはまるで忠誠を誓い、跪く騎士のようだった。

 その様子に呆気あっけにとられていると、炎とドラゴンの姿がより不鮮明になっていき、やがて光の粒子となりモルドレッドの体に吸い込まれていくように消えていった。


「な、一体何だったんだ今のは…。大丈夫か!?モルドレッド」


「あぁ…。大丈夫だ。ありがとうアキレウス。ただ、己の内から凄まじい魔力を感じるこれが四大精霊の力なのか」


「そのご様子ですと精霊の力を宿すことに成功なさいましたがモルドレッド殿?」


「はい、アイネイアス様。どうやらその様です。精霊が俺の中に入りこんで来るのが見えました。何故だが不思議と懐かしい気持ちでした。

 パリス王子のおっしゃっていた通り、俺はこの神殿と同じ異界からの漂流物だったのでしょう。少しばかり幼い頃の記憶を精霊を通して見せられました。

 こことは違う世界にある島国の王国。その国の王宮一の魔術師による国を滅ぼす者に関する予言。それによりその年の5月1日に産まれた者、全てが未来の反逆者としての可能性を疑われて海に流されていく光景を。その中の一人が俺でした。俺はそこからなんの因果かこの世界に流れついてしまった様です」


 そんな壮大な知られざる過去がモルドレッドに。俺は身近な親友の衝撃の事実を聞いて固まってしまった。こんな時は何と言ってあげるべきなのだろうか?上手く言葉が出てこない。


「モルドレッド殿が無事に精霊の力を宿した様ですし、急いでここから出ましょう。外で戦っている方々が心配です」


 俺が言葉を失っている中、アイネイアスが的確な指示をする。

 そうだ。まだオデュッセウスとの戦いの最中だ。ぼーっとしている余裕は無い。全員が引き返そうとした時


 ズシン、ズシンと大きな足音が聞こえてきた。そして後方から


「敵が来たぞー!モンスターがここまで来やがった」


 と声があがった。見ると数体のサイクロプスが迫って来ていた。この神殿から出るにはまず、こいつらを突破しなければならない。全員が戦闘態勢に入る。


「こいつらは俺にやらせてください」


 モルドレッドがそう言いながら前に出る。


「なっ、モルドレッド、どうしたんだ急に…」


 俺はモルドレッドの肩をつかみ引き止めようと声をかけるがモルドレッドは


「新たな力を試してみたいんだ。心配しなくても大丈夫だ。きっと上手くいく」


 とだけ言い返しモンスター達の前にたった。そしてその瞬間、モルドレッドの体が炎に包まれた。そしてその炎は鎧の様な形を形成した。翼の様な部位もあり、まるで炎のドラゴンを纏っているかの様だった。


火龍の炎息ドレイク・ブレス


 モルドレッドが剣をモンスター達に向けて呪文を詠唱すると剣から炎が勢いよく吹き出し、一瞬の内にモンスター達を焼き尽くした。


「これが四大精霊の力…」


 あまりの凄まじい力を目にして全員が驚愕し、その場で固まる。


「先陣は俺が切ります。さぁ、行きましょう」


 そのモルドレッドの掛け声を聞いて皆がようやく動き出す。モルドレッドが手に入れた精霊の強大な力は今のパリス軍にとっては大きな希望だ。

 これならオデュッセウスとも戦えるかもしれない。しかしこんなにもパリス王子の言葉通りになるなんて何だか…。いや、余計な事は今は考えるな。戦いに集中しないと。

 言い知れぬ不安を抱きながらも俺達は神殿から出て戦いの場に戻った。

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