第30話 激突

 フレイム神殿がある孤島が見え始めたと同時に奇妙な鳥の大群が接近してきた。

 島のある方向から迷わず真っ直ぐにこちらに向っている事を考えると恐らくただの鳥では無く、オデュッセウスが召喚したモンスターだろう。弓兵達が一斉に矢を放って迎撃を試みる。しかし…


 キィーン


 鳥達に矢が当たるとまるで金属同士がぶつかった様な甲高い音がして矢が弾かれていった。

 鳥達が更に近づいて来てその姿がはっきりとする。長いくちばしを持っており、体の大きさはつるぐらいだろうか。一見しただけではセイレーンの様な異常性は無いかと思えたが、よく見るとその鳥達はくちばしや羽、足の爪に光沢があり、その部分を使って矢を弾いているようだった。



「あれはステュムパリデス。体の一部が硬い金属になっている鳥のモンスターだ。お腹の部分は金属ではないからそこを狙って」


 ソロモンがモンスターの弱点を示すが、動き回るまとの極一部を狙うというのはそう簡単な事ではない。中々、撃ち落とす事ができない。ステュムパリデスは矢を弾きながら船や船員を襲い始めた。

 このままでは被害が大きい。何か良い方法はないか…。鳥の特徴を有するモンスター。それならば…


「すみません。パリス王子。以前、トロールとの戦いの時に使った強い光を放つ魔術。『太陽神の輝きシャイニング・アポロン』を放ってくださいませんか」


「成る程、面白い事を考える様になったね。アキレウス君。分かった。やってみるよ。全員、一瞬だけ目をつぶって!」


太陽神の輝きシャイニング・アポロン


 辺り一面を眩しい光が覆う。その強い光に目をやられ視界を奪われたステュムパリデス同士が空中で衝突し合い次々と墜落していく。

 鳥類の多くは人間よりも視力が優れていると耳にした事がある。優れているといえば聞こえは良いが、それはその機能にそれだけに頼っているという事だ。その機能が上手く働かなくなるだけで大きな痛手となる。まさにソロモンが言っていた発想の転換だ。我ながら上手く思いついたものである。


「凄い、凄い。アキレウス君はしっかりと考えを巡らせれる様になったね。私も鼻が高いよ。もう私なんかよりも軍師として優れているのでは!?これは本当に凄いよ」



「今回もたまたま上手くいっただけさ。まだソロモンには全然及ばないよ」


 ソロモンが好きです我が事の様に喜んでいる。いや、もう我が事以上に喜んでいる。

今まで見たいに「ヤバい。私もう要らないかも。置いていかれる〜」とか言って泣きついてくるかとも思っていたが、ソロモンもこの遠征によって少しずつ変わっているのかもしれない。


「よし、島に着くよ!作戦通り、ここからは部隊ごとに別行動だ。何としてもオデュッセウスを出し抜くぞ」


 パリス王子の号令が響く。島にはヒュドラの毒こそ撒かれていないようだがオーガやサイクロプスなどが待ち構えているのがここからでも確認できた。

 今回の俺の任務はモルドレッドを神殿の最奥部まで無事に連れて行く事だ。いつもは後方でその場に適したモンスターを援軍として送る役割だが、魔力が少ない現状ではそのやり方ではオデュッセウスに簡単に押し負ける。それよりも可能な限り重要な場面で即座にモンスターをその場に出す奇襲の様やり方がオデュッセウスを出し抜けるだろうという事だった。

 初めての最前線。怖くはあるがモルドレッドや皆にとってはこれが当たり前。むしろ今までが召喚術によって特別扱いだったのだ。大丈夫。覚悟はできている。むしろ、幼い頃に夢見た憧れの騎士としての光景はこっちの方が近いだろう。震える自分を鼓舞こぶする。

 そして遂に各々が動き始める。

 まず戦闘力の高いペンテシレイアの部隊が弓兵の援護を受けながら島に上陸し、モンスター達とぶつかり合う。両軍の武の力による激しい戦闘が始まる。

 その激しい衝突の間にパリス王子の本軍が動き始める。狙いはオデュッセウスの船だ。移動手段である船を奪ってオデュッセウスをこの孤島に封殺する。それが本来、最も現実的なパリス軍側の勝ち筋である。しかし…


「やっぱり流石だな。オデュッセウスめ。相変わらず、むかつく程に完璧だ。理詰めでは敵わないなー」


 パリス王子が思わず感嘆の声を漏らす。

 無論むろん、そんな事はオデュッセウスも分かりきっていることであった。船の方ににも正面の陸地と同様、いやそれ以上のモンスターの大軍が待ち構えていた。空中には先程のステュムパリデスが船上にはトロールやサイクロプス、弓を構えたケンタウロス。そして海面にマーマン達も布陣している隙のなさ。そして奥にはオデュッセウス自身もいた。ペンテシレイアの部隊が陽動であることを完全によんだ完璧な対応だ。

 これでは船を破壊するのは不可能に近い。奇襲は完全に失敗。陸地で善戦をしているペンテシレイアの部隊も数の暴力より時と共に疲弊して始めている。

 補給による数の差はオデュッセウス側が有利。その上で尚、パリス軍の打つ手を全て防ぎ切り勝負は完全についたかに思われた。


「だけど残念だったなオデュッセウス。今回、ばかりは理屈が違うんだ。その完璧さが仇となったね。

 さて、モルドレッド君達を信じて僕達も全力で囮役を頑張りますか。皆、分かっていると思うが中途半端な戦いではオデュッセウスは騙せないぞ。やるからには全力でるぞー」


「オー!!」


 ◇


 パリス王子達の掛け声を合図として俺とアイネイアスを含んだモルドレッドの少数部隊が神殿に向って駆け出す。俺達はペンテシレイアの部隊と共に上陸し、後方で今までアイネイアスの幻術魔術により隠れて待機していたのだった。

 ペンテシレイアの部隊が派手に暴れまわり敵を引きつけているうちに手薄になった所から急いで突き進む。


雷光一線ライトニングラッシュ


 モルドレッドの魔術を使った剣技


美の女神の薔薇ローズ・アフロディーテ』」


 そしてアイネイアスの幻術魔術による撹乱によりモンスターを退しりぞけ前進していく。

 俺も僅かな魔力で数体のオーガを召喚し、行く手をはばむモンスターの壁を押しのけるのを手伝う。

 全員の力を合わせ何とか神殿の内部に入り込むことに成功した。神殿の中は手薄であったが、外から次々と追撃のモンスターが流れ込んで来て俺達は奥に追い込まれて行く形となってしまった。


「マズくないかこれ?この奥に本当に逆転の切り札になる物がなければ…」


 追撃してくるモンスターに恐怖し、必死に走りながら俺は思わずそう口にしてしまった。


「あぁ、だがアキレウス。もうこうなればやる切るしか道はない。パリス王子の期待に何としても応えなければ。それにしてもパリス王子のあの自信とそれに対する古顔の兵士達の信頼。

 今まであまり気にしていなかったが、もしやパリス王子が預言の神であるアポロン様の神託を受けれるといううわさは本当なのか?」


 アポロン様の神託?確かパリス王子もその様なことを言っていたな。そう考えているとアイネイアスが口を挟んできた。


「ご推察のとおりですモルドレッド殿。あの方にはアポロン様の声を聞くことができるのです。

 最初は我々家臣も信じられませんでしたが、あの方の言葉は絶対。今まで魔王軍の進軍を含めて様々なことを言い当ててきました。なので今はあの方の言葉と己を信じてくだい」


「そうなのですか。では生い立ちに関しての噂も…」


 生い立ちに関しての噂?何のことだろう?


「それに関しては…今、語ることでもないでしょう。この戦いを制したあとにゆっくりと説明させて頂きますので今はこの戦いにだけ集中してください」


 アイネイアスは先程とは違って何やら言いにくそうであった。


「そうですね。すみませんアイネイアス様。私としたことが与えられた使命の重さからつい、口数が多くなってしまいました。お許しください」


「謝ることはありません。重責による不安な気持ちは分かります。大丈夫です。先程も言いいましたがあの方の言葉は絶対です。

 むっ、見えてきましたね。あれが異界の精霊が祀られている祭壇でしょう」

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