第28話 ソロモンの秘密

「すまないね。私が船酔いで倒れたせいで君には迷惑をかけたね。うっぷ…」


 船が安定を取り戻した事によりソロモンの体調も少し回復してきた様だ。ただ、先程のスキュラとの戦いの時に役に立てなかった事を気に病んでいる様子で今まで以上に元気がない。


「そこまで気にむ必要は無いし、まだ体調が悪いなら大人おとなしくしてろよな」


「うぅ…肝心な時に役に立てないなんて凄く情けない。このままだと捨てられるー。うっぷ…」


 あぁ、これは大分だいぶ、意気消沈している感じたな。調子に乗っているのも困りものだが、ここまで落ちこんでいるのも良くないな。流石にはげますか


「ソロモンは役立たずじゃあないさ。今まで何度助けられたか。ソロモンの凄さは俺が保証するよ。もっと自信を持てよ」


「自信?」


「あぁ、ソロモンは凄い。モンスターに対する策を瞬時に思いつくのは凄いよ。今回の件で俺もそれを身をもって実感したよ。

 たまたま上手くいったけどこれを毎回やってのけるソロモンは本当に凄いよ。世界一の大賢者様だよ」


 持ち上げる為に少しだけ誇張こちょうしたが根本的な所に嘘偽うそいつわりは無い。俺は今まで以上に心の底からソロモンは凄いというのを伝えたかった。


「ありがとう。こんな私を凄いって言ってくれて。君は本当に優しくていい奴だよ」


大袈裟おおげさだなー。そもそもソロモンは皆からも評価が凄いじゃあないか。大賢者とか言われてるし。俺以外の皆も知識豊富なソロモンを凄いと思っているよ」


「それはちょっと違うんだよ。多分…」


「何が違うんだよ。特にパリス王子はソロモンをかなり評価していると思うぜ。参謀さんぼうとして招集したわけだし」


「パリス王子は物珍しいのが好きなだけだよ」


「物珍しい?」


 何だろう。パリス王子が物好きな性格だというのはよく聞くが、何か話が少し噛み合ってない感じがある。モンスターの知識豊富なソロモンが珍しいって事なのだろうか?


「アキレウス君、私はこの国の出身じゃあないんだよ」


 俺の考えている事を察したのか、ソロモンは自分の生い立ちについて語り始めた。


「信じてもらえないかもしれないけど、そもそも私は全く別の世界で暮らしていたんだよ」


「別の世界?」


「うん、その世界は魔法という分野が存在しない世界でね。代わりに化学の分野とかが発展していて物事をよく観察して考える事にけていたんだ」


「へぇ~、化学とかよく分からないけどソロモンが得意そうな分野だね」


「う〜ん。まぁ、何と言うか…得意な方ではあったと思う。少なくとも小さい頃は私はそれなりに優等生ではあった。けどあの世界の中では私は飛び抜けてひいでている方では無かった。そんな私は大人になるにつれて次第に埋もれて不貞腐ふてくされていった。

 勉強ばかりで親しい友人もまともに作らなかったのもあってか、私は世界に自分の居場所が段々と無いように感じ始めていた。

 何処どこか遠くへ行って今いる場所から消えてしまいたい。あまり深くも考えずにそんな事を思って日々を過ごしていたら、いつの間にかこの世界に迷い込んでいたんだ」


 別の世界。信じられない様な話ではあるが、ソロモンの目は真剣で嘘をついている様子は無い。


「そんな不思議な事が…。俺だったら混乱して大変な事になりそう」


「私だってそうだったよ。今まで住んでいた世界とは全く違うんだから!言葉は通じるのはせめてもの救いだったけど、この世界の事をよく知らない当時の私はやはり色々と目立っていたらしく。その噂を聞きつけた物好きなパリス王子に引き取られて王宮に住まわせてもらう事になったんだ。

 そして色々な事を学んだよ。最初は今までとは違う知識に戸惑いはあったけど、その何もかもが違う目新しさが私の好奇心に響いてさ。どんどんと文献から知識を吸収していったよ」


「それで大賢者と呼ばれるまでになったのかよ。いや、天才過ぎないかソロモン。俺達の世界の知識人達をゼロから一気に追い抜いたって事じゃあないか…」


「王宮の最高の教育とそこの図書館の素晴らしい文献のお陰だよ。それにこっちの世界の人達は生まれ持っての才能重視、特に魔術の分野だけが重視されていてで他の学問の方はあまり発展してなかったから。あと、前の世界での知識がわりと役に立ったしね」


「ソロモンが特殊な生い立ちである事は何となく分かったけど、物珍しいだけでパリス王子もソロモンに良くしているわけでは無いと思うぜ。

 さっきも言った通り、実際に参謀として活躍しているわけだし、前の世界とは違うんだよ。それにきっと、ソロモン自身も色々と成長して変わったんだよ」


 特殊な生い立ちからの不安は何となく理解できる。俺だって貧民街の出身ではあるし、召喚術という異常な能力を持っている。周囲の目は正直、人一倍に気になる。とはいえ、過剰に卑屈になるのは良くないなだろう。


「私はこの世界に来ても根本的な所は何も変わって無いんだよ。変える勇気が無かった。こんなにも面白い、興味が尽きない世界なのに自ら何かをしようとはしなかった。行動をするのが恐ろしかった。じこもってただ、外の世界をうらやむしかしなかった。結局は前の世界と同じ結末なんだ。みずから踏み出す勇気が無い私はやがて飽きられて埋もれてしまう。

 君が現れて引っ張り上げてくれなければ私は確実に王宮に閉じこもったままだったし、もしかしたら捨てられていたかもしれない」


「俺は何もソロモンにしていないよ。それに明確なきっかけは俺の召喚術かもしれないけど、俺はソロモンはちゃんと一人で歩き出していたと思うぜ。だからかこそ、今がある。俺とソロモンは似ているから分かる」


「私と君が?どこが似ているのさ。何もかもが違うと思うけど」


「似ているさ。だからこそ、色々とアドバイスをくれたんだろ。それに前に言ってくれたじゃあいか。俺が環境や生い立ちを゙盾にして閉じこもっているって。

 うん、悔しいけどその通りだ。憧れに向かって必死に足掻いているつもりでいたけど、結局のところは怖くて無意識のうちにていのいい言い訳をして前に進むのを拒んでいたんだ。ソロモンに指摘されてようやくその事に気づいたんだ」


「確かに君に私と同じような部分を感じてそんな偉そうな事を言ったけどさ。

 やっぱり、君と私は違うよ。だって君は今回、ちゃんと一人で自分から行動できたんでしょ?それは決定的な違いだよ。過去はどうであれ君は変われたんだよ。私は色々ときっかけがあったのに何も…」


「本当にそうなのか?現に今、ソロモンは王宮から出てしかも船に乗って外に出ているぞ」


「それは…」


「パリス王子の命だからか?」


「違う!最初は確かにそうだったけど、今は君と一緒にいたいから、君が心配だったから。だからこそ私は危ない目に遭うと分かっていても、怖くても、この遠征に志願した」


「自分の意思で歩いているじゃあないか。今までとそれでも同じかい?」


「確かに同じではないと思う。今までの私だったらただうらやんで眺めているだけだった。命令で嫌嫌連れて行かれる感じで志願なんて絶対にしなかった。

 でも、これってかなり君に依存しての行動だね。こんなのでいいのかな?一人で歩き出してた感じがしないんだけど」


「きっかけがなんだっていいんじゃあないか?俺だってソロモンの今のところ猿真似でしかないんだから。まぁ、少しであれ変わる事ができたんだ。これから少しずつ更に変わっていけるさ俺達は」


「そんなものなのかな…」


「そんなもんだろ。少しだろうがきっとそれは大きな違いだ」


「はぁ~、確かにこの短期間でも色々な動きや変化があったもんな〜。君というイレギュラーは私が思っている以上にこの世界に影響を与えてるのかもしれないね」


「他人事みたいに言っているけど、ソロモンの与えている影響も凄いと思うんだが。ソロモンがいなかったら俺もこんなに活躍しなかったよ。召喚術っていてもさ。魔王軍の将も使えるし、そいつ等を上回るっていうのは俺一人では無理だった」


「お互いが影響し合っているからこその結果なのかもね。うわぁ~何だかんだ凄く友達ポッいぞ。それ」


「実際に俺とソロモンは友達だろ」


「そうか…そう言ってくれてたもんね。私はもう一人じゃあないんだ。うん、これは小さいかもしれないけど、私にとっては大きな変化だ。改めてありがとう。アキレウス君」


「礼なんていらないぜ。それこそお互い様って奴だ」


「そうかもね。うん、何だか気分も少し落ち着いてきたし、あとは一人で休むよ。アキレウス君も休んできな。私に付きっ切りで大変だったでしょう?」


「そんな事はないけど、まぁ、ここはお言葉に甘えさせて貰おうかな。ソロモン、無理はするなよ」


「大丈夫だよ。それじゃあ、またね」


 ソロモンから離れたあと、何だか少し寂しい気持ちになってしまった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る