第27話 スキュラ

セイレーン小鳥達もやっぱり、ソロモンとパリスに対処たいしょされちゃったか〜。まぁでも、予定通りにの地点にまでには船を連れて行ってくれたわ。あとは私のスキュラワンちゃんが何とかしてくれる。

 それにしてもソロモン、オデュッセウス様と全く同じ様な行動をとるなんて馬鹿と天才は紙一重と言いますが、似た者同士なのでしょうか?何かムカつく。まぁ、でも好都合ね。これで一網打尽。私の完全勝利だわ」


 ◇


 パリス王子達によってセイレーンは全部、撃ち落とされた。早めに対処てきた事もあって岩礁がんしょうなどに船をぶつけずに済んだ。多少、進路を変えられてしまったがたいした問題では無いだろう。

 幸いな事に敵の姿も障害物になりそうな物もない海域に出た。これならぐに進路を戻す事ができる。多くの船員達はその様に考えていた。

しかし、この場所こそ魔女キルケーのもっとも恐ろしい使い魔の餌場えさばであった。


「うわぁ、何だ船が勝手に…」


「大変だ。渦潮うずしおが発生した。マズイ、このままだと巻き込まれるぞ」


「馬鹿な。何で急にこんな大きな渦潮うずしおができたんだよ。そんな兆候、全く無かったぞ!」


 突然の危機にあわてふためく船内。それでも皆、何とか対処できないか必死に行動を起こし始める。

 しかし、まるでその心を折るかの様に渦の底から目を背けたくなる様な恐ろしいモンスターが姿をあらわした。

 そのモンスターは上半身は美しい女性でありながらその下半身は鋭い牙をむき出しにした見るからに凶暴な六頭の巨大な犬であった。

 犬達はその口を大きく開きあらゆる物を飲みこもうとしている。その勢いは凄まじく、このままでは船は丸ごと食べられてしまう。

 パリス王子の弓兵隊が弓で攻撃をしているがあのモンスターはそれに対してわずかにひるむ程度で大きなダメージを与えている様子は無い。


「ソロモン、あれは一体何なんだ。どうすればいい?」


 俺は恐怖で気が動転しながらソロモンに助けを求めた。情けないがソロモンならまた何か良い方法を提示してくれると頼ってしまったのだ。しかし…


「あれはスキュラ…。海では最強クラスのモンスター…うっぷ、おろろろろーー」


 ヤバイ、渦潮うずしおによって船がえず激しく揺れているせいで流石さすがのモンスター大好き変態賢者のソロモンでも船酔いの方がまさってしまっている。どうにかしてソロモンに回復してもらわなければ…いや

 違うだろう。ソロモンは確かに凄いけどそれに依存してはダメだ。この様な事態になる事を見据みすえて今まで色々と教えてくれていたじゃあないか。少しは自分の頭で考えろ俺!!

 ここは戦場。甘えは許されない。それに絶体絶命のピンチであるが自分が長く憧れた舞台だろう!ここまできて怖気づくなんてらしくない。

 己で切りひらけ。考えるんだ自分で!

 何か方法があるはずだ………

俺はここに来て始めてこの絶望的な状況を乗り越える方法を自分自身の頭で模索した。

 そして上手うまい方法とはけっして言えない。だけどそれでもこの状況をわずかではあるが打開できるかもしれない方法を思いついた。

 本当にこんな方法で上手くいくのか?それでも今はやるしかないと分かっていても不安で体が口が動かない。

 あぁ、ソロモンって俺が思っていた以上に凄い事をしていたんだな。そんな事を情けなくも今更ながら実感しながらともかく何か声を出そうとする。


「酒をーーー!!」


 そうしてようやく発した言葉は中々にクソな言葉であった。恥ずかしい。だが恥ずかしがっている余裕は無い。


「アイネイアス様。確かこの船には酒が積んでありましたよね?」


「はい。確かに葡萄酒ぶどうしゅまれていますが、急にどうしたんですかアキレウス殿?状況、分かっていらっしゃいますか?自棄やけにならずに冷静になってください」


「冷静では無いかもしれませんが、決して自棄やけにはなっていません。上手くいくかは分かりませんが俺に考えがあります」


 俺はそう言いながら何体かのスライムを召喚した。今、残っている魔力量でもこれぐらいなら何とかなるか。


「以前、アラクネと対峙された時にソロモン殿が提案された火攻かこうですか?それならば油の方が良いのでは?それに申しにくいのですがこの様な海のど真ん中では火攻かこうはあまり有効では無いかと」


「確かにその時の経験から思いついた策ですが、火攻かこうではありません。それに今回は油よりも酒の方が良いです。葡萄酒ぶどうしゅならなおの事、都合がいいです。説明が下手へたですみません」


「何をさりたいのか正直、まだわかりかねますが。今は余裕も有効な手段も無し。アキレウス殿を信じましょう。こちらです」


 連れられていた先には何個かの酒樽さかだるがあった。


「これもらいますね」


 俺はアイネイアスの返事も待たずに酒樽さかだるの中身の酒をスライム達に吸収させた。そしてからになったたるの中にそのままスライム達を入れた。これで準備はできた。


「アイネイアス様。このたるをあの犬の口の中に放りこむのです」


「わかりました。ペンテシレイアの部隊なら可能でしょう」


 ここでアイネイアスも俺の意図を察した様で直ぐに伝令を出した。それを見て少しだけ自分に自身が持てた。


「良く考えましたねアキレウス殿。流石です」


「今までソロモンが色々と教えてくれたおかげです。とはいえ、正直、策と言えたものではありません。不確実な要素が多すぎる」


「そうですね。しかし、試す価値はあります。私はアキレウス殿の策を信じますよ。やれる事はやって見ましょう」


「ありがとうございます。アイネイアス様のおかげで少し自信が持てました」


「それは良かったです。私は魔術で時間稼ぎをしてきます。微力ながらアキレウス殿の策のサポートさせてもらいますよ」


「はい、よろしくお願いします」


 俺の提案で人が動く。何だか不思議な気持ちだ。嬉しい、不安、怖い。ソロモンもこの様な気持ちで作戦を提案していたのだろうか?

 気弱きよわな奴だと思っていたが、凄い精神力だな。プレッシャーが凄いぞこれ。

 そんな事を考えれていているあいだにも事態は進んでいく。

 スライムが入った酒樽さかだるはペンテシレイアにより無事に恐ろしい犬の口の中に放り込まれていった。万が一に狙いが外れても中身のスライムを動かす事によって多少の軌道修正はできたがその必要は無さそうだ。

 あと、俺ができる事はあのモンスターの体内に入ったスライム達になるべく速く腸に到達する様に念じるだけだ。

 犬はアルコールを分解できない。なのでたとえ、少量であっても十分な毒になるまた葡萄ぶどうも犬にとっては毒になる食べ物の一つだ。

 昔、可愛がっていた野良犬に与えてはいけない食べ物を上げそうになったのをモルドレッドが止めてくれた事あった。その時の経験とソロモンから学んだ医学的な知識から思いついた策だ。理屈としては通っているはず、だが相手はただの犬では無い。巨大な恐ろしいモンスターである。何が起きてもおかしくない。

 しかしてさいは投げられた。今、皆が必死に動いてくれている。アイネイアスは幻術の魔術でモンスタースキュラ撹乱かくらんし、毒が回るまでの時間を作り、パリス王子の弓兵隊も絶えず弓で攻撃する事によって少しでも弱らせようとしている。他の船員達も船をモンスターから守れるように各々できる事をやっている。

 激しい攻防が続く。


「頼む、上手くいってくれ…」


 その俺の言葉が天に届いたのか。六頭の恐ろしい犬達は急にふらつき始めたかと思うと、その場に倒れこむとぐったりとして動かなくなった。

 犬達はが動かなくなると船を引き寄せていた渦潮うずしおが消滅し、俺達は何とかそこから逃げる事に成功したのだった。


「やったぞ!」


「助かった〜」


「死ぬかと思ったぜ」


 モンスタースキュラの姿が見えなくなると皆、生還できた喜びを次々と口にしていた。そしてさらに…


「アキレウス君、凄いな!」


「頑張りましたね。アキレウス殿」


「ソロモンでなくてアキレウスの指示だったのか!」


 などと俺を褒める言葉が出始めた。


「いや…ソロモンの見様見真似で…。本当にたまたま上手くいっただけで…」


 思わぬ評価に俺はタジタジになってしまい上手く返答できなかった。

 自分自身の考えた策で強敵をのり超えた。誇らしく、嬉しくはあるが、出来ればこの様な重荷には背負いたくは無いとも俺は思うのであった。

 ともかく疲れた。本当にソロモンって凄かったんだな…。早く復活してくれと心の底から願った。



「そんな私の可愛いくて最強のスキュラワンちゃんからあんなにも簡単に逃れられる何て…。しかもオデュッセウス様よりもスマートに解決するなんて信じられない。凄っく悔しい!

それにしもまずいわ。このままではまかせられていた時間稼ぎが失敗に終わってしまう。しかも、スキュラワンちゃんを召喚しちゃったから魔力があまり残っていないし」


くっ…一人で愚痴っていても無駄ですね。ここは自分の失敗をしっかりと反省して大人おとなおとなしく撤退するしか無いわね。まずは自分の命が大切です。あぁ、あとでオデュッセウス様に何て言い訳しようかしら。


何だかんだあっさりと撤退するキルケー。そこにはオデュッセウスが敗北する万が一にもオデュッセウスが敗北する可能性は無いという強い信頼があった。

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