第23話 幕間

 パリス王子、ソロモンから次の目的を聞いた日の夜。俺は中々眠れずにいた。朝、二人の前で言った事に嘘は無い。間違いなく本心である。しかし、不安でいっぱいなのも事実であった。召喚術の力が激減した俺は皆の役に立てるのだろうか?それどころか、足を引っ張たりしないだろうか?本当にこの選択は正しいのだろうか?

 答えのない自問自答を繰り返し、悶々もんもんとしていた。こんなに不安になるのは初陣ういじんの以来か。


 コン、コン


 そんな時、部屋のをノックする音が聞こえた。


「まだ起きているかアキレウス?」


「その声はモルドレッドか。どうしたんだこんな夜中に。起きているから入ってきていいぞ」


「それじゃあ、失礼する。悪いなこんな時間に。どうしても一回お前と二人で話したくなってな」


「そうか、俺も眠れなかったところだったからちょうど良かった。それにお前となら肩肘張かたひじはらずに話せるしな」


「不安か?」


流石さすが、昔からの付き合いだけはある奴は遠慮えんりょ無くは痛い所をつくね。恥ずかしながらその通りだよ。

 ここまで召喚術という特質的な異能に恵まれて憧れであった騎士達と同じ戦場に立ってれたんだ。それが弱体化した今、パリス王子の期待にこたえられるかどうか…」


「フレイム神殿の遠征を断る気は無かったのか?」


「あぁ、残って王都の守備しゅび貢献こうけんする道も考えたけど俺を信じて今まで良くしてくれたパリス王子に大きな恩にこたえたい。

 子供の頃はトロイで一番の騎士を夢見ていたが、今はただパリス王子のそばにい続け、あの方の力に成りたいんだ」


「はぁ〜相変わらずお前は真面目で優しいし、人をうたがうたがわないな。それはお前の長所でもあるが、同時に欠点でもあるな。

 アキレウス、お前はもっと自分自身を大切にするべきだ。このままだと、いずれ使い潰されるぞ」


「使い潰されるって心配し過ぎだよ。モルドレッド、俺はそんなにヤワじゃあないぜ。頭も悪く、けんの才能も無いけど体力ならお前にも負けねぇーよ。

 それにがたい事にパリス王子はそのあたりかなり気を使ってくれている。今回みたいに倒れるケースはそうそうないさ」


「お前はかなりパリス王子を信頼しているんだな」


「当たり前だろ。召喚術っていう得体えたいの知らない力を持った俺をここまで大切にしてくれているんだぜ。下手したらあの時、監禁からの処刑コースもありえたんだ。命の恩人と言っても過言じゃあないだろ。

 しかも、身分とか関係なく誰にでも親しく話す人格者だぞ」


「確かにお前がパリス王子に熱を入れるのも理解できる。実際、召喚術という本来なら魔人しか使えない術を気味悪がらず、排除せずに利用しようとする気概きがいがあるのはパリス王子ぐらいだ。いまだにトロイ王国内ではお前にあらぬ疑いを持つものいる。現状はパリス王子に従うしか道はないだろう」


「そうだろ。モルドレッドだって分かっているじゃないか。パリス王子にくすのが正解だろ?」


「待て、現状はそれが正解かもしれないが、熱に浮かされ盲信になってはいけないな。パリス王子だって清廉潔白せいれんけっぱくっていうわけでは無い。お前を重宝ちょうほうしているのもおのれの利があってこそだ。だから最悪の場合も考えて自分の身を守る事を忘れずにいるな」


「モルドレッドはパリス王子の事をあまり良く思ってないのか?」


「そういうわけでもないんだかな。何と言うかな。うん…お前の言った通りで単に俺が心配し過ぎでいるのかもしれない。だけど、もう少し自分を大切にしてくれ。お前の夢や気持ちは分かるが、俺にとってはお前は家族の様な存在なんだ」


「お前、面と向かって恥ずかしい台詞せりふを良くそんなにも堂々と。まぁ、でも気持は分かった。気をつけるよ。

 しかし、まさか天才のお前にそこまで言われるんだ。俺も捨てたもんじゃないな。

 それとなお前も気をつけろよ。何だって俺にとってはお前はできの良い自慢の家族なんだからな!」


「俺なんてお前らがいなければ子供の頃に野垂れ死んでたさ」


「あの時はヒョロヒョロのお前がこんな立派な騎士になるとは誰も思っていなかったなー」


「あぁ、そうだな。俺もあの時はお前らに追いつこうとただ、必死だった」


まったく、凄い奴だよお前は」


「お前だって凄い。だからもう少し自信を持って自分を大切にしろよ」


「はいはい、分かりましたよ。本当に心配性だなモルドレッドは。まぁ、でもありがとうな。少し頭が冷えたよ。お陰で眠れそうだ」


「そうか、それは良かった。夜も遅いし、言いたい事は言ったし。俺はそろそろ出ていくよ。また明日な」


「モルドレッド」


「何だ?」


「また今度、二人で話そうぜ」


「あぁ、またな」


 お互いに戦場でいつ命を散らしてもおかしくない。血の繋がりは無いが、生き残ったたった一人の゙家族。願わくばもう失いたくない。

 そう思いながらベッドの゙中で目を閉じた。

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