第21話 オデュッセウス軍の進撃

「オデュッセウス様。先程、報告が入りました。アイアス様がたれたみたいです」


「そうか、連絡ありがとうキルケー。アイアスならもしかしたらトロイ王国を落としてくれるかもとわずかな可能性にも期待していたのだけど、やはりそう上手うまくは行かなかったか」


「恐れながらオデュッセウス様。私、少しだけ質問があるのですがよろしいでしょうか?」


「何だい?そんなに改まってキルケー。遠慮えんりょせずに言ってくれ」


「はい、アイアス様と共闘きょうとうしてトロイ王国を落とす事は考え無かったのでしょうか?」


「あぁ、何だそんな事か」


。その一言がキルケーに言いようもない恐怖を感じさせる。


「確かに僕とアイアスがめれば万全ばんぜんの準備がなくともトロイ王国を落とせる可能性は高くなっていただろう」


「それでは何故なぜ、援軍にけつけ無かったのですか?」


「アイアスと僕ではまともな共闘きょうとうができる可能性が低い。下手へたしたら互いの足の引っ張り合いになりかねない。

それならばこの機にじょうじて手薄になっているだろう奴等トロイ王国の龍脈を奪ってそれをつ方が勝算が高い。君だって分かるだろう?」


トロイ王国がアイアス軍に対する防衛ぼうえいで手一杯になっているすきをついてオデュッセウス達はトロイ王国に奪われた龍脈を奪い返していたのであった。更に二度と奪われないようにどの龍脈にも徹底してヒュドラの毒をいた。これによりトロイ王国の戦力は大幅に下がる事が期待できた。


「理解しています。オデュッセウス様は常に合理的に動いております。その上で私の愚問をおゆるしください。結果としてアイアス様を失われた事をオデュッセウス様はどうお考えになられていらっしゃいますか?」


キルケーは心の中でおびえながらも堂々といた。どうしてもつかえているあるじ見極みきわめたくなってしまったのだ。


「う〜ん、そうだなぁ。確かにアイアスを失った事は戦力的に大きな損失ではあるなぁ。でもまぁ、結果的にその分の成果は得られたんだからやっぱりこれで正解だよ。君は何か思うところがあるのかい?」


「いいえ、オデュッセウス様の選択に私は異論はありません。お気になさらずに」


あぁ、やはりこのお方は恐ろしい。感情というものがあまりにもとぼしい。同胞の死にさえ何の感情もいだかない。

本来の軍ならばこの様な性格は大将としては不向きなタイプかもしれない。どちらかといえばアイアス様のように感情が分かりやすい方が共感を得やすく、同士が集まりやすい。合理性だけでは逆に上手くいかない事もあるのだ。逆にアイアス様みたいに感情的過ぎて全く合理的な判断が出来ないのもダメだ。

持論じろんではあるが計算高い演技派というのが本来、大将としてはてきしているのかもしれない。アイアス様、オデュッセウス様、正反対な性格であり、両者共にそれらが上手うまく出来ない性格だ。真の総大将にはなりえない。

だが、従順に付き従うモンスターの軍勢となるとまた話は違ってくる。完全に従順にしたがう兵士ならそれはゲーム盤上のこまと変わらない。感情がはさまる余地の無い戦いならオデュッセウス様を上回る者はいない。恐ろしい程に淡々と勝利する。


「なら、終わった事の話はこれぐらいにして次の手の話をしよう。これから僕達は船を出してはなれ小島ある神殿に向う」


「まさか、異界の四大精霊の一つがまつられているフレイム神殿ですか?しかし、あそこは凶暴な竜種が蔓延はびこる危険な場所。何故なぜ、その様な所に進軍を?」


「トロイ王国に逆転の可能性があるとしたらそこにまつられている精霊ぐらいしか希望は無い。

大方の龍脈はこちらが支配下にある。ゆえに現状では召喚術の戦いはこちらが圧倒的に有利だ。

ヘクトールなど厄介な人間も何人かはいるが、それに関しては以前と変わらずに時間と数をかければ十分に押しきれる。

トロイ王国がこの状態をくつがえすにはもうそこぐらいしか希望は無い」


「確かに追い詰められたトロイ王国がそんなリスクのある行動を取るのでしょうか?それにそこまで危険視しなければなら無い物なのですか?」


「召喚術というトロイ王国にとっては本来ならばみ嫌う力に頼ったんだ。連中、特にパリスは可能性があるなら何でもすがるだろうさ。

僕らにとっては孤立するパリス軍と召喚術を使う奴を楽に始末するチャンスなんだ。まぁ、実際には神殿の精霊という脅威の排除はおまけ程度だね」


「そこまで考えていらっしゃるとは流石さすがはオデュッセウス様ですね。改めて感服しました。船を出すのは久しぶりでワクワクしますね。懐かしいなー」


「あぁ、僕もがらにもなく、少し気分がたかぶっているよ。良い思い出も悪い思い出もあるが海は好きだ」


「私もスキュラワンちゃんを好きに暴れさせれるから私も大好きです」


「はぁ~、意地悪だな君は。まぁ、でも今回はスキュラは恐ろしくも頼りがあるよ。存分に暴れさせてやりなさい」


「オデュッセウス様がそうおっしゃられるなんて珍しいー。よーし、いつもより張り切ってやってやりますよー」


キルケーは自分でも良くわからない心の中のわだかまり振り払うように明るく振る舞い始めるのであった。

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