第20話 決着

 アイアスはパリス軍に向けて歩みを進める。憎きヘクトールの前にまずはあのわずわらしい弓のパリスを殺ろう。その後でゆっくりとトロイ王国を蹂躙じゅうりんしてやる。

 そう決意していた時、再びパリスの矢がアイアスに当たる。矢は凄まじい威力ではあったが最早、アイアスは物ともしない。


「無駄という事が解らぬのか?それとも挑発のつもりか?いいだろう。のってやる。たとえ何かしらの策であろうとも今のわしは無敵。恐れるに足りぬ。全てをたたき潰して力の差を思い知らせてやる」


 アイアスは矢が飛んできたであろう方向に走り出す。そのアイアスに対してパリスの矢が更に何度も飛んでくる。


「わっはは、位置が丸分かりだぞパリス。逃げるなよ」


 まるでアイアスを矢が導いているかの様だった。パリスは奇襲と逃げの天才である。アイアス自身、パリスには何度も奇襲による被害を受けている。ヤケけになって無意味な攻撃を仕掛けて自らの身を危険にさらす馬鹿な相手では無い事は十分に理解している。やはり何かしらの罠だ。疑惑ぎわくが確信に変わる。

 しかし、まる気は無い。無敵としたこの身に如何いかなる策も通じ無い事を知らしめる。そうしてどうしようもない絶望というものをトロイ王国の者共に見せつけてやる。つまらぬ戦いではあるがこの怒り、そうでもしなければおさまらぬ。


「待っていろテウクロス。すぐにトロイ王国の全てをそっちに送ってるからな」


 飛んでくる矢を辿たどって進むと人間の兵士やモンスターもいないひらけた場所に辿たどり着いた。自分が近づいた事で逃げたのではと思い、立ち止まり辺りを見渡す。すると少し距離はあるが前方に即席そくせきの高台の上で矢をかまえているパリスの姿が確認できた。

 さっするにここが互いの正念場だろう。奴等が何か仕掛しかけてくるなら間違い無くここだ。この場所にわしを誘導したかったのだ。


「さてさて、貴様等が用意した策が最強の盾である我が身をつらぬけるのか、それとも無駄に終わるのか勝負と行こうではないか。少しは楽しませてくれるのだろうなパリス!」


 アイアスはそう声高らかに叫び、堂々と真っ直ぐに再び進み始める。ヘクトールもサルペドンの攻撃さえ、我が身に傷一つ負わせる事すら出来なかった。その絶対的な事実がアイアスの絶対的な自信となっていた。間違い無く今の自分は無敵で最強の存在だと疑うこと無く突き進んだ。実際にソロモンでさえ、アイアスに傷一つ負わせる方法を考えついていなかった。しかし…

 アイアスはその途中で突如とつじょとして浮遊感に襲われる。そしてそのまま奈落ならくの底へと落下していった。


「落とし穴とは小細工を…。しかし、この深さのをどうやって作ったのだ」


 凄まじい落下の衝撃をモロに食らたが、今のアイアスにはダメージには成らなかった。愚痴ぐちを言いながら立ち上がるとこの大穴のあるじが姿をあらわした。

 それはへびの様な長い体していた。目は完全に退化しているのか見られず、巨大な口には無数の牙がえていた。地中で深くで暮らす巨大なワームであった。


「この様なモンスターでこの魔人アイアスが殺られるとでも思ったかー!」


 アイアスは難なく自分を丸呑まるのみにしようとした巨大ワームをやりつらぬいて倒す。


めやがって。ぐに穴から抜け出して殺してやるぞパリス」


 アイアスは穴からい上がろうとする。しかし、上から大量の土砂が崩れ落ちてきてそれに押し流され上手うまのぼれない。ワームは一匹ではなかったらしく。残りのワーム達が別の穴をりながらこの穴をめているようだ。

 アイアスは降り積もっていく土砂による圧迫により、段々と動けなくなっていく。そしてそのまま生き埋めにされる形となってしまった。

 ◇

「何とか上手うまくいったみたいだ。しかし、あの無敵状態のアイアスを倒す方法を良く考えついたなソロモン。ひかえめに言って天才では」


 物理的にダメージを与える事が出来できないのなら別な方法で倒す。本当に俺には考えつかない発想だ。気づけばおだてるためではなく、本気で褒めていた。


「ふっふふ。どんなもんだい!英雄ヘラクレスはネメアの獅子の首を絞め続けて殺したらしいからね。魔人や魔物でも窒息死はするんだね」


「さっきは弱点は無いって言って無かったけ?」


はね!そもそも普通はこんなのは弱点とも言えないよ。誰だって窒息死はするだろ?」


「ぐぐぐっ…」


 それは屁理屈へりくつだと思うが、言い返すのはやめよう。口論でソロモンに勝てる気がしないし、機嫌きげんそこなわれても面倒だ。


「ソロモンが凄いのは当然だけど、囮役おとりやくをやってくれたパリス王子。魔術で落とし穴の隠蔽いんぺいをしてくれたアイネイアス様の活躍あってこそなのをきもめいじないとかないとな」


 せめてもの反抗でそう言うと


「それと君の召喚術だね。アキレウス君がいないと成り立たない作戦だったからね。君あってこそだよ」


「俺のおかげ…」


「何をほうけているのさ。君は凄いんだよ。勉強も頑張っているし、そのうち私が必要なくなるかも。あ〜でも、必要として欲しい。友達やめないで欲しい。うわぁ~考えただけで嫌だー。所詮しょせん、私は知識だけ必要な存在なんだー!」


「落ち着けソロモン。友達ってのはそう簡単にやめるもんじゃあないよ。魔王軍を完全に討伐とうばつし終わったとしてもソロモンが望むなら俺達は友達のままさ」


「本当に?」


「約束さ」


「やったー!ズッ友宣言だー!」


 良く分からない単語を発しながら喜ぶソロモンを見て少しだけ気持ちがやわらぐ。不安があるのはむしろ俺の方だ。召喚術があるからこそ必要とされているがもしこれが使えなくなったら俺は…


「うっ…」


 突然、体がだるくなりその場に倒れる。この症状は魔力切れ?おかしい、魔力の余裕はあったはずなのにどうして?それもこんな急に?


 俺の様子に気づき大慌てで叫び声を上げるソロモンを目にしながら俺は意識を手放した。

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