第19話 無敵の怪物

 アイアスは副官であるテウクロスが射たれ、ひきいていたモンスターもほとんど倒され、おまけに両軍に挟み打ちをされて逃げ道を失い、完全に孤軍奮闘こぐんふんとういられる形となった。

 いや最早もはや、軍の戦いとは呼べない状態である。

 魔人アイアスという個とトロイ王国軍の戦い。普通ならただ蹂躙じゅうりんされるしか無いな中でアイアスは次々とトロイ王国の兵をほふっていく。誰もがネメアの獅子と融合してあらゆる物理攻撃に耐性を持ったアイアスを止める事はおろか傷一つ負わせる事すら出来ないでいた。

 ゆっくりとだが確実にアイアスは歩みを進めていく。


「さて、こちらに意識を向ける事には成功したがどうなっているんだ?僕の矢が命中したはずなのに傷を負っている様子が無いぞ。しかも姿が何か変わってないかあいつ?」


「伝令からの情報によりますと頑丈で巨大な獅子のモンスターと一体化したそうでヘクトール王子、サルペドン殿の攻撃も意に介さなかったという事」


「はぁ?何だよそれ?意味がわからないし、信じられない。トロイ王国で最強クラスの二人の攻撃を意に介さなかったって。魔人とモンスターだからってデタラメにもほどがあるでしょ!」


 アイネイアスからの報告を受けたパリス王子は驚愕きょうがくした。あり得ない思った。堅物のアイネイアスが何かの気の迷いで冗談を言っている方が信じられるレベルの話だ。

 しかし、現状を見るに信じたくは無いがその情報は真実なのだろう。いつもの大盾を捨て矢の雨や兵士達の攻撃をもろに喰らいながらも足を止めること無くこちらへ向かって来る姿がそれを裏付ける。誰もがその姿に恐怖する。そんな強敵をよだれをたらしながら観察している変人が一人…


「伝令の情報から察するに一体化したモンスターはネメアの獅子で間違いなさそうかな。あらゆる物理攻撃を通さない最強の毛皮を持つ伝説モンスター。この目で見たかったぜ」


「ソロモンは相変あいかわらずだな。ここまでくるともう逆に安心してきた。名を知っているという事は何か策があるんだろう?ネメアの獅子と一体化したアイアスに傷を負わせれるモンスターでもいるのか?」


 これまでの戦いなどから俺もモンスターについて少し分かってきたところがある。強大なモンスターでも過去に退治された歴史がある。先人の英雄達がやりげた大偉業だいいぎょう。敵が一人ならモンスターの力を借りてその再現をするまでである。

 とはいえ、俺はそのへんの知識に関してはまだ勉強中であり、今はこの変人賢者様を頼りにするしか無いのである。


「傷一つ負わせる事も難しいね。歴史上最強クラスの大英雄ヘラクレスでさえ不可能だったんだ。実際にヘクトール王子の攻撃が通用して無いらしいから今の手札じゃあ無理ゲーだね」


「待てよ。何か弱点とか無いのかよ。たとえば火には凄く弱いとか水にれるとダメとか」


 あまりにも予想外の返答だったので俺は驚いてしまった。余裕そうにしているから何か明確な弱点があるかと思っていたのに。


い思考ではあるけど文献ぶんけんにはその様な明確な弱点は記載が見られないね。そのあたりは色々と試して見たくはある。ハァハァ」


 ダメだこの変態賢者様。


「現状だと明確な弱点は分からないって事か。だからと言って弱点を探す余裕も無い。アイアスの奴、僕の挑発にのって今まさにこっちに向かって来ているからね。それに無敵になったあいつを止めるのは難しいしな」


「無敵では無いですよ」


「しかし、ソロモン殿自身が先程、傷をわせれるのは現状は無理と」


「傷をわせれる事は無理。でも倒す事はできる」


 ソロモンはドヤ顔でそう言い放つ。うわぁ~またウザさが進化しているよこいつ。腹立つが仕方しかたない。機嫌きげんを損ねないようにいい感じにのせて上げよう。


「馬鹿な!一つも傷を負わせれる事なく、あれを倒す方法があるのか!?教えてくれソロモン」


 最初は恥ずかしかったけどもうこのオーバーリアクションも何だが慣れてきたな俺。


「ふっふふふ、落ち着きたまえ。簡単な事さ。まぁ、また君にモンスターの召喚をたのまないといけないんだけど」


「あぁ、任せなソロモンの頼みならやってやるぜ」


 いや、やっぱり恥ずかしい。というか段々とソロモンが調子にのってきて変な方向にノリが行っている様な気がする。


「となると問題はどうやってアイアスを罠の所まで誘導するのかだけど。これに関してはパリス王子が適任かな」


 とんでもない発言をしたよコイツ。王子をおとりに使うなんて良く軽々しく言えたな!だが、アイアスの様子を見るに確かに適任なんだろうな。あぁ、これ失敗は許されないな。胃が痛くなってきた。

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