第17話 七層の盾


 戦いは防衛側のトロイ王国側が優勢で進んだ。


「いくぞお前達、俺に続けー『戦神の咆哮ロアー・アレス』」


 地上のオーガやサイクロプスは城壁の上から放たれるヘクトール達のやり投擲とうてきにより城壁付近で次々と倒れていった。


「さてさてここまで辿り着いたって事はちっとは骨がある奴らかな?だが俺様の相手にはならないな。


雷神の制裁パニッシュメント・ゼウス』」


 なんとか門の前まで辿たどり着いた者もそこを守護する義理堅く屈強な猛将サルペドンの雷を放つやりとサルペドンの率いる獰猛どうもうな部隊の兵達の前に次々と倒れていった。


「来ましたね。僕も頑張りますか。パリス兄さん直伝『太陽神の厄災の矢ディザスター・アポロン』」


 上空から侵攻を試みたハルピュイア達はヘクトールの副官であり、聡明でありながら人懐ひとなつっこい性格な弟であるデイポボスが率いる弓兵によって撃ち落とされていった。


「やれやれ、分かってはいたが厄介な連中だな。特にヘクトールのやりの威力はヤバいな。オーガやサイクロプスが吹き飛んでいやがる。

 あれを何とかしないと門を破壊するなんて無理だな。どうしますアイアスの旦那?」


「分かりきっている事をわざわざ聞くな。モンスター共だけじゃあ落とせないのは予想通りだろ。行くぞ、テウクロス。和紙とお前で突破口を作るぞ」


「大将自ら出るとは…まぁ、仕方ないっすね。ケンタウロス共の弓ではヘクトールに届かねぇ。可能性あるのは俺のこの大弓だいきゅうぐらいだからな。

だが、モンスターを吹き飛ばすほどやりの射程範囲でこの大弓だいきゅうを構えるのは自殺行為だ。それを可能にできるのはアイアスの旦那しかいねぇ」


「そうだ。いつものわしとお前との合わせ技だ。狙いはヘクトール。奴さえ倒れればあとはモンスター共で十分だ」


「はぁ~、単純に旦那が前に出たがりなだけな気もするがそれが最善手か」


「おいおい、お前だって強い奴と戦いたいと思っているくせに俺だけが狂戦士バーサーカーの様に言いやがって。必要以上にその自慢の大弓だいきゅういじりながらよく言うぜ」


「あっ、バレてました?いやーやっぱり、あのヘクトールをおのれの手で討ち取れるというのは戦士としてテンションが上がりますよ」


「ははは、それでこそわしの相棒だ。強敵は自分達の手で討ち取ってこそだ。さぁ、そうとなれば俺の後ろに続け。一気に行くぞ」


アイアスは巨大な盾を構えながら戦場を突き進む。テウクロスもその後ろに隠れるようにしてアイアスに続く。

互いの攻撃の射程範囲内に近づく。オーガよりも体格が良く、モンスターとは明らかに格好が違うアイアスは目立ち標的になる。


戦神の咆哮ロアー・アレス


巨大なモンスターさえも吹き飛ばし地面にクレータを作る威力のやりがアイアスに向かって放たれる。


鍛冶の神の盾シールド・ヘパイストス


アイアスがそう叫ぶと盾の前に七層の巨大な壁が出現した。ヘクトールの放ったやりは三層までの壁を破壊した所でやり穂先ほさきが砕けて四層目で止まった。


「ほう、一層だけでも巨人の一撃さえ耐えうる俺の『鍛冶の神の盾シールド・ヘパイストス』をここまで破壊するとは思った以上にやるではないか。だが残念だったな。テウクロス、殺れ」


「おう、旦那。任せてくれ。この距離なら確実に仕留めれる。いくぞ『守護女神の鉄槌サンクション・アテナ』」


凄まじい剛力でで放たれた矢は少しのズレも無くヘクトールに向かっていく。


ドーン


城壁の一部が崩壊する。その土煙の中からヘクトールが姿を現す。


「ちっ、ヘクトールの奴め。直前でやりをぶつけて軌道をズラしやがった。だが流石に無傷というわけではなさそうだな。第二弾いくか。次は足場の城壁ごと吹き飛ばしてやる。アイアスの旦那、引き続き頼むっすよ」


「任せな。サルペドンの野郎が妨害しに来やがったが問題ねぇ。モンスター共で十分に足止め出来る。

怖いのはヘクトールのやりだけだ。だがそれも儂の『鍛冶の神の盾シールド・ヘパイストス』』を突破出来ない。

お前は安心してしゃにだけ集中しろ。ヘクトールを殺れ」


「了解。俺にニ射させた恥をかかせたことその首でつぐなってもらうぞヘクトール。『守護女神の鉄槌サンクション・アテナ』」


頑丈な城壁さえも破壊する死の一撃。しかしそれは狙いのヘクトールに当たること無く、そのはるか上を過ぎ去った。


「馬鹿なこの俺が矢を外すなどあり得ない。今回も狂いなく完璧に放ったはず…」


「落ち着けテウクロス。恐らくだが奴ら魔術で狙いを誤魔化したのだ。お前の射が完璧だからこその策だろう」


「こんな距離で幻覚魔術なんてかけれるのか?それこそおかしいだろ」


太陽神の幻惑ファントム・アポロンだな。昔、オデュッセウスから聞いた事がある日差しが強い時にしか使えない魔術で距離感などを狂わす。

条件の縛りの割に効果が地味だが射程を気にする戦いではかなり厄介な魔術だ。しかも視界に捕えられる範囲の敵に有効とか言っていたな。

ヘクトールの補佐をしているデイポボス辺りの仕業だろうな」


「小賢しい真似を!こうなったら射手としては二流だが数発で感覚をつかむ。アイアスの旦那それまで頼むぜ」


「あぁ、多少のズレはあれるが物自体は確かにあるんだ。数打てば当たる。こうなったら互いに撃ち合いだ。敵もそのつもりらしいしな。ヘクトールの奴、無駄だと分かっていてもまたこっちに投げて来やがるぜ」


戦神の咆哮ロアー・アレス


鍛冶の神の盾シールド・ヘパイストス


再びぶつかる破壊のやりと絶対防御の七層の壁。先程の結果からやりがアイアス達の所に到達する事は不可能。

アイアスもテウクロスもヤケクソの愚行だと思い自分達の勝ちを確信して笑う。

しかし…

四層目の壁が壊れる。


「「何!?」」


五層目が壊れる。六層目が壊れる。


やりはまだ止まらない。明らかに先程とは違う。手を抜いていた?いや、そんな様子は無かった。第一にそんな事をする理由がない。何故、やりの威力がこうも違うのか分からない。

分かるのは最早もはや、避ける事さえ叶わない一撃が迫っている事実。


七層最後の壁が破壊される…


ズサリ


やりに貫かれて一人の男が倒れる。それは大将アイアスではなく、そのうしろに隠れていたはずのテウクロスだった。


「何をやっているテウクロス!」


「何をって…大将殺られたらだめでしょ旦那…咄嗟の判断だが…上手くいったみたいだな…ゴホ…」


「喋るな!余計な真似をしやがって…」


「じゃあな旦那…悪いが先に失礼するぜ…あとの事は頼みましたよ…」


テウクロスは最期にアイアスに微笑ほほえんでから目を閉じた。

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