第16話 開戦

 魔王軍のアイアスに王都が攻められているとの一報が入り、急いで王都に向かう。


「このタイミングで王都に襲撃とはどう思われますかパリス王子殿」


「十中八九、アイアスの暴走だろうな。オデュッセウスの作戦にしては合理的じゃあない。龍脈をったなら孤立した僕達の軍を全力で潰しに来るのが定石だからね。

 驚きはしたがこれは不幸中の幸いだ。憎き魔王軍の大将の一人を打ち取れるチャンスだ」


「えぇ、私もそう思っていました。我々と王都の軍で挟み撃ちにすれば無敵とまで言われたアイアスでも打ち取れる勝算があります。王都の戦況がどうなっているかが心配ではありますが…」


「あいかわらず心配性だなアイネイアスは。王都の城壁は今までに超えた敵が存在しない鉄壁の盾。それに加えてトロイ王国一の英雄であるヘクトール兄さんがいるんだ。

 そう簡単にやられたりはしないさ。苦戦をいられているアイアスのしかめっつらが目に浮かぶよ」


 ◇

 それは見たことがない程におぞましい光景であった。獅子ししが描かれた真っ赤な旗の元に集う。モンスターの大軍。地上には自分達よりも体格が良いオーガやサイクロプスの軍勢が綺麗に整列しながら進んでいる。その後衛には馬の首の部分が人間の上半身に置き換わった様なモンスター。ケンタウロスが弓を構えて待機している。そして上空には大きな鉤爪かぎづめと巨大な羽をたずえた人間の女性と鳥を合わせたようなモンスター。ハルピュイア達が舞うように飛んでいた。

 トロイ王国の若い兵士なんかはその光景に恐怖し、逃走をこころみる者もいた。歴戦の戦士達にとってもこの様な事態には流石に足がすくんだ。今までに無い魔王軍の大胆な進軍に士気は最悪な状態だった。


みなの者、聞け」


 そんな中、トロイ王国の第一王子であり、守備の総大将であるヘクトールの声が響く。


「あのおぞましいモンスターの軍勢を見て恐怖する気持ちは分かる。普通のいくさでも怖いのだ。人外との戦いなんぞ怖いに決まっている。

 しかし、攻められている以上、我々に逃げ道は無い。我々が逃げればあの悍ましいモンスター達はなんの容赦ようしゃもなく、我々の故郷を家族を蹂躙じゅうりんするだろう。如何いかに敵が恐ろしくともその様な事態を許すことはできない。我が戦士達よ。大切な友のため、家族のためにもここで戦い抜け。同胞の為に恐怖に立ち向かう勇敢ゆうかんさこそ、トロイ王国の最大のまもりの壁だー」


 オーー!


 兵士達が雄叫び声を上げる。パリス王子とはまた違った味のヘクトールのこの演説は兵士達に勇気を与え、士気を高めた。

 ◇


「あー思っていたよりも敵さん達、気落ちしてないなー。マジで王都攻めやるんっすかアイアスの旦那?俺の見立てたと中々に厳しいぜコレは。

 オデュッセウスの野郎が気に入らないの分かりますが素直にパリスの方を狙うべきだったのでは?」


 長身の割に細身ではあるがアイアスにも劣らない筋肉質の体の持ち主。アイアス軍の副官であるテウクロスは聞こえてくるトロイ王国の兵士の雄叫おたけびを耳にしながらアイアスに対してそう軽口を叩いた。


「例えそれが最適解であっても奴の口車に乗せられるのはわしは死んでも御免だ。わしわしのやり方を貫く。オデュッセウスだろうが、トロイ王国だろうがムカつく奴は全部ぶっ飛ばす」


「はぁ~旦那と組んでから苦労が絶えないなー。付き合う俺の身も考えて欲しいぜ」


「たがお前もこっちの方が面白いのだろう」


 文句を並べているテウクロスにアイアスは満面の笑顔を向ける。


「あはははは。旦那にはかなわねぇな。あぁ、そうだとも合理的にやるだけじゃあ面白くない。確かに俺はオデュッセウスのやり方より旦那の方が好きだ。スカッとする」


「そうだろう。それにお前と儂なら負けることは無いさ。今までそうだっただろう」


「はいはい、もうこうなれば地獄の底まで付いていきますよ。しかし旦那、今回も旦那の共鳴獣シンクロモンスターは使わないつもりですかい?」


共鳴獣シンクロモンスターは使うつもりは無いな。あれは魔力を食うからな。それにあれに頼るのはつまらん。興味でもあったのか?」


おのれたましいひもづけられている強力なモンスターを呼び出す事ができるのは召喚術を使える者の中でも極一部のみですからね。

 機会があるなら見て見たかったんですよ。旦那の共鳴獣シンクロモンスターってのを。昔、見たオデュッセウスの共鳴獣ヒュドラが凄かったもんで」


「なるほどな。まぁ、追い込まれたら使わざるを得ないかもしれないが、そんな事にはならないだろう」


「相変わらず自信満々ですねー。まぁ、旦那が討たれるなんて想像もつかないですけどね。っと準備完了。無駄話はこれぐらいにして始めますかー。面倒なパリス軍が戻ってくる前に落としたいっすからね」


「うむ、開戦だ。モンスター共を突撃させよ。あの城壁に穴をあけさせるのだー!」

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