第5話 パリス王子の提案

「すみません。憧れのパリス王子の軍に所属できるのは嬉しいのですが。いきなりすぎて話がつかめません」


「ハハハハ、そりゃそうか。これから順を追って話すから落ち着いて聞いて欲しい」


「分かりました。よろしくお願いします」


 全く状況が分からないが、今は大人しくパリス王子の説明を聞こう。少しでも情報が欲しい。


「知っての通り今、このトロイ王国は魔王軍の脅威にさらされている。正直に言ってしまうと戦況はかなり厳しい。

 何しろ現状、魔王はほぼ無制限にモンスターを召喚できる。数が多い。こちらは守るだけで精一杯。攻めに使える人手が少ない。このままでは敗北は避けられない。

 しかし、そんな時に君が現れた。理由は分からないが同じ召喚術を使える君がこちらに加われば戦える。まさに一騎当千の将だ」


 楽しそうに話すパリス王子。だが…


「ちょっと待ってください。俺は召喚術なんて使えないですよ。パリス王子も知っていますよね。街から出た後にもやってみたけど再現は出来なかった事を…。

 そもそも冷静に考えてみれば俺にはそんな魔力が無いんですよ」


 期待には応えられない。街での出来事はきっと何かの間違いだ。このオリーブの冠の様なあざも何かの偶然にすぎない。


「あぁ、そうだね。君自身にはそんな魔力は無い。だけど、とりあえず百聞は一見にしかずだ。口で説明するよりも実際やる方が話が早い。まずはこれをつけてくれ」


 そう言って渡されたのは何やら術式が刻まれた首輪だった。


「これをですか?分かりました」


 パリス王子の意図が全く分からない。正直なところ、何か怪しいのでつけたくない。まぁ、今の俺に拒否権は無いのだからやるしか無いのだが。


「つけたら召喚術を試してくれ。そうだなぁ。ゴブリン一体を頼む」


「はぁ…分かりました。やってみます」


 わけがわからないが、とりあえず半信半疑で街でゴブリンを召喚した時の様にその姿をイメージする。

 すると首輪が青白く光り輝き。一体のゴブリンが目の前に姿を現した。


「わぁ!」


 予想外の出来事に召喚した俺自身が驚く。パリス王子はそれを見て笑う。


「アハハハ、大成功だね。実はその首輪は君が住んでいた街とリンクをつなげているんだ」


「俺達の街と…」


「あぁ、そうさ。君達が住んでいた所は龍脈。まぁ、簡単に言うと自然の膨大な魔力の通り道になっていたみたいでね。君はそれを利用して召喚術の魔力を補っていたのさ。

 だけどこれは誰でも出来ることではない。僕が知る限りでは魔王とその一部廃家と君ぐらいかな。だからこそ君は魔王に対抗できる可能性がある。

 魔王が占領している龍脈を少しずつ奪い返し、魔王軍を弱体化させつつこちらの戦力を増やす事が出来れば充分に勝機がある!」


 信じられない。俺にこの様な力があろうとは…だがこうも証拠を突きつけられては信じるしか無い。


「俺なんか魔王討伐の力になるのでしたら喜んで協力します。お願いいたします。俺をパリス王子の軍に入れてください」


「うん、こちらこそよろしくお願いするよ。アキレウス君。一緒に魔王を倒し、皆の無念を晴らそう」


 パリス王子が優しく微笑み、俺に手をさしだす。

 あぁ、そうだ。憧れのパリス王子軍の所属は勿論嬉しい、それに死んでいた友の敵討ちの為にも頑張らなくては。

 俺はパリス王子のどこか影のある様な笑顔と言葉に力をもらいその手をとった。


「さてさて、そうと決まればこれから僕の軍の要となる騎士達を紹介しよう!まずは君、自己紹介を」


 その言葉を受け一人の騎士が前に出る。パリス王子にも勝るとも劣らない美貌びぼう、長身で体つきも良い。それらは同性であっても思わず惚れ惚れとしてまう容姿であった。


「アイネイアスと申します。パリス王子とは昔からの仲でこの軍でも古株です。何か困った事があれば気軽に私に頼ってください」


「あ、はいよろしくお願いいたします」


 人柄も凄く良さそうだ。言葉使いも丁寧で緊張してしまう。そもそもアイネイアスといえばトロイ王国では誰もが知る指折りの騎士だ。騎士を目指してた者にとってはまさに憧れの対象であった。


「おいおい、アイネイアスが堅苦しいからアキレウス君が緊張しちゃているじゃあないか。仕方ない順番変えて次は君だ。と言っても君達の仲だと今更なんだけど」


 次に前に出た騎士は確かによく知る人物だった。


「新しくパリス王子の軍に加わったモルドレッドだ。よろしく頼むぜ」


「モルドレッド!?」


「パリス王子の命で俺もこの軍に加わる事になった。お互い大変な事になったが頑張ろうな」


「おう、知っている顔がいて安心したよ。よろしく」


 パリス王子も粋な計らいをしてくれる。モルドレッドと一緒なら色々な面で心強い。


「じゃあ次は君だね」


 3番目の人物は王宮の中だというのにも関わらず、甲冑かっちゅうをフル装備でつけていた。顔がかぶとで覆われているため素顔が分からない。彼?はそのまま


「ペンテシレイアだ」


 何処か違和感のある低い声でとだけ名乗った。


「え~と、アキレウスです。よろしくお願いいたします」



「無愛想ですまないね。悪い奴では無いんだよ。ただ人付き合いがあまり得意ではないのさ」


 パリス王子が慌ててフォロー?する。しかし、自己紹介の時さえかぶとを外さないとはよほど顔を見られるのが嫌なのだろうか?戦いで顔に酷い傷でもあるのだろうか。


「最後に騎士では無いんだけど、参謀かつ君の教育係の…あれ?彼女何処に行った?先まではここに…」


「ソロモン様ならあそこです」


 パリス王子の付人が示した方を見ると柱の陰に必死に隠れようとしている黒いローブをまとった丸い眼鏡の女性がいた。

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