第2話 リーダ

 見張り台の近くで再び絶望する。目標は目の前のだが入口にには多数のゴブリン。それだけならモルドレッドの『雷光一線ライトニングラッシュ』で今まで通りに突破が可能なのだが、高台からの矢の雨が凄くこれ以上近づくことが難しい。


「くそ、ダメだ。おしまいだぁ…」


「あぁ…こんな新米隊長に従った俺が馬鹿だった。こんな街なんて見捨てれば良かったんだ」


「こんな所で終わるのか…」


 ゴブリンの包囲網が狭まってくる。最早、兵士達は絶望の様子を隠すことさえしない。

(くそ、あともう少しの所で…本当にここで終わりなのか?あの矢を何とかする方法はないのか?)


「ハッハハ…羽があればこんな所から飛んでおさらばできるのにな…」


「そんなの天使や悪魔、妖精でもないんだ。こんな時にふざけた事を言うな。馬鹿」


 内輪もめが酷くなり、ついには戯言ざれごとを言い始める奴も出始めた。

 しかし、こんな状況では無理もない。かくいう俺も言葉には出さなかったが

(悪魔か…あぁ、昔、話で聞いた悪戯いたずら好きな悪魔のインプでも現れて奴らの邪魔でもしてくれたらな)

 などとその戯言ざれごとにつられてこんな危機的状況にも関わらず、変な妄想をしてしまった。


ズキン!


「くっ」


 また額が痛む。するとまた近くの地面が青く光り輝き始める。

 そしてそこから赤茶色の皮膚をしていて蝙蝠コウモリの様子な羽で飛び回る奇妙な生物が数匹現れた。そいつは人間の幼児よりも小柄でニヤニヤと歪な笑みをうかべでいた。

 そうそれは正しく俺がイメージしたインプそのものであった。


「何なんだこいつ…」


「いつの間に一体何処から…」


「新手か」


 周りの兵士達もそれに気がついて慌て始める。インプはそんな俺達をまるで嘲笑あざわらうかのように上空へと飛び立った。何だったんだ一体と思っていると…


「グワァー」


見張り台の上から人では無いおぞましい声が聞こえた。それと同時に矢の雨が弱まった。恐らくあのインプ達が見張り台の上にいるゴブリン達とめているのだろう。しかし、何故。いや、今はともかく



「仲間割れか何だか知らないが今がチャンスだ。乗り込めー」


 モルドレッドの号令に従って俺達は見張り台へと走り出す。ゴブリン達は予想以上にインプに苦戦しているようで梯子はしごもすんなり登れた。

 梯子はしごを登った先、複数体のゴブリンがいた。そいつらは今まで倒してきゴブリン達とは違って原始的な棍棒こんぼうではなく剣や弓など比較的にまともな武器を持っていた。その中でも大剣とボロボロで腹の部分だけではあるが簡易的なよろいを身につけた他の奴らより一回り以上も大きいという目立つゴブリンがいた。奴がリーダーなのだろう。

 ゴブリン達はインプに撹乱されて慌てている様子だったが、現れた俺達に気づき襲いかかってきた。乱戦。今までのゴブリンとは違い一筋縄ではいかない。

(何なんだこいつらは…普通のゴブリンがこんなにも強いのか…それにこの装備はどうやって…)

 疑問はつきないが、今はそれを考えている余裕はない。時間が経てば後ろから敵の援軍がやって来てしまう。苦戦しながらも俺達はインプと共に場を更に撹乱し、何とかモルドレッドとゴブリンリーダーとの一騎打ちの状況を作り上げた。


龍電一閃ドラゴンライトニングスラッシュ


 紫の雷をまとったモルドレッドの剣から放たれた目にも留まらない雷の斬撃波がゴブリンリーダーの首をはねる。

 

「ゴブリン共、これを見ろ」


 モルドレッドは直ぐにその首を拾い、それをかかげて叫ぶ。

 ゴブリン達は最初は何が起きたか理解していない様子だったが、自分達の大将がやられたと理解すると一目散に逃げていった。それが周りにも次々と伝わっていったのか見張り台を囲んでいたゴブリン達も撤退し始めた。


「何とかなったみたいだな…」


「こんなのりだ」


「死んたかと思った…」


 兵士達から次々と愚痴がこぼれる。まぁ、無理もない。死ぬかもしれない状況であったし、こんな貧民街なんて本来なら守るに値しない。そもそも何故、こんな街をコブリン達が襲撃したのかが分からない。人間の街ならどんなにみすぼらしくとも食べ物ぐらいはあるとでも思ったのだろうか?

 その謎はゴブリンが去った街を見回って改めて深まった。略奪というよりも街の住人を徹底的に殺す事を目的にしていたとしか思えない惨状であった。女子供関係なく至る所に死体があった。しかし、辱めれた様子はない。わずかな物資を奪った形跡もない。

 ただ殺戮さつりくの限りを尽くしたとしか思えない光景に俺は疑問と怒りを感じた。死んだ者中には俺の数少ない友人もいた。幼い頃からの親友パトロクロスを始めに皆が気の良いいい奴ばかりだったのに

 何故…なんで…どうして…

 ゴブリンの考える事を考えるだけ無駄なのかもしれない。しかし、怒りと疑問が収まらるわけがない。


「アキレウス、俺達は報告のために王都に戻る。お前も来い。行くあてが無いだろう。一人分ぐらいならあっちで生活の面倒を見れる」


「いや、お前に迷惑はかけれない。それにこいつらの埋葬してやりたいしな」


「そうか、俺も手伝ってやりたいが。悪いな。嫌な予感がするこの事態を一刻も早く王都に行って報告しなければいけない気がするんだ」


「気にするな。こいつらも悪く思わないさ。むしろお前の足を引っ張りたく無いと思うはずだぜ。何しろお前は俺達の英雄なんだからな」


「英雄とは大袈裟おおげさだな。アキレウス、流れ着いた捨て子の俺にとっては最早お前等が唯一の家族だった。何かあったら遠慮なく俺を頼りに来い」


「あぁ、分かっている。俺にとってもそうだからな。だからこそ今は一人にしてくれ」


だからこそ迷惑かけたくないのだ。才能のあるこいつのかせにはなりたくない。


「それじゃあな。俺の分までしっかりとむらってやってくれ」


 別れを済ませようとした時…


「隊長ー。大変だ。大変です。ヤバいですー。」


 見張り台の方から一人の兵士が慌てながらこちらにやって来た。


「おい、一体どうしたんだ。何が大変なんだ」


「はぁ…はぁ…軍です…魔王軍がこの街に進軍してきているんです!!」


「「魔王軍!!」」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る