サモナーミリタリー

しき

第1話 襲撃

 俺、アキレウスは友人であるモルドレッドのトロイ王国軍の入隊式を見に来ていた。

モルドレッドは俺達の仲間内では学問、魔力、剣技に優れていて自慢の存在だった。そんな自慢の友人は国の武道会で優勝し、貧民である俺達の憧れである王国の騎士となったのである。

 モルドレッドは俺達と同じ貧民街で育ったにも関わらず、俺なんかとは違い背は高く、綺麗な金髪の好青年で、育ちの良い貴族や王族達と見比べても美しかった。そんな彼の晴れ姿は本当に素晴らしかった。


「モルドレッドの奴いきなり隊長だってよ凄いな」


「それだけ王国軍が魔王軍に対応できていないの状況なのかもな」


「でもモルドレッド君なら魔王軍にも負けないよ」


 俺達は遠くから遠い存在になってしまった友人について語りあっていた。


 この国は魔王軍の脅威にさらされているらしい。魔王という存在が魔物を使役し各地を襲っているので魔王軍に対抗するために多くの優秀な兵士が必要で身分問わず、この様な形での成り上がりが増えているのが現状だ。

俺自身もそんな成り上がりの夢を見てはいるが、剣の腕はモルドレッドとの特訓もあって中の上だが、学問、魔力に関しては下の下だ。王国軍の兵士になるなど夢物語なのが現実であった。


「そもそもモルドレッドとの奴が特別なんだよなー。剣の腕はともかく、貧民街の生まれであの魔力量。ろくな教育を受けていないのに学者顔負けの知識量とか何なんだよ…あいつは」


 日が暮れ、俺は愚痴を言いながら住み家のある貧民街へと向かっていた。他の仲間達はとっくに帰っている。俺は軍の入隊式のセレモニーが終わった後、喜び、憧れ、嫉妬、妬みなど様々な感情に押し寄せられて少し憂鬱ゆううつになっていた。俺は仲間達を先に帰らせ一人で物思いにふけって適当に道草を食っていた。


「しかし、流石に遅くなってしまった。皆に心配させれているかもな。…ん、日が暮れているのに何だ街の方向がやけに明るいな…火事か!」


 街に近づくと至る所から火の手が上がっていた。皆は無事だろうか?それに何だか変だ。火の出処が多すぎる。一箇所から燃え広がったにしては不自然だ。そう疑問に感じた時、見慣れない生物の姿が目に入った。

それは小柄こがらに不釣り合いな筋肉質な体をしていた。そして緑の皮膚、尖った耳、赤い目、獣のような牙がそれが人間では無いことを主張していた。

 学の少ない俺でも分かるいわゆるゴブリンという魔物だろう。コブリンは俺を見ると棍棒を振りかぶりながら襲いかかってきた。俺はそれを何とかかわし訓練用に持っていた木刀でゴブリンの頭を叩く。だが所詮しょせんは木刀。一瞬、ひるませるぐらいにしかできない。ましてや殺すなど至難の業だろう。しかもこいつ一体というわけでもないらしく、こうしている間にも何体かの他のゴブリンがこちらに向かって来ているのが見える。


「何なんだよくそー」


 俺はわけも分からないまま全速力でその場からの逃走をこころみた。無我夢中で走る。頭の中は混乱していた。注意力が散漫になっていた俺は何かに足を引っ掛けてしまいその場に派手に転んだ。見るとはそれは無惨に殺された人間の死体だった。顔の所を棍棒で殴られたのだろう。顔が潰れ見るに堪えない状態だった。


「うわぁー」


 俺は思わず大声で叫んでしまった。その声を聞いてか、先程ふりきったゴブリンが現れた。しかも後ろからも別なゴブリンがやってきている。

絶体絶命の状況。俺の人生はここで終わりなのか?嫌だまだ死にたくない。まだ何も俺は成し遂げていない。鼓動が今までに無いほどに早まり、体を流れる血液が沸騰するような感覚に襲われた。


ズキン!


 いつの間に切ったのだろうか額が痛むと思っていたら、そこから血が流れてきた。


「くそ、こんな時に…」


 俺は血が流れ出る額をおさえながら迫りくるゴブリンをにらみつける。その瞬間、自分の目の前の地面が青く光ってそこから新たなゴブリンが現れた。

 くそ、新手かと思っていると新たに現れたそのゴブリンは俺を追いかけてきたゴブリンと戦い始めた。仲間割れか?とりあえずなんでもいい。俺はその隙をついてその場を逃げ出した。コブリンの数が多い。俺一人ではダメだ。とりあえず街の外に逃げなければ。

 その時、複数の人の声が聞こえ、俺は反射的に身を隠す。


「故郷が魔物の襲撃を受けていると聞いて駆けつけて来たがまさかここまで悲惨な状況とは…。隊長就任早々に独断専行の行動、身勝手な命令ですまない。しかし、皆も大切な故郷があるはずだ。頼む、俺と一緒にこの街を救ってくれ」


凛々しい声で数十人の兵士を引き連れている人物。それを見て俺は飛び出した。


「モルドレッド!」


「アキレウスか?!無事だったのか?皆は無事か?」


「すまない、お前の就任式の後、俺だけ皆とは別に帰ってな。俺も今、この状況を見たところなんだ」


「そうか…。とりあえずお前が無事で良かった。額の傷以外に怪我も無さそうだな。なんか妙な痣になっているがもう血も止まっているみたいだな」



「あぁ、逃げている途中で切ったのかな。それよりも剣が余っているなら貸してくれ。俺も戦う」


「分かった。俺の思っていた以上に魔物が多い。今は一人でも戦える奴が欲しいし、土地勘があるなら奴なら尚の事だ」


 そう言ってモルドレッドは剣を俺に渡した。


「ありがとな。いい奴を友達に持ったぜ。よろしく頼むぜ隊長」


「からかうなよ。それよりもしっかりとついてこいよ。少しでも遅れたら容赦ようしゃしないからな」


 モルドレッドは昔と同様に変わらずに俺に接してくれている。その様子に俺は何だか嫉妬していた事が恥ずかしくなってきた。

 俺達は街に蔓延はびこっているゴブリン達と応戦していった。それにより街の人間はもうほとんどがゴブリンによって殺されている事。そしてそのゴブリンの数が多くこのままではこちらが疲弊ひへいし、いずれ全滅するという事が明らかになった。


「隊長、無理です。撤退しましょう」


「いや、ダメだ。こいつらを野放しにしたら他の村や街を襲うだろう。それは看過できない。それにかなり街の奥に来てしまった。今からでは上手く撤退できるか分からない」 


「しかし…」


 旗色の悪い状況、内輪もめが始まり出した。士気が下がり始め団結が乱れ始めている。このままではまずい。早く、何か希望が見える打開策を見つけなければ崩壊する。

 モルドレッドは個としては確かに優秀だが、隊長としてのまだ経験は浅い。この状況で兵士達をまとめるのは難しいだろう。貧民街の成り上がりならなおの事。ふと、一つの疑問が浮かび口に出る。


「ゴブリン達にもリーダーはいるのだろうか?」


「それだ!これだけの集団なら統率をとっているゴブリンリーダーがいるはずだ。そいつを倒せばこの状況を変えられる可能性が高い」


「だが、そんな奴がどこにいるかなんて分からないぞ」


定石じょうせき通りなら全体を俯瞰ふかんして見れる所だが…」



「街の奥の見張り台!!」


 俺とモルドレッドの声が響く。


「あぁ、そうだ。そこが一番可能性が高い。ついてこい」


 モルドレッドはげきを飛ばし、突き進む。困惑する者や疑問を持つ者もいるが問答無用である。既に進むも地獄退くも地獄の状況。兵士達は完全に納得がいかなくとも生き残るための可能性がある道にかけるしかない。

 見張り台に近づくにつれてその予想が当たっている可能性が高くなってきた。ゴブリンが点在するのではなく、まとまっている。しかも数が多い。明らかにこの先にある何かを守っている様な感じがある。


雷光一線ライトニングラッシュ


 モルドレッドが雷をおびた魔力と剣術を使った突進の技で道を切り開く。数の上ではかなり不利な状況。まともに相手などしてられない。隊長モルドレッドを先頭に一点突破で突き進む。

 行ける。絶望的な状況にわずかな希望が見えたかに思えたが…

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