第4話 晴城
晴城。
人魚。
年齢不詳。
きらきら笑顔の青年の姿。
海で生まれた人魚なのだが、陸の生活に憧れて仲間の人魚たちに見送られながら上陸。今現在お世話になっているホストの店『めあめあ』の店長に出会い、ホストの道へと進む。
老若男女あらゆる人間、あらゆる生物を甘やかして一時の夢を見せる中で、蜂蜜のようにとろとろに溶かし、一時の夢が覚めて送り出そうとする時に、自らの意思で自らを形作れるようにしたいとの信条の下、晴城は移動するホストの店で足を運んでくれるお客様と接し続けていたとある日。
店が休みで散歩を楽しんでいた晴城は、悲痛な叫びを上げ続ける少年の姿を見つけた。よほど長い時間叫び続けていたのだろう。掠れる声で、それでも叫び続ける、名を呼んで捜し続ける少年を放ってはおけなくて、声をかけた。
妹を捜し続けているんです。
守れなかったんです。
とても大切な存在なんです。
捜さなければ。
早く、はやく、ハヤク。
少年、崇は寝食を拒否して、妹の未亜を捜し続けていた。
これでは身体がもたない。
いくら九尾の妖狐だから丈夫なので大丈夫ですと言われても、はいそうですかと引き下がれるわけがなかった。
晴城は根気強く、崇に伝え続けた。
大丈夫見つかるよ絶対にだからちゃんと寝て食べて、でないと見つけられた時に未亜ちゃんが心配するよ。
嫌ですそんな時間はないです。
最初は拒否し続けた崇も、ゆっくり、ゆっくりと、砂漠の砂が水を受け入れるように、晴城のきらきら笑顔と優しさ、落ち着いた言動を聞いては、少しずつ晴城を受け入れるようになっていき、寝食もきちんと取るようになっていった。
よほど大切なんだな。
接するうちにわかった。普段の崇は穏やかで冷静、丁寧な言動を取る少年だった。
その崇がここまで狂い乱れるなんてよほど大切なのだ。
半身と言っても過言ではないほどに。
早く見つけてあげたい。
晴城は店長に休暇を申し出て、崇の妹探しの手伝いを続けた。
私は一人で大丈夫です。
崇は何度も何度も断ったが、晴城は持ち前のきらきら笑顔と優しい言動で手伝いの申し出を受け入れてもらい、そして長い時間をかけて漸く見つけ出したのであった。
感動の再会に思わず涙を流してしまった晴城は、崇に運命の相手だと紹介された時はびっくりし、また、どうして未亜に睨まれているのか困惑したが、どうしてか、未亜を見ていると、胸が高鳴った。
どうしてか。
何か。
何か忘れていた。
忘れさせられていた記憶が。
よみがえる、ような。
声が、
『ふふっ。初めての吸血で、こんなに甘ったるい血に出会うなんて。もう。これから一生飲まなくても十分なくらい、濃厚だったわ』
声が、聞こえる。
身体が、心が、甘やかにしびれてしまう、声が。
(2023.5.16)
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