第3話 崇




 崇。

 九尾の妖狐。

 年齢不詳。

 穏やかに微笑んでいる少年の姿。


 戦闘衝動が全く起こらないことをよかったと思いつつ、闘い大好きで怪我だらけの仲間の九尾の妖狐から離れて一人旅を続けていたとある日。

 道端で蹲っている少女を発見。具合でも悪いのかと駆け寄ると、目を真っ赤にさせて鋭い牙を口の外へと伸ばし、涙を流しながら血が飲みたいと訴える少女の姿がとても苦しそうだったので牙に腕を当てて血を飲んでと言ったが、少女はすぐには飲まなかった。

 飲みたくないのだろうと思いつつも、少女の正体が吸血鬼だと察した崇は血が必要だと判断。

 ごめんなさいと謝って、自分の腕を自分の爪を鋭く伸ばしては切り裂いて少女の口に近づけると、少女は泣いたまま血を飲み始めた。

 守りたいと、衝動的に思ってしまったのだろうか。

 崇は気づけば一緒に旅をしませんかと誘い、血を飲み終わって平静さを取り戻した少女、未亜がおずおずとお願いしますと受け入れてくれて以降、崇は未亜を妹として慕い、未亜は崇を兄と慕い、各地を一緒に旅をしていたのだが、とある土地に足を踏み入れた瞬間、空間がぐにゃりと歪んだかと思えば、未亜の姿が消えていたのだ。

 

 崇は未亜がいなくなったことに気が狂いそうになった。

 守りたい、ずっと守り続けたい、あの笑顔を。

 自覚して、どんどん守りたいという想いが強くなっていっていた中で、離れ離れになってしまったことに、手を握って、抱き寄せて、守れなかったことに強い焦りが生まれた崇は、半狂乱になりながら未亜を探し続けた。


 見つからない。

 見つからない。

 未亜、未亜、未亜!

 心の中だけではない。

 実際に叫び続けていただろう崇に、晴城が声をかけたのだ。

 一緒に探すと言ってくれたのだ。


 大丈夫見つかるよ絶対にだからちゃんと寝て食べて、でないと見つけられた時に未亜ちゃんが心配するよ。


 晴城はきらきら笑顔を向けて、優しく崇を励まし続けた。

 きらきら笑顔の晴城はいつも落ち着いていた。

 だから、崇は心を強く保てた。

 安心できた。

 素敵だなと思った。

 思った瞬間、坂から転げ落ちるように、夢中になった。

 もちろん、未亜を見つけることが最優先だったが、いつも晴城のことも考えるようになってしまった。


 だから崇が未亜を見つけられた時に、喜び、抱きしめて、体調は悪くないか、お腹は減っていないかなどをお互いに確認して、崇が未亜に守れなくてごめんなさいと謝り、未亜も姿を見失ってごめんなさいと謝ってのち、時間を置いて崇も未亜も気持ちが落ち着いた頃、未亜に晴城のことを尋ねられた時に言ってしまったのだ。


 見つけたよ。

 私の運命の相手を、と。











(2023.5.16)


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