第11話 ルシアーノ攻略戦 Part.1

─── ザボッド帝国南部ルシアーノ港 連合軍仮設陣地 2026/7/20 8時59分(UTC準拠)


夜間に発生した大規模攻勢から数時間後。ドイツ、フランスと数時間前に合流したロシア空挺軍がルシアーノ郊外に保有する全戦力が集結していた。戦車、自走砲、対空砲、輸送車両に攻撃ヘリ……街一つ消しとばしてしまえるほどの戦力を集め、作戦開始時刻ゼロアワーを待つ。


5、4、3、2、1……時計の秒針が12時を過ぎた時


「全部隊作戦開始!前進せよ!」


司令部の号令と共に参加国の主力戦車や兵員輸送車両などが前進を始めていく。


上空には臨時滑走路から飛び立ったロシア空軍所属Su-25SM3やイギリス海軍所属F-35Bなどが制空権を取った空を高速で飛んでいく。彼らは近接航空支援CASのため上空で待機状態に入った。



「いいか!ここルシアーノが落ちれば敵に内地侵入を許す事となる!全力で防衛に当たれ!今回の敵は我々の知らない技術を駆使してくるだろう!だが我々には崩れない忠誠心がある!知恵もある!祖国を侵略させるな!帝国に栄光あれ!」

「「「「「帝国に栄光あれ!」」」」」


昨夜の攻勢で多くの人員が失われたものの、いまだに4万人ほどの人員を確保できているのは奇跡だろう。まあ昨夜の人員がいれば10万を超えていたが。

斥候からの最終通信では敵は既に反撃体制を整えているらしい、それ以降彼らからの通信は無い。


上空には敵のワイバーンとも見れる鋼鉄でできた鳥が数十匹悠々と飛んでいる、ワイバーンは出せない、ならばここで時間を稼ぐのみ。本隊さえくればまだ立ち直せる。



「撃てぇぇぇ!」


ドゴーン!ドイツ陸軍のLeopard2A7が発射したDM11と呼称される破砕榴弾に木でできた門は吹き飛ばされ、裏にいた十数名の敵兵ごと吹き飛ばす。空いた穴からは連合軍兵士が侵入し、主力戦車が残った破片ごと踏み潰す。



「第一陣発射!撃てっ!」


木とレンガで構築された防御陣地より魔導士らが攻撃を始める、色さまざまな魔法陣より発射される弾は火、雷、水など様々で、普通ならば人に当たるだけで致命傷を負わせることのできる魔法ではあるが、装甲車の前には無力であった。


「撤退しろ!遅延させるだけでいい!」



「敵潰走しました」

「突き進むぞ、進め」


ドイツ軍のボクサー装輪装甲車が敵防御陣地を進もうとした時


ドゴーン!


地面が突如爆発し、ボクサー装輪装甲車を行動不能にし、付近のドイツ兵を吹き飛ばす。



「やったぞ!」

「行け!今だ!」


見計らっていたのか陣地奥より帝国兵が続々と走ってくる。



「クソっ!地雷にかかったか」

「敵数十名来ます!」

「応戦しろ!アンダーソン!装甲回収車を呼べ!」

「了解、少々お待ちを」

「30mm行くぞ!」


タイヤは破損したものの戦闘モジュールである30mm機関砲は健在のため、通りを進軍する帝国兵に対して応戦する。


「ドク!こっちだ!」

「何があった」

「対戦車地雷だ!数名が負傷!」


横の住宅の壁に高速で飛んできた水が着弾する。


「ここは危険だ!……っ!負傷者を下がらせろ!応急処置はそれからだ!行くぞ!」

「カバー!」



「あいつなんなんだ!あの爆破で死んでねえぞ!」

「だが動けていないようだ!畳みかけろ!」

「なんでこんな……ぐわっ!」

「前方の集団が吹き飛ばされたぞ!」

「クソクソクソ!いつ死ぬんだあの塊は!」

「撤退するぞ!これ以上損害は出せない!」

「撤退だ!撤退!」


作戦開始2時間でルシアーノ全域で戦闘が発生。連合軍は装甲車と共に歩兵を随伴させる基本戦術を取り、初期段階では多くの戦果をあげていた。


帝国軍はそのような連合軍に対し、あらかじめ地面に爆発魔法を仕掛け、それに透明化を施し擬似的な対戦車地雷を作り上げて設置していた、加えて市内全域でゲリラ戦を展開することで連合軍兵士に一定数もダメージは与えていたが、装甲車の前には役に立たず、上手くいって行動不能にするのみであり、撃破までには至らなかった。



「レオーネ司令」

「戦況はどうなっている?」

「報告いたします、既に我が軍と敵軍は交戦状態に入っており、敵は我々に第一防衛ラインに到達しました、我が軍は魔道士をフル稼働させ、爆発魔法による遅延作戦を展開しており、前線からの情報によれば一定の戦果はあげているものの、以前として敵は鉄でできたゴーレムにより前進してきているようです。」

「いつかは破られるか」

「ええ、一応市外への撤退ルート確保は完了しました、あとは時間を稼ぐのみです。」

「あとどれぐらい稼げるだろうか……」




───ザボッド帝国 帝都フィフス 5026/6/12 ██時██分 13時33分(UTC標準時)


会議室に沈黙が走る、ヴァレダ国王はイラついているのか机を指で叩き続けている。


「いつ報告が来るんだ?」


沈黙を破ったのはヴァレダ国王本人であった、国王は家臣らを睨むように見渡し催促する。


「誰が報告をするんだ?」

「そ、その国王閣下、未だに伝令隊が到着しておらず……」

「で?」

「あちらでトラブルか、道中で何かトラブルがあったと思うしか……」

「考えられるトラブルはなんだ?答えろ」

「分かりません……」

「……さっさと状況を確認してこい、その目でな」

「わ、私がですか!?」


家臣の一人は驚いたように目を丸くした。


「当たり前だ、お前が見たものをそのまま報告しろ、帰ってこなかったらそれはそれで状況がわかる」

「他のものが……」

「だめだ、お前がいけ、いいな?」


家臣はそのまま椅子にへたり込んで頭を抱えた。


「あの大陸が手に入らなければ我々は存続できんのかもしれんのだ、そのことを頭に叩き込んでおけ、必ず手に入れろ」




─── ザボッド帝国南部ルシアーノ港 郊外 2026/7/20 8時59分(UTC準拠)


ルシアーノ郊外に広がる農耕地帯、起伏が少なく、見渡しが良い。そのおかげか警備に当たっていた兵士らはそれを見ることとなる。


「お、おいなんだよあれ」

「何か来るぞ」

「馬じゃないな……」


近づいてくる多くの乗り物みたいなものが一瞬光った、その時。


ドドドドーン!!!


警備兵らがいた場所は爆発し、砂埃が舞う。


「目標に命中」

「榴弾じゃ過剰か」

「報告されるよりマシですよ」


小麦畑の上を走る戦車達、西側諸国の戦車に比べて側面に凸凹があるその姿は東側諸国でよく見られる物ではあった。T-72B3、T-80BVM、コアリツィア自走砲、BMP-2M、2K22ツングースカ自走対空砲、パーンツィリS2対空システム、BTR-82Aなどのロシア製兵器が草原を駆け抜ける。上空にはロシア空軍所属Su-25SM3、イギリス海軍所属のF-35Bが待機しており、地上部隊と連携を取っている。



「なんだよあの量……」

「と、とにかく本部に報告しに行くぞ!このままじゃ最悪側面を抜かれちまう!」





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