第10話 攻勢
─── ザボッド帝国南部ルシアーノ港 連合軍仮設陣地 2026/7/19 23時39分(UTC準拠)
キーン……キーン……夜にも関わらず空には灯りが灯され、夜間に進軍する帝国軍を明るく映し出す。その十数秒後には最前線にいた歩兵が吹き飛ばされる、その瞬間を目撃した残りの歩兵は空から何か落ちて来ていたのを見る。そしてそれがキーンと言う音とほぼ同じタイミングに爆発している事も……まあ一部の兵士には分かったであろう。だがそれが分かったところで次は前方から秒速800mを超える速さの弾丸が飛んでくる事になるのだが。
「準備完了」
「
キーン…… フランス陸軍のLLR 81mm迫撃砲から弾頭が発射され、照明弾や榴弾が発射される。照明弾は辺りを照らし、敵兵をただの的にする。兵士達はそれを榴弾と小銃で命中させる簡単な作業を繰り返していた。
「そろそろ終わりか?」
「そうらしいですね、敵兵が後退していきます」
「朝の攻勢でどこまで進めれるかが勝負になりそうだな」
「ロシアの方は上手くやっているようですよ。流石は陸軍国家ですね、最新装備が勢ぞろいでしたから」
「こっちは攻撃ヘリですら2機しか用意できてないんだぞ」
「うちは欧州防衛に装備と人員を割いていますからね、まあ明後日にはドイツからの援軍も来ますし大丈夫でしょう」
「さっさと占領して簡易の飛行場建設しないと航空機による支援も受けられんからな……?そろそろ照明弾がk」
ドーン!大きな爆発音と共に巻き上げられた土が落ちて来た。元々迫撃砲があった場所はクレーターと化しており、パイプのようなものが少し離れたところに落ちている。
「ドク!こっちに来てくれ!負傷者だ!」
「何があった!」
「敵の攻撃です!こう……言い難いのですが、小説でよく見る魔法のような物g」
再度爆発音が鳴る。まだまだ敵がいるらしい、銃声と爆発音が今までと比べ物にならないほど鳴っていた。
「ルクレールを前に出せ!火力支援だ!」
「50口径持ってこい!敵が押し寄せてくるぞ!急げ急げ!」
「被害は?」
「ロベール司令官!報告すると現時点での被害は迫撃砲二門が使用不可、数名が負傷しました!」
「敵の数は?どれぐらいだ?」
「分かりません!奴ら姿が見えないんです!透明みたいな……」
……アフガンやイラクを渡り歩いたがこんなケースは初めてだ。敵が透明などあり得るはずが無いのだが、統合司令部から送られた正式な資料とは思えない内容の馬鹿馬鹿しいファイルのせいであり得るんじゃ無いかと思ってしまった。
この世界には魔術という物が存在するらしく(サラッと資料に目を通しただけなので詳しい事は知らん)、それはゲームやコミックで良くある魔法陣のような形でもあるしそれ以外も存在するらしい。報告で聞いた火球や魔法陣、透明な敵兵はそういう類のものだろう。本当に存在するのであれば我々の世界の常識を覆し、それの対処に追われるだろう。
ただ今はそんな事を考えている場合では無い。
「兵士を集めろ!戦闘体制!航空支援を要請するんだ!」
「上手く行っていますね」
「今の所はな」
だがやはりこちらは練度が低いのか起動陣を真正面でわざわざ敵に見えるようにしている馬鹿を少なからずいた。そのせいで位置がバレて殺されている。
問題はそれだけでは無い。この司令部にも馬鹿はいるようで貴族上がりで戦争を知らないアホどもがこれに乗じて戦力の大部分を投入しようとしている。説得も意味をなさず、反逆だ何だが言われてで騒がれるだけだった。そのため奴らが要求する兵員をやった、まあ精鋭部隊は手元に残しておくが。
「行くぞ!我に着いてこい!奴らを撃滅するぞ!」
「「「「「うおおおおおおおおおおおおお!!!!!」」」」」
大通りには多くの兵士が行軍し、前線へ向かっていく姿が見える。
「馬鹿どもが」
「彼らがやられれば市街地戦では大きな不利を強いられます。ただでさえ南部を既に抑えられているというのに」
「あれほどの技術を持つ奴らが対抗しない可能性でも考えたのか?全く……テネス、君を私の補佐官に任命する。」
「えっ……補佐官はゲテールでは……」
「奴は死んだだろう?君も見たはずだ。」
「あっ」
ゲテール海軍中将の死に様を思い出したのか分かりやすいぐらい顔色が変わる。
「テネス、残りの部隊で防衛ラインを築け、できるだけ時間を稼げるように」
「了解致しました、レオーネ司令官」
テネスは直ぐに司令部へ走って行ってしまった、あんな奴らよりよっぽど有能だ、あの男は。
「ナイトビジョンがイカれちまった!」
「敵が大量にくるぞぉぉ!」
「迫撃砲チームは退避!後方へ移動しろ!」
簡易宿舎を出るとフランスとドイツ軍の兵士らが自分の必要な場所へ走って行っている。
「おいハインツ!何ボケっとしてんだ!分隊長からお呼ばれだぞ、お前のせいで遅れて罰を受けるのはゴメンだからな!」
「あ、ああすまん」
戦友のフィリップと一緒に分隊の元へ向かう。途中ではドイツのLeopard2A7主力戦車やフランスのLeclerc主力戦車を含む 多くの装甲車が前線へ向かっているのが見えた。分隊はほぼ全員が集まっており、なんとか間に合ったようだった。
「全員注目!今我々の前線基地は見ての通り攻撃を受けている!そのため我々も防衛作戦に加わる!我々は32、33、35分隊と共に東側防御陣地へ移動して作戦を展開する!時間がないぞ!さあ動け!さっさと行くぞ!」
「「「「「「「「了解!」」」」」」」」
「こんな戦場いつぶりだ?アフガン以来か?」
「ああそうだな、前と変わんないミッションだ、俺たちで終わらせようぜ」
「前より敵は弱えよ、俺だけで十分だろ」
「そうか?なら俺はいらないかもな」
そんな話をしながら東側防衛陣地へ到着した、こちらは他より攻撃が激しいようで矢がポンポン飛んでくる。
「敵がくるぞ!射撃用意!」
手に持つHK416Fのセレクターをセミオートに入れ、敵を照準器で目視する。
「撃てぇぇぇぇ!」
合図と共にトリガーを引く。反動と共に弾が敵兵へ飛んでいき、発射された5.56mmが確実に敵兵の息の根を止める。
奥にはまだまだ大量の敵兵がいる。正直この人数で守り切れるのだろうか……?
「こちらFirebird2-1から司令部、
「了解、東側防衛陣地における敵部隊の活動が激しいと報告されている、優先的に援護せよ。」
「Firebird2-1了解」
夜の闇に溶け込見ながら戦場へ飛ぶ 2機の機影、ドイツ陸軍所属PAH-2 ”UH Tiger”である。第二次大戦時に連合軍を恐怖に陥れた名を冠するこの機は、約80年の時を経て、古くは敵であった者と同志を救うため、新たに敵を恐怖に陥れるために戦地へ赴く。
「航空支援はまだか!?」
「まもなくドイツ陸軍の攻撃ヘリが来ます!回線を切り替えておいてください!」
「ハインツ!弾は余ってるか!」
「こっちも最後のマグだ!」
既に6マガジン、180発以上撃っても減っている気がしない敵兵は未だ突撃を敢行して来ている。戦車も既に予備砲弾すらも撃ち切った車両も多いらしく、補給のため現在残っているのはLeopard2A7が数両という有様だった。
「クソっ!こいつしかない!」
フィリップや他の数名のメンバーも既にサイドアームのP8拳銃で応戦しており防衛は絶望的だった。そんな瀬戸際、無線が入る。
「こちらFirebird2-1、作戦空域に到着、現在より
「準備完了、いつでもいけます」
「攻撃を開始する!デンジャークロース!Firebird2-1 Tallyho RIFLE」
自分含め歩兵が伏せると共にPAH-2 UHTに搭載されたハイドラ70ロケット弾やRMK-30の30mm砲弾により敵を薙ぎ払うかのように吹き飛ばす。
武装が強力なのに加え、搭載されている
「何故こちらの位置がバレているんだ!?」
「分かりません!ここは一旦引きましょう!」
「来るぞ!こっちに来てるぞ!」
「始まったか」
「通信術師との接続が切れました、おそらく彼らも」
「ふん、まあいい、あの愚か者どものおかげで民間人の避難と防衛ラインの完全構築が完了した、これからは持久戦……に持ち込めればいいが、持ち込めれなかったら撤退戦を決行し、本隊と合流する。」
「未だ本隊と交信できていませんが大丈夫なのでしょうか……」
「通信隊が無事に到達した事を祈ろう、まずは敵の攻勢をどうにかするのが先だ」
現時点でルシアーノ防衛戦における帝国軍の損害は大きく、元の兵員の20分の1となってしまっていた。
だがそんな事は梅雨知らず、国際連合軍は進軍する。
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