第9話 作戦

───ルシアーノ港急襲より 14時間前 


イギリス海軍基地の食堂には各国隊員らとは違う服装をした人々が食事を取っている、ほぼ全員 軍服の胸のあたりに見慣れないマークをつけていた。ザボッド帝国との海戦により発生した捕虜らである。

周囲にはイギリス軍歩兵らが監視をしており、所持しているL85A3のトリガーに指をかけていないもののセーフティは外されており、いつでもお前らを撃てるとの意思表示をしているようにも思えた。


「……では次のニュースです、勃発したザボッド帝国と呼ばれる国家との戦闘及び占領において様々な機関の専門家らから、これからは多くのリスクを考えねばならないとの発表がなされました。これまでの安全保障問題や伝染病など多くの発表です……」


初めて見る物ばかりなこちらの世界にほとんどの捕虜達は興味津々であり、多くの者は比較的落ち着いていたものの、やはり敵国の捕虜である不安から来るものか少々騒ぎが起こったものの未だ死者が出ていないのは奇跡と言えよう。


「ミルゼ、この国はどう思う?」

「……簡単に言っちゃえば不気味ですね、捕虜に対する扱いも普通ですし何より気になる点が多すぎて困りますねぇ、たとえば兵士の服装とか、見たことありませんよあんなの、武器も変ですし」

「刃物はあるがナイフだな……あの構えているのがよくわからないんだよな……遠距離武器なのだろうか?」

「おそらくそうかと思われ……」


その時そばにいた兵士達が慌てはじめた、理由は簡単で捕虜の数名が逃走をはかったらしい、直ぐに鎮圧されるだろうと思っていたが兵士達がさっきより慌てていた、聞き耳を立てて見ると捕虜があちらの武器を持っているらしい……まあ聞き耳を立ててすぐに窓からその一部始終を見れたわけだが。


まあやはりと言うべきか 逃げ出した捕虜は彼らの武器の使い方を知らないのでぎこちなく後ろに下がっていたものの他の場所からの応援が駆けつけて完全に包囲されていた。


「今すぐに武器を下せ!さもなければ発砲する!」

「クソっ!来るなぁ!こっちに来るんじゃねぇ!ぶっ殺すぞ!」


これを実質 強制的に見させられている我々の反応は多種多様で、賭けを始める者や、これに乗じて反乱を起こそうと説得する者など色々だった。


だがそんな騒めきを収める大きな音が窓の外から聞こえてきた、ダンッ!と言う大きな音でその場にいたほとんどが窓の外に注目した。我々が見たのは血を出しながら地面に倒れようとする一人の捕虜の姿だった。


「動くな!動くんじゃない!大人しく降伏しろ!」


続けて二回の炸裂音、その音は兵士の持っている小型の何かから出ており、その音が鳴った途端 もう一人の捕虜が血を出すとともに倒れた。


「全員伏せろ!全員伏せるんだ!」

「早く伏せろ!危ねぇぞ!」


その炸裂音が鳴った直ぐに兵士達が我々のところへ来て全員を伏せさせた、捕虜の命を心配しているのは何故なのだろうか……


「シュミット隊長、あいつらの武器やばいっすよ」

「見たことない攻撃方法だな……原理は炎系の魔法を使っていると思うんだけども」


彼らの命令に従って伏せながら補佐官のミルゼと話す


「でもあれ魔法じゃなさそうですね……魔力反応がありませんし」

「隠密魔法であっただろ?確かなんだっけ魔力痕跡を消す魔法」

「あー、オンフォマケィド無痕跡ですね、ですがあれは高等魔術ですし継続的に術者の魔力も消費する魔法なので現実的とは言えませんよ」

「なら火薬とかか?」

「あり得ますね……」


脱走者が処分され数分後、食堂に他の兵士とは違う服装の男が入ってきた、おそらく将官だろう。なんで来たのか大体予想はついているが……


「この中で最も階級が高いものは名乗り出ろ」


ほら来た、名乗り出たら尋問されるのだろうか……だがここで私が名乗り出なければ他のメンバーがやられる……仕方ない。


ここまで考えた私は立ち上がり将官の方まで歩いていく、そばに控える兵士が白い紐みたいなのを取り出し腕に巻きつけられる。


「抵抗するなよ」


この紐のようなものは意外と強度が高いようで動かすこともできなくなった。


「他の捕虜達の安全は確保されるんだろうな」

「もちろんだ、国際法に則り安全に保護される」


国際法?と言うのはよくわからないがこちらの世界では基本的に捕虜は保護するようだ、嘘をつかれていない限りだが。


私は鉄でできた乗り物に乗せられ、移送された。この乗り物もそうだがこちらの世界の街並みは我々が見たことのないようなもので溢れていた、街は多くの人々が行き交い、鉄の乗り物が大量に道を走っている。我々の世界とは違う服を身にまとっているが基本的にはどこも変わらないのかもしれない。


そんなこんなで私を乗せている車と言う乗り物(移動中に色々聞いたうちの一つだ)はある建物の中に入って止まった。車から降ろされ私はある部屋に座らされた、椅子と机があるだけの部屋で今は監視の兵士と二人きりだ。まあ監視が一人とは考えられないので部屋に取り付けられている黒い窓のようなものの裏にいると思われるが……いや食堂にもあった天井についていた鏡みたいなものが監視しているとも考えられる。


そんな事を考えているうちに一人の男が入って来た。真面目な感じの雰囲気を漂わせている。


「待たせたかな?」


男は椅子に座りながら私に話かけてくる。


「いや、そんなことはない。」

「ならよかった、水はいるかな?用意させるけれども」

「頂こう」


しばらく待つとドアから男が入って来て、机に水が入ったコップを二つおいて出て行った。


「さて水も来たことだし質問していこうと思う、君が正直に答えてくれればこちらも強行手段を取る気はない、覚えておいてくれ……私は秘密情報部のヴェネディクト・ジョーンズ、君の尋問を担当する。そちらの名前は?」

「アンニ・シュミット、帝国陸軍少佐」

「なるほど……ではアンニ少佐、我々には時間が無いためさっさと終わらせてしまいたい、だからまあ早速本題に入ろうと思う、これを見てくれ」


ジョーンズと名乗る男は袋から記録用の紙袋?のような物を出してその中から一枚の色付きの紙を出した、その紙にはおそらく上空から書かれたと思われる絵が出て来た。


「……!?どこでこんな物を!?どうやって手に入れたんだ!?」

「我々のとある技術を用いて撮影された物だ、これに写っているのは数日前の君たち帝国軍の二次部隊と思われる軍勢が写っている港に集合していると思われるものだ、おそらくこの近くには君たちの臨時司令部も置かれているだろう、その場所を教えて欲しい」

「教えなければ?」

「ここに写っている地域一帯が焼け野原になる。いいか判断には気をつけろ、君の判断で罪なき一般人の命運がかかっているんだ」

「教えれば民間人は死なないのか?」

「おそらく、まあ多少被害は出るだろうが言わないよりはマシな結果になるだろう」


言うしかない……この判断が国家への裏切りとなろうとも我々軍人は祖国と国民を守るためにある物、数時間で艦隊を壊滅させ、我々の防空網を突破し上空からの絵を確保できる彼らに逆らうのは愚かな結果を招くことになることははっきりしていた。


「……わかった、言おう」

「君が愚か者でなくて助かったよ、基地で見たような奴らしかいないんだったらとっくに尋問なんて諦めていたよ、あっそうそうこれを使って司令部と避難所となり得る場所をマークしてくれ」


ジョーンズは私にペンを渡して来たため、それを受け取り指示に従った。描き終わると彼は満足そうな顔をして絵を紙袋に入れ、いくつかの質問を続けて来た、主に帝国軍の命令系統や人事に関することだが、その他にも魔術に関することも多く聞いて来た、こっちには魔術と言う概念は無いのだろうか……?ならばますます興味が湧いてくる、無事に帰れたならばいい土産話になるだろうか。


彼が部屋を出た後に私は護送され個室を与えられた、正直言ってしまえば本土の宿舎より待遇は良かった、久しぶりにこんなベッドで寝れる気がする、私は疲れからかベッドに倒れ、そのまま視界が暗転した。



「ジョン!合同情報委員会JICにこいつを送ってくれ!」

「了解、あの女から何か掴んだんですか?」

「ああ、これからの作戦がようやく決められるようになるぞ」

「そりゃすごい、その資料もですか?」

「いやこっちはそのまま省庁に送ってくれ、大臣達も気になるだろ」


キーボードのEnterが押されると共に各省庁に送信が開始される。その情報はイギリスから各国へ届けられ、各国司令部 及び 国連軍司令部にて作戦の立案に利用された。


そして立案された作戦がOperation Continental Guardian、日本語訳で大陸の守護者作戦である。



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