第8話 急襲

─── ザボッド帝国南部ルシアーノ港 2026/7/18 12時10分(UTC準拠)


ルシアーノ港。それは新大陸出現までは多くの民間船舶の寄港地となっていた大きな港であり、ザボッド帝国1、2を争う港であったが、新大陸出現後は使用していた航海ルートが使用できずに一時封鎖していたところをザボッド帝国軍による新大陸調査のための司令部として機能していた。今日も大量の物資と人員が到着し、出動命令を待っている。


「あいつらの連絡船はまだ帰ってこないのか?」

「まだですね……とっくに着いているはずなんですが……」


ルシアーノ港のちょっとした丘の上に建つ大きな建物。ザボッド帝国派遣軍司令部。中では2日して帰還しない連絡船とのコンタクトを取ろうと策を練っていた。


「占領に失敗したのか……?」

「それはありえない、あんな大艦隊だぞ」

「司令に報告しろと急かされてるんだ、早くまとめてくれよ。遅れたら俺が怒鳴られるんだからさ」

「だと言ってもなぁ、帰ってこないにはなんとも」


参謀らは落ち着いていながらも頭を悩ませていた。


「テネス情報参謀、参謀長がお呼びです」

「ああクソ、すぐ行くと伝えてくれ」

「了解致しました」


参謀長の秘書が呼びにきた、無愛想な奴だが顔とスタイルは抜群な奴だ。


「お呼びだな」

「帰って来るまでにはなんか考えておいてくれよ、笑い事じゃ無いからな」

「わかったよ、そら行ってこい」


司令部を出て廊下を進む、窓からは陽があたって少し眩しい。廊下の奥に参謀長の部屋があり、少し古い扉を開けて中に入ると若い女性士官が机に座っている。彼女はレオーネ・フェルテリッチ参謀長、ザボッド帝国軍の中では珍しく様々なコネや権力による士官就任であるが仕事ができる士官である。


「まだ報告が上がらないが、いつ上げるつもりなんだ、上はいつまでも待ってはくれないぞ」

「しばしお待ち頂きたい、まもなく報告書が完成すると思われますので……」

「いいか、私は良い報告以外聞きたくない、わざわざ上層部が私をここに派遣した、この意味が分かるな?失敗は許されない、なんとしてでも良い報告を上げろ」

「善処します」

「善処ではダメだ、必ず良い報告を持って来い」


これだから部下に嫌われるんだ、彼女は有能ではあるがこれほどまでの成果至上主義者でいちいち棘のある言い方しかできず、部下やはたまた上官にでさえ嫌われる始末だ。だが彼女は有力貴族の一つであるフェルテリッチ家のお嬢様であり、彼女の父であるレパルト・フェルテリッチはザボッド帝国政府高官でありレオーネの上官に当たる参謀総長と親友でもある。そのため軍内部で彼女に逆らえるものはいないのである。


「わかったなら、さっさと戻って書き上げろ」

「了解致しました……」


バン!ドアが勢いよく開く。入って来たのは海軍中将であった、息を切らしながら報告を行う。


「お前一体どうs……」

「……っ報告いたします!斥候魔導士がこちらに接近する超高速の物体を確認しました!」

「到着は?」

「およそ2分後!」


レオーネ参謀長は勢いよく窓のカーテンを開けるとともに望遠魔法で海を見る。数秒ぐらい経っただろうか、参謀長が望遠魔法を切り、腕を振り上げた途端。


ドガァーン!!!


体が吹き飛ばされた?壁に打ち付けられたような気がする、耳がキーンとなっていて周りがよく聞こえない。ぼやけた視界で周りを見ると上半身に2本木片が刺さった海軍中将が倒れているのが見える、彼は少しも動かない。レオーネ参謀長は立ったまま自身に治癒魔法を使用していた、少し視界がマシになった私の目はレオーネ参謀長の顔に血が垂れているのが見える。黒い軍服の上にもかかっているが幸いあまり目立たない。


「テネス、生きてるか」

「え、えぇ、なんとか……今のは一体……?」

「敵の攻撃だ、あれを見ろ」


レオーネ参謀長が指差す方角には海が見える、空には高速で飛行する物体が数十機ほど、その他にも港や艦船から黒煙が登っている……いや、艦船は直ぐに沈んだ。


「あの飛行しているのが敵機だ、ワイバーンを出せ、対応させるんだ」


レオーネ参謀長はそう言って部屋を出て司令室へ向かって行った。



「司令部、こちらストライカー1-1、スプラッシュ2、敵目標艦艇及び施設を破壊、現状航空優勢」

「こちら司令部了解、揚陸艦接岸まで上空で待機せよ」

「状況報告」

「目標を全て破壊、市街地には被害なし、現在揚陸艦より上陸部隊が展開中、追加の投入部隊としてロシア空挺軍がまもなく到着」

「よし、このまま進み続けろ、目標を確保できれば楽になる」



ルシアーノ港近郊、美しい砂浜が広がる観光地として有名な区画。そこに11隻の船のようなものが近づいてくる。


「な、なんだあれ」

「敵に決まってんだろ!ボケッとすんじゃねぇ!」



「敵歩兵が海岸に展開しています」

「ロケット用意、一掃しろ」


海を滑るようにして接近する11隻の船、ポモルニク級エアクッション揚陸艦である。ホバークラフトであるが故の高速航行と迅速な展開を可能とした艦艇であり、欧州に存在する11隻全てがここに集まっていた。

艦艇上部に設置された多連装ロケット砲より海岸にロケット弾が発射される。


「撃ってきたぞ!」

「こっちにくるぞ!」


海岸に薄く白い膜が展開される、広範囲防御魔法が展開された。これは魔術的攻撃には非常に強い耐性を持つが、物理的攻撃には弱いという弱点が存在する。ロケット弾なんか見たことない集団だ、魔法と勘違いしてもしょうがないが発射されてしまった以上無防備と言って過言ではない敵兵は直に攻撃を受けることとなった。


上陸したエアクッション艇の扉が開き、T-90MやBMP-Tなどのロシア製兵器と兵士達が降りてくるがそれを妨げるものはもうこの海岸にはいない。


「こちら第7揚陸艦大隊!上陸地点を確保!これよりランディングゾーンを確保するため前進する!」

「戦車を前に出せ!確保部隊は歩兵戦闘車IFV装甲兵員輸送車APCに乗れ!移動するぞ!」



「敵がくるぞぉぉぉ!」

「なんだありゃ!鉄の塊がこっちに来るぞ!」

「一人やられた!奴らどんな魔法を使ってやがる!」

「頭を出すとやられるぞ!」


「キリがないな、榴弾HE用意」


装填手がT-90Mの砲閉鎖機と自動装填装置を慣れた手つきで操作する


榴弾HE装填完了」

「好きに撃て」

「ファイア!」


ドンッ!T-90Mの125mm滑腔砲から発射された榴弾は正面の隠れている敵兵を吹き飛ばす、上部のPKT車載機銃からの援護を受けて歩兵部隊が通りを前進し、未だ抵抗の意思があるものを制圧していく。



「リオーネ参謀長!緊急です!敵部隊が12区に上陸!」

「防衛隊は何をしている!」

「敵は鉄の塊のようなゴーレムを使用しているとの報告が上がっています!敵歩兵もとんでもない兵器を使っていると……」

「そんな曖昧な報告では何の意味もない!……前線に伝えろ!まともに撃ち合うなと!」

「了解、直ちに」

「……テネス、撤退ルートの確保を急げ」

「……!?撤退なさるおつもりですか!今からでもどうにかなr」

「お前は状況が見えていないのか?まず我々は開幕の奇襲攻撃で既に航空戦力と半数の歩兵隊を失っている、そしてすでに上陸されてこちらに近づいている、一旦撤退しなければこのまま全滅だ。敵の装備を報告するだけでも十分な戦果になり得る、わかるか?今からは撤退戦だ、分かったならさっさと行け」


レオーネ参謀長はそれ以上何も言わずに淡々と他の参謀に命令を下していた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る