第7話 開戦
───北大西洋 イギリス本土より約200km 2026/7/16 9時21分(UTC準拠)
ザボッド帝国第4艦隊総司令官であるベレン・ペリュは5000隻にも及ぶ大艦隊を見て感動を覚えていた。このような大艦隊の出撃などザボッド帝国で初めてのことであったからだ。ざっくりと内訳をしてしまえば3000隻ほどは砲船、750隻は輸送などを担当する支援艦、そして残りの1250船はワイバーンを発艦させられる航空母艦である。第4艦隊自体実戦経験に乏しくあまり練度は高くないものの艦艇数は圧倒的であった。ベレンの乗る指令船は中央に位置しており、その後ろには各国の観戦武官が乗船する船が追従していた、まあ今回は正規軍同士の戦いではないため少ないが。
「圧巻だな」
「これだけいれば新大陸全土を手中に収めることも可能でしょう」
「他の奴らよりも先に上陸は硬いな」
「……了解しました」
受話器を置いて無線を取る、覚悟していたはずだ、あの時から。
「現在より我が祖国及び同盟諸国は戦争状態に陥った!我らはここで敵艦隊を食い止め、敵地上陸のための橋頭堡確保の第一段階を達成する!あの野蛮人共に我々の力を見せつけてやれ!」
「「「「了解!」」」」
無線の奥からも大きな声が聞こえる。多種多様な言語ではあるが全員が国を守ろうと必死であることは伝わる。国連軍第1連合艦隊。イギリスのクイーンエリザベス航空母艦のネームシップ、R08 HMSクイーンエリザベスを旗艦とする大艦隊である。
内訳はイギリス海軍からクイーンエリザベス級航空母艦2隻、デアリング級駆逐艦4隻、デューク級フリゲート2隻、タイド級補給艦2隻。
フランス海軍からシャルル・ド・ゴール級航空母艦1隻、フォルバン級駆逐艦1隻、アキテーヌ級駆逐艦2隻。
ロシア海軍からはアドミラル・クズネツォフ級航空母艦1隻、アドミラル・グリゴロヴィチ級フリゲートが2隻、キーロフ級原子力ミサイル巡洋艦1隻、スラヴァ級ミサイル巡洋艦が1隻、オスカーII型原子力巡航ミサイル潜水艦3隻。
以上22隻が編成され、これに含めて各国航空隊が編成されている。
各空母からは発艦準備を終えて飛び立っていくF-35BやSu-33、ラファールMが上空に待機している航空隊と合流する。
「全部隊準備完了、航空隊は目標地点へ移動」
「まもなくゼロアワー、カウント開始」
着々と作戦開始時刻が迫る。
「5…4…3…2…1…作戦開始」
作戦開始と共に各国艦船から無数の対艦ミサイルが発射され、水平線上の彼方へ飛んでいく。
「……ん?お、おいなんだありゃ」
「あ?……なんだあれ」
「なんか飛んでくるぞ!」
甲板で騒いでいたのも束の間、高速で飛行してきた対艦ミサイルの雨により全面に突出していた戦列艦が数十隻大きな爆発音をあげながら木っ端微塵になった。
「味方艦を避けろ!密集するな!散開急げ!」
「クソ、何が起きた」
「高速で何かが飛んで来ました!それに当たった味方艦が吹き飛んで……」
指令船含む全艦艇において交戦準備が行われているが、対艦ミサイルなど見たこともない彼らでは何が起きているかもわからなかった。少なくとも空から何かが飛んで来ていたのはわかっていたので対空戦闘のため、航空母艦よりワイバーンの発艦を急がせていた。だがそこにまた
「2回目が来ます!」
「前列艦に対空戦闘をさせるんだ!」
「いえ!前列艦には行っていないようです!ワイバーン艦の方へ!」
「まだ発艦したのは少数だぞ!もっと急がせろ!」
「間に合いません!」
対艦ミサイルは後方に位置していた航空母艦に対し的確に命中させ、全航空母艦は海の藻屑と化した。この世界では航続距離が100kmにも満たない軍用ワイバーンは海上における航空部隊の主力であるため、航空母艦の喪失は制空権の喪失と同意義であり、なおかつ後方へ展開させていたため必然的に退路を失っている事となる。
「敵航空母艦の撃沈を確認、航空優勢ですが制空権奪取のため航空隊へ攻撃を要請します」
「残りの敵の総数は」
「約4500隻ほど、やはり主砲で数を減らさなければ」
「航空機による攻撃の後、全艦の総力を持って奴らを叩き潰す。航空隊に攻撃を開始させろ」
「生き残った艦は散開し敵艦の補足距離まで接近!射撃位置についた場合は射撃を許可する!確実に沈めろ!」
「敵のワイバーンが来るぞぉぉぉぉぉ!」
「やはり来たか、生き残ったワイバーンを全て迎撃に当てろ!」
対艦ミサイルの攻撃前に発艦できた軍用ワイバーンは約300騎、対する連合軍はF-35B、Su-33、ラファールM、ユーロファイター タイフーンなど様々であるが総数622機。
数や性能で上回る連合軍戦闘機の前には無力に等しかった。
「あ、あれは!」
「矢が来るぞぉぉぉぉぉ!」
各機が護身用のため最低でも2発搭載されている空対空ミサイルを発射する。高機動で追尾するミサイルになす術もなく撃墜されていくワイバーンら。それは制空権の完全喪失を意味するものとして甲板上の兵士らは恐怖で腰を抜かす者や同僚を殺されて怒り狂う者など様々であった。だが無慈悲にもワイバーンは海に落ち、赤く染めるのであった。
「ワイバーンは全滅だ!どうすれば!」
「ええい!なんでもいい!弓でも剣でもなんでもいいから奴らを叩き落とせ!何がなんでも落とすんだ!」
上陸部隊を含む大量の兵士が弓を構え、空高く撃ち上げるも魔道士による魔法攻撃やスキル持ちの兵士らでなければそもそも飛行高度には届いておらず、その届いた攻撃でさえ高高度を高速で飛行する戦闘機には当たらないのであった。
「艦長!敵艦艇を補足!距離約10km!」
「よく見つけた!全艦へ報告!敵艦船を確認した!射程に入り次第沈めろ!」
「「「「「了解!」」」」」
彼らが目視でようやく連合艦隊を視認した頃、連合軍による作戦は最終フェーズに移行しようとしていた。
「主砲用意よし」
「いつでも撃てます」
「撃てっ!」
駆逐艦、巡洋艦に搭載された各国の単装砲及び連装砲が火を吹き、砲弾は正確に敵艦艇へと向かっていく。
砲撃開始と同時に上空に待機していた各国空軍、海軍機が両横を固め、対艦ミサイルと機銃によっては攻撃を始めていた。
多くの主力艦が木造の蒸気船である彼らでは対艦ミサイルはもちろん、多くの戦闘機に搭載されている25mmや30mm機関砲でも防ぐことができないものであった。
「なんだ?何か爆発して」
「敵の砲撃です!」
「な、なにぃ!?」
斥候兵が主砲から砲弾が発射された事を確認した数秒後には前列の艦船の多くがが弾薬庫に誘爆して木っ端微塵となる。現代艦船の主砲は自動装填化されているため射撃間隔が短い、例えばロシア海軍の採用するAK-130 130mm連装砲などは毎分90発と早く、そしてコンピュータによる正確な射撃が可能である。
「ま、まずい……これはまずいぞ……」
ベレン総司令官青ざめた顔をして戦局を見ていた。
このまま前進して砲撃可能距離に接近するには撃沈された味方艦を避けて進むしかないが、左右からも攻撃されている以上 左右への回避行動は取りづらく、必然的に到達は遅くなる。仮に到達できたとしてもその時には動ける艦艇も少数になる、それでは上陸すらままならずに配備されているであろう敵地上部隊に蹂躙される……そもそもたどり着けるかどうか。かと言って撤退しようにも大型艦であるワイバーン艦の残骸で撤退も難しい……はっきり言える事といえば詰み、としかいえない……。
「おい!ベレン!どうなっている!雑魚どもを殺すだけで何故こんな被害を被っている!」
ファルディーティ帝国の観戦武官であるヴァレール・マリ上級帝国魔道士が他国観戦武官を率いて司令船に乗り込んできた、戦局の悪化で文句を言いに来たのだろう。
「申し訳ございません……ですが既に奴等の艦艇を視認しております、必ず我が艦隊で奴らを撃滅せしめますので……」
「ワイバーンも出せない貴様の艦隊で何ができるんだ!」
「た、確かにワイバーンは出せませんが!上陸さえすれば!上陸さえすれば問題ありません!」
「お、おいあれ見ろよ」
「なんだ!……あれはワイバーン……いやドラゴンか…?」
「主翼後退35度」
「爆弾倉解放、目標確認」
「発射開始」
大空を悠々と飛行する30機の大きく白い機体、戦闘機に比べて大きく、その姿は付けられた名前の白鳥にも恥じない姿であった。Tu-160M2、可変翼超音速戦略爆撃機である。
全ての白鳥から24発のKh-15P短距離巡航ミサイルが発射される。それは中央の敵集団に向かう。
「来るぞぉぉぉ!」
「撃て!撃つんだ!撃ちまくれ!」
「回避ぃ!回避ぃ!」
「なんて事だ……」
「ベレン!おいベレン!どうにかしろ!」
ベレン司令官が最後に見たのは司令船に向かってくる巡航ミサイルが着弾し、自身の身体が木っ端微塵になることにも気づかずヴァレールが爆風に巻き込まれる
姿であった。
「
「
「ここで逃して情報を渡すのもまずい、残りの敵艦を無力化し、捕虜を救助するんだ」
「了解」
ここからはただの虐殺が始まった。戦闘機、爆撃機、艦艇によって残りの敵艦は一つ一つしらみ潰しに無力化され、生き残った敵水兵及び上陸兵は片っ端から捕虜となった。
眼前に広がるのは280mを超える船体を誇るクイーンエリザベス級ネームシップ、クイーンエリザベス。アンニ・シュミット下級少佐は捕虜として移送中であった。初めて見る現代航空母艦に彼女は驚愕するしかなかった。
そしてイギリス本土では各国地上戦力の上陸のために揚陸艦が準備しており、他にもエアバス A400M輸送機などの航空機も作戦開始まで待機していた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます