第2話 計画

───ザボッド帝国 帝都フィフス 5026/6/12 ██時██分(カイチ標準時準拠)


華やかで、さまざまな絵が描かれた天井や壁で構成され、窓からは帝都フィフスが一望できる会議室にはザボッド帝国の各大臣と国家元首であるヴェレダ皇帝が席に着いていた。


「これより第3021回国家方針制定会議を行います」


時間計測係である青年が会議開始を宣言したと同時に各大臣が喋り出す。


少し経つと新大陸併合の話で軍務大臣と産業大臣が揉め合う。


「新大陸は我が領土として編入する方針でいきましょう、現状の国土では鉱石資源の不足が深刻化しています、新大陸を調査する事で新たな資源を獲得できるかもしれません」

「だがこれ以上の領土を獲得すれば、万が一 他の列強国と戦争になった場合の防衛ラインの制定が難しくなる、現状の兵力だけでも今の国境線を維持するので精一杯ではないか」

「だがこのままでも装備の更新ができないであろう?このままでは軍事力で追い抜かされるのは目に見えている」


そこに国家保安大臣が口を挟む。


「そういえばなのだが……あの土地には先住民がいたかな?」

「先住民?」

「先住民さえいれば我が帝国の傀儡国として使役すれば良いだろう?」

「そうだ!その手があったか!」

「だが戦争で援軍を要請されたらどうする?」

「切り捨てれば良いだろう?先住民ごときのために我が帝国の勇敢な戦士たちを行かせることはないさ」


会議は新大陸併合の話でまとまろうとしていた、だが1人だけ、この会議に疑問を持っている者がいた。


(これじゃいつもの侵略行為と変わらないじゃないか……!)


記録係の青年は帝国が行ってきたジェノサイドの計画書が立案され、可決される事に何もできない自分を悔やみ、またこの世から一つの民族が消えるのだなと心の中で思っていた。




───ベルギー王国 ブリュッセル 欧州連合本部 2026/6/12 ██時██分(UTC準拠)


「一体何が起きているんだ!?」


ポーランド大統領ガブリエル・ラタイ氏が中心となり状況報告を求めている。ある者は自国政府に報告したりと突如発生した異常事態に混乱を極めていた、だがそこにさらなる報告が入る。


「議長、大変な事に」


補佐官がピエール・ド・モンディエール欧州理事会議長に小声で話すとモンディエール議長が驚愕する。そして議員達にモンディエール議長が説明を行う。


「皆さん、我々は今重大な局面を迎えました、先ほど各国大使館を通じて情報の提供を呼びかけ、現在発生している状況を確認しました。まず一つ、各国の保有する軍事、民間衛星が全て音信不通となりました、あの閃光があった後です、最終確認時刻は全て同じ、破壊されたとなれば今もスペースデブリが大気圏で燃え尽きる様子が確認できるでしょうが確認できません、これが意味するのは突如として消失したという事です。」


各国議員らがざわめき始める。それは先ほどまでとは違い、動揺の意味を含めてであるが。


「そして二つ、状況判断を行うため米国やオーストラリア、国際連合本部などにもコンタクトを取りましたが、反応がありませんでした。そのため現在、米国行き、オーストラリア行きなど各方面へ向かう民間機、軍用機全てに確認を取ったところ……ユーラシア大陸及び周辺島国以外の大陸が確認できませんでした。」


議会は混乱状態に陥った、少なくともあり得ない事であるのはモンディエール議長も分かっていたのであるが、まとめられた報告書には大陸消失の裏付けとなる証拠が揃っていたのである。


混乱している議会で大きな声が上がる。


「静粛に!」


声の主はロシア連邦欧州議員であるセルゲイ議員であった、議会が静かになると共にセルゲイ議員は話し始める。


「今、我が国でも大陸消失を確認したと連絡が来ました、このような異常事態は人類が経験した事がない者であり、今こそ強力な国家間協調を求められます、そのため我がロシア連邦は現在コンタクトが取れる国々全てによる一時的な国際連合の設立を要請し、それと同時進行で衛星の消失による混乱を改善する為に各国宇宙基地や民間企業と協力し、GPS衛星や偵察衛星の打ち上げ計画を立案します。」


セルゲイ議員の立案は今の欧州連合、世界各国にとって最善の手である事は明白であり、拍手が起こった後、モンディエール議長はたった今立案された草案を30分で添削し、欧州連合理事会に提出、採択され、欧州連合外務・安全保障政策上級代表の監督の元、今後の外交政策が決定された。


そしてこれは欧州議会で類を見ないたった数時間の間での出来事であった。

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