そして青森へ
あれから二時間が経ったが、なおも私の右目は治らない。試行錯誤を重ねるも視界が広がる様子は一切無く、チェックアウト時間の限界も迫っている事もまた私の焦りを増長させていた。
鷹守君はというと既にテレビを消して、コートを着て出発準備を完了させている。
「もう出ますよ師匠! これ以上は延長料金が発生してしまいます!」
「後もう少しなんだ、もうちょっとまってよ……!」
その後少しがどこまでも遠く思えた。生きてるウナギを掴むかのように、いつまでもあと一歩を決めきれないでいる。焦りはやがて苛立ちを伴うようになり、その怒りがついに爆発するかと思われたその時――。
「……あっ」
唐突に、視界が広がった。昨日まで見えてなかった部分が見えるようになり、その驚きにしばらく言葉が出なくなっていた。
「まさか、見えるようになったんですか!?」
「うん、そうみたい」
「よかった――あれ、でもちょっと待ってください。右目の色が赤に変わってますよ」
「そうなの? 呪いとマナが目の中で混じり合ったせいかな。もしかしたらこの反応で右目が魔眼化してたりして!」
「魔眼? 開眼者は開発ができない超強力な魔法を扱うことが出来るというあの? でもあれ都市伝説だと先生は言ってましたよ」
「それが魔眼化を否定する決定的な理由にはならない。これから色々試して魔眼が芽生えた事を証明していくから、おとなしく期待してて欲しいな」
「はいはい、とにかく早く部屋を出ましょう。もうチェックアウト時間終了まで五分しかありませんよ」
「嘘、早く言ってよ!!」
急いでバッグと鍵を持ち、私達は駆け足でホテルの部屋を出るのだった。
◇ ◇ ◇
チェックアウトを終えた私達は新幹線に乗り、青森駅に向かっていた。青森駅に着くまでの四時間半、私はスマホを使って青森県のめぼしい観光スポットを探していた。
(リンゴ公園、五重塔、八甲田山……どれも良いけど、一番惹かれるのはやはり遺跡だな。特にこの三内丸山遺跡と言うところに行きたい。詳しく調べてみよう)
検索サイトに三内丸山遺跡と入れて検索をかけると、複数の公式サイトがヒットする。しかし、その中に妙な記事が紛れ込んでいた。
(三内丸山遺跡が閉鎖? 1年前に宗教団体によって占拠され、関係者も全員追い出されている関係上復旧の目処立たず……か。弱ったな)
そう言う面倒ごとがそこで起きているのなら近づかないに限る。そう思い、私はそっと携帯の電源を切って鷹守君にテレパシーを繋ぐ。
(ねぇ、今魔法の授業をしたいんだけどいいかな)
(いいですけど、その前に僕の方から目的地について提案しても?)
(……まさか三内丸山遺跡とか言わないだろうね)
(もしや師匠もあの記事を?)
(偶然ね。気は進まないけど、君は行きたいんでしょ? じゃあ行こうか)
(ありがとうございます。そういうわけなので、そこで役立ちそうな魔法を教えていただきたいのですが)
(よしわかった。じゃあ今から教えるのは認識阻害魔法と気配遮断魔法だ。パパッとやること終わらせて、いちご煮とやらを食べに行くぞ)
そして私は残りの四時間を使ってその二つの魔法を教え、これも完璧に覚えさせた。青森駅構内で実際にそれを彼に使わせ、実践レベルに達していることを確認した私はそのままバスに乗って遺跡へと向かった。
そこで自分が、どんな悪意に晒されるのかも知らずに。
湊一代の魔道喧嘩旅 ~魔法学校を休学させられたので弟子と一緒に旅にでます~ 熟々蒼依 @tukudukuA01
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