呪霊掃討作戦(2)

 車を降りると、校門を隔てた先にコンクリート打ちっ放しの建物が見えた。三階建てのそれは全体的に酷く錆びており、さらに長いツタが全体を覆っていてまさしく廃墟と行った見た目をしていた。


「僕はここで帰ります。工事関係者を迎えに行かなきゃいけないので」

「……ここからホテルまで徒歩で帰れと? 霊退治で疲れた体で?」

「そこは魔法使いなんですから何とかなるでしょう? ほうきに乗るなり瞬間移動したり」

「どっちも体力を使うので出来ません。置いていくならせめてタクシー代くらい出してください」

「すみません、学校や工事関係者は学生である貴女方にお金を払うつもりは全くないらしく。僕としては出しても良いと思うんですがね」

「はあ……分かりましたよ、帰りは自費で何とかします。ただし今日起きた事が記事になった時、何らかの手段を使い徒歩で帰された事も告発させて頂くのでそのつもりで」

「それで気が済むなら是非。僕は被害を被らないので」

「…………」


 このやり取りをした事を深く後悔しつつ、私は男に背を向けて廃墟の入り口へ向かうのだった。


(霊視と霊感向上魔法をアクティブに――だいぶいるな。1階から3階までびっしりだ)


 神社にかつてあった石碑より遙かに大きな呪いの気配を感じる。しかしそれは数が多いからであって、個々の質はかの骸骨のそれを遙かに下回ると思われる。


(対多戦か……嫌だな。タイマンしか張ったことないから自信が無い。でも嫌だからと言えば依頼が取り下げられる訳ではない。さっさと進め! 一代!)


 意を決し、私は幽霊だらけの入り口に向けて駆け出した。すると、私の気配を察してか入り口から7体の霊が飛び出してくる。


(来た! 既に両手の平と右足に札は貼り付けてある、後はこの札を通して集団戦に適した魔法を逐次放っていく!  まずは――)


 右足を魔法で燃やし、それから地面を思いっきり蹴飛ばした。飛び散った砂と石は徐々に赤みを帯びていき、やがて溶けた砂と赤い石で出来た溶岩流と化した。


「生身では味わえない溶岩浴、たんと味わっていけ!」


 溶岩流を頭から被った幽霊達はあっという間に蒸発し、さらにそれは入り口のガラスをドアごと溶かしてしまった。


(ちょっと建物壊しちゃったけど、どうせ正午には壊される建物だから良いよね!)


 がら空きになった入り口を通りって校舎に入る。外装同様に建物内部も所々茶色く錆びており、壁にはヒビも入っていた。


(派手に暴れたら崩れそうだ。となると熱で壁が溶けるかも知れない火属性や、質量による物理攻撃を主とする水魔法は使えないな。ここから先は雷、或いは風だろう)


 右手に高圧電流を、左手に風をまとわせて左右に分かれた廊下の右側に駆け込んだ。すると、廊下の端までにある5つの教室から一斉に数十体の霊が飛び出してきた。


 さらに背後からもドアが勢いよく開く音がし、振り向くと目の前に現れたのと同じ数の霊が現れこちらに向かってきている。


(予想以上に多い! こんなのまともに相手してたら魔力が尽きる。端まで一気に突き抜けるしかない!)


 両手を胸に当て、全身を風と電気で包む。それから高速移動魔法で端まで一気に駆け抜ける。階段の前で立ち止まると同時にものすごい衝撃波が発生し、それは教室と廊下の窓ガラスを全て割ってしまう。


 衝撃波が止むのを待たずに私は階段を駆け下り、その先で1枚の小さな扉を見つける。


(やっぱり。地下へ繋がる階段があるとすればそれは1階からのみ。右に行ってすぐ見つけられたのは幸運だな)


 サビだらけのドアノブに手をかけて引こうとするも、何かに引っかかって開くことが出来ない。ドアノブをよく見ると、正面に鍵穴がある事に気づく。


(無理矢理突破することも出来るけど、これからまだまだ連戦が続く事も考えて体力は温存したい。素直に鍵を探しに行こう)


 再び階段を登ると、踊り場にフロアマップがある事に気づいた。汚れだらけのマップを目をこらして何とか読み解き、2階の左端に職員室と用務員室があるという情報を得た。


(鍵の保管場所と言ったらこの二箇所でしょ。しかし2階か……外から見たとき、そこが一番呪いの気配が大きかったんだよな。それが不安だけど、とにかく行ってみよう)


 怖じ気づいているのを感じた私は頬を叩いて気合いを入れ直し、そして階段を駆け上がって行くのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る