呪霊掃討作戦(1)
翌日、私達は富良野で実際に行われる呪霊掃討作戦の内容を電話越しに学長から聞いてからホテルを出た。
午前7時。チェックアウトを済ませてホテルを出ると、学長の話通り迎えの車が来ていた。今、私達はそれに乗って二時間かけて現地へ向かっている最中だ。
とはいえ、作戦を聞いたと言っても学長から受けた指示はたった2つだ。
『迎えは寄越すから、後は君たちに任せる』『学生服を着て事に当たって欲しい』
……まあ、そう言うしかないのはわかる。実際、下手に指示されるより現場に任せてくれた方がこっちとしても動きやすいし。
ただ、なぜ学生服を着て行かなきゃならないのかが分からなかった。それが気になる余り、私は鷹守君にテレパシーでその疑問をぶつけてみた。
(多分、北海道の魔法学校創設に沖縄の生徒が力を貸したっていう話題性に富んだネタが欲しいんじゃないですかね。それをテレビや新聞が取り上げれば沖縄と北海道、双方にとっていい広告になりそうですし)
(なるほど、そう言う目論見が……でも、北海道の学校はまだ建設段階にも入ってないんじゃ?)
(そこら辺は、ネタを出す時期を竣工直前にまで遅らせればいい話です。富良野の山奥で起きた話なんて、いくらでも発生時期の改ざんが利くでしょうし)
(すごいな、そういう所まで君は見透かせるのか)
(僕だったらそうするってだけの話です。実際にそうかどうかは限りませんが――)
彼は突然、何も言わなくなってしまった。彼が見ている方向を見ると、そこには五人の不良に絡まれている一人の少女がいた。
「あー……鷹守君? もしかしてだけど――」
私がセリフを言い切る頃にはもう彼は消えていた。ドアが開きっぱなしになっており、恐らく彼はドアを開けて外へ出たのだと思われる。
(嘘でしょ!? 時速40kmで走る車から飛び降りた!?)
開いていたドアを閉め、私は運転手に言った。
「すみません! 彼が道路に飛び出していったので、迎えに行きたいのですが!」
「それはできません。幽霊退治作戦自体にも制限時間が設定されているのに、こんなところで道草食ってられません」
「……制限時間ですって? 初耳です。詳しく教えてください」
「富良野市役所は学校建設の工期を2041年末までと明確に定めています。本来の工事計画では今日の正午までに解体作業に取りかからないと間に合わないらしく、現着してから1時間で片を付けて欲しいと貴女方に要求しています」
「無茶を言ってくれる。数日前まで幽霊退治のイロハも知らなかった若者に、あなた方は一体何を期待しているというのです」
「でもなんだかんだ言って出来ちゃうんでしょう? だって貴女、魔法使いじゃないですか」
その言葉に、私は名伏しがたい恐怖感を覚えた。世間は私達魔法使いの事を何でもやってくれる神様のように思ってるんだ。中身は同じ一般人なのに。
ある程度そうなることは想像していたが、実際にその期待に遭遇してみると身の丈に合わなすぎて戦慄する。でも、今は考えるべきではない。
(……今は生き延びることだけ考えろ。鷹守君の助力無しで、しかも一時間で、どうやって廃墟の除霊を完了させるか……思考を巡らせるんだ)
結局無駄な戦いを避ける立ち回りを心がける以外の新たな妙案は生まれず、また彼がこの間に車に戻ってくる事もなく目的地に到着するのだった。
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