除霊準備完了

 事態が落ち着いた後、気を取り直して私は弱めの幽霊の相手をはじめとした沢山の実践指導を受けることになった。


 はじめは一般人でも祓えそうな極めて貧弱な霊から始まったが、徐々に強さが上がっていき最終的には実際に人を何人か呪い殺している強い呪霊と戦う事となった。


 しかし、実践に次ぐ実践を重ねた私にとってその程度の相手に苦戦することは無かった。この霊はさっき戦った呪霊よりは呪いの格が1つも2つも劣るから、物怖じせずに戦えたという面も大きいだろう。


 その様子を見ていた神主は、私のことを手を叩いて絶賛する。


「素晴らしい! 僅か二日でここまで大祓魔法を使えるようになるなんて! 私以上に使いこなせてますよ!」

「実践の機会を与えてくれたことが大きいですね。コレが無ければ習得は不完全でした」

「アクシデントこそありましたが、結果的にそれもうまく活きたようで良かったです」

「……アクシデントといえば、あの骸骨レベルの霊って例の廃校には居ますかね?」

「居ませんよ。実体を伴う怪奇現象を引き起こすレベルの呪霊なんて早々出てきませんから」


 神主がそう言うと、それまで静観を決めていた彼はふと立ち上がって神主の背後に回り、神主の両肩に手を置いた。


「ちょっと信じられないですね、僕目線アンタには呪いを見る目があまり無いように思えますし。自信が無いならハッキリそう言ったらどうなんです」

「ほ、本当です! 昨日現地に行って霊の様子を見てきましたから! さっき一代さんと戦わせた霊も、実際にそこから持ってきた物ですし! ただ……」

「ただ?」

「地下にいる呪霊が気になります。具体的にどれほどの呪いを持っていたかは感じ取れませんでしたが、確実にそこらの呪霊とは桁違いの呪いを持っていました。恐らくその霊が、廃墟に蔓延る霊の元締めかと」

「なるほど、ありがとうございます」


 彼はそう言って再び元の位置に戻った。彼に肩を触られた神主の呼吸は荒くなっており、どこか彼に怯えているようにも思えた。


(……神主の授業もこれで終わりっぽいし、さっさと出て行った方があの人のためだな)

 私はスッと立ち上がり、鷹守君に手招きをして近くに呼び寄せた。


「二日間ありがとうございました。教わった知識を活かし、必ずやかの廃墟に蔓延る霊を全て祓って見せましょう。ほら、君も頭を下げる!」

「……ありがとうございました」

「待ってください。一代さん、廃校へ行く前に1度お祓いを受けてみてはどうでしょう。貴女は今日多くの呪霊と戦い、多くの穢れを浴びてきました。恐らく廃墟でも多くの穢れを浴びると思うので、万が一に備え今日の分だけでも落として行きませんか?」

「受けてみたいですけど、神社ってキャッシュレス化してないですよね? 私カードしか持って無くて」

「初穂料は頂きません、先ほど迷惑をかけてしまいましたし。それを踏まえて、如何でしょうか?」

「でしたらお願いします! ずっと気になってたんです、大祓魔法を使ったお祓いってどんな風に進むのか!」


 私がそうウキウキで話すと、神主はようやく笑顔を取り戻した。


 ◇  ◇  ◇


 それから五分後、師匠と神主は社殿に入って行った。それから間もなく神主が呪文を唱えはじめ、部屋のふすまから魔力が漏れ始める。


 僕はお祓いを受けてはいけない人間なので、部屋の外であぐらをかいてお祓いの終わりを待っている。


(ああ、コレは混じりっけ無い純粋な光の魔力だ。僕はアレに触れちゃいけない、触れたら呪いが体から出てしまう)


 正直、ふすまを隔ててあの魔力を浴びているだけでもかなり気分が悪い。ついに吐き気を催すまでに体調が悪くなったので、踵を返し社務所へ向かおうとすると――


 僕の目の前に、黒いトレンチコートをきた謎の男が居た。そいつは僕のことをじっと凝視している。


「な、なんだよアンタ。僕に何か用?」


 警戒する僕に一歩近づき、男は一本のナイフを懐から取り出した。思わず戦闘態勢に入る僕だったが、それに構わず男はナイフを前後反対に持ち替え、持ち手を僕に差し出した。


「これをアンタの連れに渡せ」


 半ば強引にそれを押しつけた後、男はくるりと背を向けて立ち去ろうとする。


「おい待てよ! ナイフなんて物騒なもの師匠に渡せるか! さっさと持ち帰れ――」


 しかし僕が瞬きした次の瞬間、男は既に目の前から消えていた。その場に一人残された僕は、男から渡されたナイフの処遇について考える。


(ここで捨てたら困るのは神主だ。でも僕がいつまでも持ってるわけには行けないし、やはりコレは彼女に渡すべきなのか?)


 悩みに悩んだ末、廃校での一件が解決するまでは僕が持っている事にした。今はとにかく、この状況を切り抜けることに集中したいし。


 僕はバッグにナイフを入れ、再びあぐらをかいて静かに目を閉じ事の終わりを待つのだった。

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