何者も過程を見ず
私が過去を知っていると知り、激しく動揺する彼。和美の言うとおり、やはりこの問題は彼にとってセンシティブな問題だったんだ。
「な、何で知ってるんです? どこからか情報を仕入れたとか?」
「ごめん、それは伏せさせて。とにかく私は、ここに来るまでに既に君の身の上話を飲み込んでるって事を伝えたかったんだ。その証拠に、君が私の腕から呪いを吸っている場面でも一切動揺しなかったし」
私のその言葉に、彼は再び黙り込んでしまう。
「……お笑いですよね。こんな邪悪極まりない力を持つ僕が正義を騙るなんて。貴女も感じたでしょう、武器と化した呪いの恐ろしさを」
「まあ、そうだね」
「僕は入学する際、実家と縁を切って沖縄に来ました。実家に籍を残したまま卒業したら、必ず僕は呪殺師にさせられてしまうから」
「そこまでして君は呪殺師になる道を拒んだのか。しかしなぜ君はそれを望まなかったんだい?」
「僕がまだ鷹守神社で小間使いをしてた時、一人の魔法使いと会ったんです。その人と一緒に一本のアニメを見たんですが、その中で主人公がしていた活躍にとても感動しまして。それいこう、僕は正義の味方である事を目指すようになりました。でも……」
言葉を全て出し切る前に、彼はため息をついてうなだれた。
「やっぱり無理っぽいな。正義の味方は呪いを使って敵を倒したりしないし、暴言を吐いて敵を粉々になんてしない。やっぱり僕には呪殺師がお似合いなんじゃ――」
私はそんな彼の頭を治療中の右手で撫で、彼が抱えている手を外し顔を上げたのを見て言った。
「いいかい、どんな力で何を成すかは問題じゃない。みんなが気にするのは君が何を成したかという部分だけで、良くも悪くも人々は過程を見ないんだよ」
「……そうなんですか?????」
「今回だって、結果的には謎の石碑とそこの憑いてる呪霊を祓って神社を呪いから救ったじゃないか。その点において、君は正義の味方を名乗れる。胸を張れ少年! 君はこれからもずっと、正義の味方で居て良いんだよ」
「!!」
彼の表情は一気に明るくなり、笑顔が戻ってきた。左手を支えにスッと立ち上がり、彼と目を合わせる。
「見栄えは問題じゃない、どうせ数日経てば皆忘れるだろうし。君が実際に良いことをしたという結果と記録があればそれでいいじゃないか。それを踏まえて、これからも正義の味方で居続けると私に約束してくれるかい? 私は君のその愚直な正義感が好きなんだ」
「そうだったんですか!? でしたら、はい! 約束します!」
嬉しそうに笑顔で頷く彼。その様子が愛らしく思え、思わず彼に抱きついてしまう。
「!? ちょ、ちょっと師匠! 神主と巫女さん方がこっちに来てますよ! そういうのは後にした方が……」
「ふふん、私は他人の目線なんか気にならないんだ。私の意思は自身の感情と興味以外によって変わる事はない。覚悟しろ鷹守君、しばらくはこのままだぞ」
「そんなー……恥ずかしいです……」
向こうから歩いて来る神社関係者の面々に生暖かい目線を向けられながら、しばらく私は彼の熱を感じるのだった。
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