株主総会

「ええ、本日も我が社の株主総会にお集まりいただき有難うございます。本日も、発表するまでもない決算をお伝えします」


株主総会が始まった。

いつも通りネズチューブでも配信している。


チュレディは慣れた手付きでパワーポイントをさしながらマイクで発表する。


「そして本日は、私の部下から発表があります。利益表において、少々計算ミスがありました。彼は最も優秀な部下で、ミスなどは滅多にしないのですが、このような事になってしまい申し訳ない思いです。大したことはないので軽く聞いていてください」


チュレディはゆうゆうと総会会場からリムジンで社長室に戻り始めていた。

社長室の大きなモニターで忠茉がお詫びする姿を見たかったのだ。


忠茉はゆっくりと立ち上がり自分のパソコンをモニターに繋いだ。

「部下の忠茉と申します。総会で使用している決算資料において間違いがありましたので、此の場を借りて、発表とお詫びをさせていただきます。お詫びといってはなんですが、おてもとにある厳選された水をお飲みになりながら聞いていただければと思います」


忠茉はモニターに映したスライドを指しながら説明した。


しばらくスライドをめくると


「こちらは私のミスです。申し訳ありませんでした」

自分のミスではないのだが、深々と頭を下げた。


チュレディは社長室の大モニターでワインを飲みながら観ていた。


「そして、もう一つお伝えしたいことがございます」


チュレディは眉をひそめた。

(もう終わりのはず...?)


「皆さん、こちらをご覧になったことはあるでしょうか?」


そこに映し出されたのは


忠太のツイートだった。


『テクノチーズ(かつ含まれるネズミン)の危険性について』と題される文献を表示した。


「なぜ映すのだ?!」

「あいつ...!だがあの文献はチューッターで皆がみているのにまだ何も起きていない。ネズミンの効果で誰も何も感じないはずだ」


会場で忠茉は

「このように、ネズミンは百害あって一利無し。今は禁止されているのにも関わらずテクノチーズには平然と使用されています」

額からは汗が流れた。



ある株主が立ち上がった。

「なんてもの食わされてきたんだ!」会場の隅にまで届くように叫んだ。


それに続いて

「そうだ、明日からチーズはヘルシーチーズ社のものにしよう」



「何が起こっているんだ?なんでこんなに皆ちゃんと聞いているのだ。ネズミンはどうした」


チュレディは急いでエレベーターを降り、リムジンを出させた。



会場に着くなり、チュレディは灰色の顔を真っ赤にして忠茉に激昂した。


「忠茉め、俺を裏切ったな!またしても俺は部下に貶められた」


忠茉は鼻で笑った。

「自分の科を棚に上げるのはやめてください社長。多くのネズミの健康を害し、社員を大企業という虚構の海を泳がせていたのはあなたのほうだ。父さんのツイートで気付かされた。正直とても怖くなったけど、あなたを油断させるために父の意見に賛同しないふりをしておりました」



「本日株主の皆様に配った水はネズミの危機管理能力を一時的に強くする成分が入ったものです。こちらは私の仕事なので。薬は事前に父に連絡し、総会に持ってきてもらうよう頼んでおりました」


「あの時、強引にネズミンの発表を押し通したら反対されると思い、時間を置くことにしました。粉飾決算も前々から気付いていました」


チュレディは膝をついた。

忠茉は目線を合わせた。

「全ネズミ界に配信されています。ここで謝罪すべきです」


「いや、画面の外のやつらはその水を飲んでいないだろ」


「往生際が悪いですね。そもそもネズミンは体に慣れてくるので、個人差はありますが危機感を取り戻している者も出てきております。今回は念の為水を配りましたが」



参加してた忠太は「もっと後になってから発覚したら今よりも大きな騒ぎになっていたかもしれないぞ。頭を冷やしてこい」


「...私はただ、ネズミ界一の企業を作りたくて。この会社も、お前の生活も終わりだぞ」


忠太は表情を強くした。

「この小さな山の巣穴の中で一番の金持ちになって何が生まれる。しかもその富はネズミ達の健康と引き換えに得たものだ」


忠茉はチュレディに駆け寄った。

「世界一の企業は、世界一金儲けする会社のことだけを言うのではないですよ。」


チュレディは下を向いたまま小声で言った。

「お前はこれからどうするんだ」


「私にも、働いていた以上多少なりとも罪はあります。これからは責任を持って、ネズミたちの危機感を感じる力を取り戻す成分を入れたチーズを制作します」


忠太は忠茉の肩を叩いた。

「頼んだぞ社長」

「お前も、あんなツイートしなくたってもうすぐ絶命する身なのに。叩かれて大変だっただろう」


忠太は髭を撫でながら上を見た。


「チーズが好きだから、チーズのためなら苦でもなんでもない」



そのままチュレディは動画内でそのまま謝罪会見を開いた。


テクノチーズ社の社長を辞め、忠茉に社長を託すことを発表した。



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