テクノチーズ社
テクノチーズ社の年商はチーズ業界最高である。
ネズミにとってかかせないチーズの業績であれば、皆が注目する。
社長はネズチューバーでもあり、Chu Chu Queenのボーカル担当のジョン・チュレディ、所謂「遣り手」である。
今日は株主総会で、シーズンの業績発表の日である。
その模様は公式ネズチューブで配信される。
司会のチュレディが発表台に立った。
「えぇ皆さん、本日はお忙しい中お集まりいただきありがとうございます。本日も、例年通り好調なテクノチーズ社の決算を発表いたします」
株主総会には毎年、会場に入り切らないほどの株主が押しかける。成長しか見込まれないテクノチーズ社の株価は上がる一方である。
総会後。
「社長、本日もお疲れ様でした」
社長室に部下の忠茉がやってきた。
「今シーズンも好調でしたね」口元をニヤつかせながら忠茉は話した。
「いやあ、よくこんなものを毎日食べ続けられるよな」
「ネズミンは体に毒。いつまで騙さるんだか」
チュレディはテクノチーズをゴミ箱に投げた。
それを忠茉は横目に見た。
「原材料名の表記義務が無くなったのでより楽になりましたね。ただ、騙せなくなったら僕らの生活はなくなります」
「俺に任せておけ。歌でイメージは抜群に良くなっている」
ソファに座ると、チュレディはふと思いついたように
「そういえば、この間、我が社のチーズに難癖をつけたやつがいたが、それが逆に売上に拍車をかけたようだな」と呟いた。
「そのようですね。ですが皆『僕らの大好きなテクノチーズに文句か』ですって」
チュレディは鼻で笑った「全く効果が無いどころか、それで逆に皆が怒りの衝動で売上が上がっているとは、皮肉だな」
「ええ、相変わらずです...。父は」
「顔はそっくりなんだがな。忠茉(ちゅうま)君」
チュレディは鼻歌を歌いながらトイレに向かった。
忠茉はその間にコーヒーをいれようとチュレディのデスクに手を伸ばした。
チュレディの一番部下である忠茉は、いつも社長のコーヒーカップが空にならないよう気遣っていた。
デスクにはChu Chu Queenのメンバーとの写真が置いてある。隣にあるチュレディお気に入りの金色のコーヒーカップに手を伸ばした。
「あれ、パソコンにロックをかけていないなんて珍しい」
何気なくパソコンを覗いてみると。全身に身の毛がよだつ思いで目を見開いた。
「―まさか...!」
忠茉は無意識に後ずさりした。
「どうしたんだそんな顔して」
息が止まった。
「社長...!」
恐る恐るパソコン内のデータを指差した。
「これ...」
「粉飾決算ですよね」
チュレディはしばらく沈黙を続けた。
―。
実は、チュレディは会社を立ち上げたのはテクノチーズ社が二社目だった。
以前の会社は、信頼していた部下に「君だけ」と伝えた社内情報を漏洩され瞬く間に倒産においやられたからである。
それからというもの、チュレディは誰も信用することなかった。
会社の方針は全てチュレディのみで決めていた。部下はあくまでも駒であった。
さて、あまり隠そうとすると余計に怪しくなる。
「おっとこれは計算間違いだった。これは次回の総会で話すよ」
チュレディは次のミーティングの準備をしはじめた。
その準備は、忠茉の言葉をもって中断せざるをえなくなった。
「社長、この際ネズミンについても発表しましょう」
チュレディは心の中で激怒した。そんなことをしたら、またしてもコツコツと積み上げた会社が終わってしまう。
チュレディは目を忠茉に向けた。
忠茉自身も、思ったよりも何倍も鋭い目でチュレディの眼を突き刺した。
「これは今禁止されている。バレたらうちの会社は終わりだ」
「そんなこと分かっています」
そう言って、忠茉の肩を叩いた。
「お前の生活も終わりだそ。俺はお前を守ってやってんだ」
耳元で囁いた。
「あ、それと」とチュレディはまたもや踵を返し
「粉飾決算はお前のミスとして株主総会で発表しなさい。なあに、うちの株主はそれほど頭のきれるものは多くない。一時的に株価は下落するが、すぐにもとに戻るさ」
「そうですか、でも本当に発表して大丈夫なんですね」
チュレディは鼻で笑った。
「ネズミンの効果を知らないのかい?」
「...まさか、あなたはそれを見越して...!」
「そうでないと発表して良いとは言わないだろう」
チュレディはニヤニヤとした。
「さて、会議に行かなきゃな」そう言って会議室に行こうとして。
社長室のドアに手をかけると
「おっといけない、今度はPCにロックをかけなきゃな。誰かさんに見られては困るからな」
小走りで戻ってきては、会議に出向いた。
社長室を出ながら「悪いのは忠茉、悪いのは俺の部下〜♪」と自身のヒット曲にあわせて歌った。
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