テクノチーズ

ある日。

忠太が新聞を読みながらカフェで朝食をとっていると、目の前で二匹組が朝食をとっていた。


「なあ、この間のネズチューブみたかよ」

「ネズチューブ?なんだよそれ」

「お前、見たこと無いのか?動画アプリネズチューブ。今すぐダウンロードしたほうがいいぞ」

若い二匹の会話だった。


「この動画、面白いんだよなあ。あ、広告だよ邪魔くさいなあ」


広告では、「テクノチーズ!安くて美味しいよ」と15秒程度で流れていた。

「はいはい食べてまあす」とスキップした。



忠太はそのテクノチーズというものをインターネットで注文してみた。


自宅に戻り、興味半分恐ろしさ半分で食べてみたところ、忠太は何か尖ったものでも口に入れたかのように顔をひしまげた。

「なんだこれは。こんなものチーズではないぞ」


すぐに研究所にチーズを持っていった。

研究室を訪れ、大学の教授である友人にお願いしてチーズの分析機にかけた。

結果を詳しく成分を見てみた。

曲がったヒゲを何度も撫でながら、呟いた。

「そもそも、なぜこんなものがチーズに入ってるのか」

「何が入っていたんですか?」

「ネズミンだ」


「ネズミン...?」

忠太は画面を再度凝視した。

「通常チーズには入らないものなのに」

「なるほど。教授は何故ネズミンをご存知なんですか?」

「食品添加物について昔研究していた。この添加物は安価に手に入り、味もおいしく感じる。だけど今は食品には入れないように法律で禁止されている」

「何故ですか?」

忠太は大きく深呼吸をした。

「この物質を摂取するとネズミが持っている本来の危険察知能力を著しく低下させる効果がある。他にも、脳や心臓など体に数え切れない害を与えるから、これを知れば摂取する者はいないだろうな。今それがバレたらテクノチーズ社は一夜にして終わりだろう。今はネズミは他の動物や人間に狙われることは無くなったから気づきにくいけど、万が一何かあったらどうするんだ」


忠太の、好奇心にも似た心が焦りに変わった。


「解決方法は?」教授はまだあまり感情が乗らない状態で尋ねた。


「一時的に危機管理能力を強くする薬なら現在は流通しているが、それでは根本的な解決にはならない。そして味がしないので誰も飲みやしない。うちの大学で開発するしかないな」


忠太は今度、パソコンに向かった。


ホームページを見てみると、テクノチーズカンパニー社社長のジョン・チュレディが掲載されていた。彼は、社長業の他にもChu Chu Queenというバンドで動画サイト「ネズチューブ」において全ネズミが彼等の音楽を聴いていると噂されるほど人気を博している。


成分に関しては、ホームページには記載が無かった。最近ネズミ界において特別に成分を記載しなくても販売可能になったためだろう。パッケージにも記載はなく、赤や黄色で派手にデザインされているだけで、中央に「テクノチーズ」が英語で表記されている。

チュレディ自身がCMに出演している影響もあって、現在は誰しもがテクノチーズを口にする人気だ。




翌朝。忠太は同じカフェで朝食をとっていた。

近くでは昨日の二匹組が向かい合って座っていた。

「おい、昨日のネズチューブみたかよ」

「お、例の映画だろ」

「そうそう、ネズミ滅亡の映画。ま、現実にあるわけないけどな」


この計画を実施するにあたってネズミ達の危険察知能力を低下させていたままでは危ない。


忠太はチューッターのアカウントを作成した。


『テクノチーズ(及びそれに含まれるネズミン)の危険性について』文献を作成しツイートした。

元有名教授とだけあって瞬く間に拡散された。



全員が、想定の如く

「俺等の好物を悪く言うなよ」「テクノチーズ社を潰したいだけか?」「有名になりたいだけか?」「でもどうせネズミ界は平和だから良くね?」等とリプライされた。


思ったよりもネズミ界はテクノチーズに毒されている。


「これでいい」全身の空気でため息をついた。


兎に角、動くしかない。


忠太は電話を取り出した。

「もしもし、ちょっといいか」


その横で先程の二匹組が「おい、忠太さんだぜ」「お、今話題のお方だ」という会話がなされていた。

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