第五話 持ち込まれた敗北
「止まれ!何者だ!」
「この地に住むものでございます。この戦争で、家も服も…果ては食べ物さえもなくなってしまいました。もしよろしければ、幾らかの食料を…」
「ムムッ。ここで待て。」
入り口の護衛をしていた兵士は、参謀本部へ向かった。
参謀長のオネスト・ノーヴァーは食料の一部提供を許可し、更に衣服も分け与えた。
「さあ、これを持っていくがいい。」
「ありがとうございます…」
その時、兵士は気づかなかった。
1人、訪問者が減っていたことを…
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所代わり、ベルラン
ヒトラーは退任前に、いくつかの仕事を行なっていた。
それはプライセンを始め、占領地域の名称変更である。元々ベルランもミューも、ドイツの都市名にそっくりであったため、ヒトラーは変更を考えていた。
「ベルランはベルリン…ミューはミュンヒェン…バーストミンスターはバート・ヴィースゼー…」
執務室で口笛を吹くヒトラーに、将校が電報を走って持ってきた。
「総統!一大事です!」
すぐさま将官らが集められ、会議が開かれた。
「オネストからの連絡です。」
「…オネスト率いる進駐軍、第七軍は…アルザスの少年とその配下4名に壊滅的被害を喰らい…官邸から20km後退…」
その文を読み終えたヒトラーは、苛立ったように指を机にトントンと叩いた。
「第三軍はどうした。」
「第三軍は北部にて補給物資を調達しています。」
「オネストは何をしている。」
「現在第三軍及び後方待機の第18軍との合流を行なっています。」
するとヒトラーは、静かに椅子から立ち上がった。
「全軍に伝えよ。アルザスの全てを焼き尽くす、都市焼却作戦を開始せよと!」
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アルザス ロンディニウム
「おお!流石は勇者。プライセン軍を圧倒するとはお見事だ!」
「褒めるのは結構です。直ぐに避難をした方がいい。」
「何故です?もう数日はプライセンも来ないでしょう!」
「私のキュリュケ…失礼。黒エルフのキュルケゴールの予言によれば、あと数時間後にこの国は燃え盛る炎に包まれるでしょう。」
それを聞いたチェンバレンは、初め驚愕の顔をした後にゆっくりと席に座った。
「…そうか。そうか…つまり君達は、何もなしえなかったのだな?」
「私はこの国にいる敵を駆逐したまでだ。本国を抜け出て、他国を攻めるなどは勇者のやることではない。」
「もういい、こやつらをつまみだせ!」
数十時間後、アルザスはプライセン軍の爆雷焦土により教会や一軒家。神殿…ありとあらゆる建物が崩れ去った。
その光景はまさしく地獄であった。かつてゴースランド大陸の始まりの地と言われたアルザスは、一夜にして瓦礫の街となった…
結局、国を救う英雄が持ってきたものは国を破滅へと導く敗北に過ぎなかったのである…
本土爆撃から数日後
チェンバレンは首相官邸執務室にて自殺した。
後を継いだマックイーン内閣は、プライセンへの無条件降伏にサインした。
これにより、広大な植民地を持つアルザスはプライセンのお情けによって、アヌンナキ大陸の端くれに移された。プライセンはすぐさま、カタリカとのアヌンナキ大陸分割会議を開き、協議の結果プライセンは北側を。カタリカが南側を。
アルザスは、中央アヌンナキの半径100kmの最小国家へ成り下がった。
これによって、ヒトラーにしては三度目の世界大戦は枢軸連合による勝利で幕を閉じたのであった…
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