第三話 西部戦線攻防戦

プライセンがアルザスとの総力戦を起こしてから2週間が経った。

未だにアルザスへの本土上陸は行えず、プライセン軍はホーヴァー海峡での海上戦で、戦艦を2つも失った。


「もう木造船の時代は終わりだ。」


ヒトラーは、それまでの木造建築を禁止し製鉄技術を加速させるように各大臣に指示した。すぐさま国内や占領地域から材料をかき集め、まだ希少価値ほどしかいなかった製鉄技術士に勲章を授け、国内での木から鉄への移転作戦を開始した。


一方、既に産業革命が起きていたアルザスはユナイテッドと協力して科学分野への道を歩んでいた。

人々はそれまでの魔法を捨て、新たに生まれた科学に魅せられた。

プライセンよりも優れた科学技術と、圧倒的な予算と人事により国内での科学技術の発展は、ヒトラーがいた世界そのものと変わりはなかった。


プライセンでは、旧リーグレ北部のチタン半島からアルザスへ上陸する案とプライセン北部のヴレーメンからアルザスを目指す二つのルートが模索された。


「チタンからの襲撃はアルザス側も当然予測しているでしょう。そこで、チタンから行くと見せかけてヴレーメンからアルザス北部を襲撃するのはいかがでしょうか。」


「ふむ、この手ならアスコットの腰を引かせることができるだろう。」


リーグレの降伏から早5年…アルザスもプライセンも、ホーヴァー海峡での熾烈な海戦以来、目立ったことは何もしてこなかった。

両国の国民たちも、最早戦時中だということを忘れ一日を過ごしていた…はずだった。


アルザス北部 ヴァーレーン


「敵襲…!敵襲!」


現れたのは、プライセンの戦闘機群だった。

5年という歳月を経て、プライセンにはヒトラーが独ソ戦を起こした時の軍事力と科学技術力が生まれていた。

シュタイフォーゲル「鋼の鳥」と呼ばれた戦闘機は、瞬く間にアルザス中を戦火にした。


「陸海空、全ての軍事力が目標達成率に達しました。」


この時ヒトラーは61歳。体力の衰えを感じたヒトラーは、アルザスを今年中に降伏させるよう指示した。


「私はもう、首相を引退する。」

一方アルザスでは、アスコットが辞職した。

後継は副首相のサー・ウィンストン・チェンバレンが就いた。


チェンバレンはそれまでアスコットが行ってきた政策を続けるようにし、国内の全ての魔法産業、及び魔法的活動を禁止した。

魔法使いによりストライキやデモが起きたが、国民も科学を信用しきっていたため、誰も見向きしなくなっていた。これにより多くの魔法使いは郊外へ行くことになったのである。ゴースランド大陸に…いや、この世界から魔法はロストテクノロジーになったのだ。


「アルザスでは首相がチェンバレンに交代しました。彼もまた、我がプライセンを無条件降伏させるまでは戦うと…」


「この大戦も佳境に入っているということだ。エルウェーウィンは何をしている?」


「未だアヌンナキ大陸においてアルザスの植民地軍と交戦しています。しかし…」


「しかし、なんだ?」


「戦況はカタリカの方が悪くなる一方です。」


ヒトラーはカタリカ・プライセン国境沿いの別荘地にいたエルウェーウィンに会いに行った。


「僕と君は一心同体だ。最新鋭の戦車と武器を供与するし、近々パンデモニウムを枢軸に引き寄せる。」


エルウェーウィンは憔悴しきった顔で返事をした。


「カタリカが弱くて君には迷惑をかけてばかりだな…」


そんな時、リューネスブルクが慌てふためいて入ってきた


「総統!パンデモニウムにてクーデターが発生し、政権がひっくり返りました!数日後に入城の予定でしたが…国民は軍隊に唾を吐きかけたそうです。」


「何っ!唾を吐いただと!?即時パンデモニウムを解体する!」


この事件のおかげで、アルザスに回すはずの最新鋭部隊はパンデモニウムへ行くことになった…計画はまたも狂い始めた。

一方アヌンナキには、狐と評されたルンメルが行くことになった。


「諸君、いよいよ決戦の時が来た。アルザスは最早海峡も封鎖されどこにも助けを求められない。」


「はっ、進駐軍はロンディニウムを5k手前で囲むようにしております。」


「チェンバレンは最後の一人まで戦うらしい。お望み通りにしてやれ。」


アルザス軍は、首都を最前線とした強固な防衛戦を引いていた。

首相官邸には将校や大臣が連日会議を開き、地下壕には何千人もの国民が隠れていた。

チェンバレンは首都絶対死守を命令し、ユナイテッドへ参戦協力を仰ぐことにした。


「ユナイテッドからの返信はまだ来ないのか。」


「はい。相手も参戦はやはり控えるようで…」


「このままではヒトラーにアルザスを明け渡してしまう。そんな事は許されない。敵はいまどこまで来ている?」


「官邸から約3kにて、地雷原と戦車・歩兵部隊が足止めをしています。」


「…何日持ちそうなんだ?」


将校たちは一瞬口を閉ざし、答えた。


「はっきり言って、12時間が限界です。」


チェンバレンはそれを聞くと、椅子から立ち上がって数分間ウロウロとした。

そして、決心した。


「プライセンとの休戦協定を結ぶ。」





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