第二話 ブリヤートとの亀裂
ブリヤートは大三国同盟の内容を調印前に見る権利があると言ってきた
「秘密があるのならそれも含めて見せてほしい。プライセンはこっそりフェネックを援助しているんだろう。」
大戦の二年前、ブリヤート連邦はフェネックを侵略するため三百万の軍勢を率いてフェネックへ侵攻。しかし結果は、国境沿いの領土を得たのみに過ぎなかった。
ヒトラーがかつて「我が闘争」に書いたように、今回の大戦でも東方生存圏と題してブリヤートをやっつける構図を描いていた。しかし二正面作戦の三の舞にはなりたくなかったので、西側諸国を完全に征服し、兵力を蓄えてブリヤートを叩こうと考えていたのである。
2040年 10月23日
ヒトラーはリーグレとダンティッシュの国境沿いの街にて、ダンティッシュのカランコ総統に会った。
「アルザスの滅亡はもはや時間の問題です。ダンティッシュはプライセン側に立ってジブラルタを占領する条約を結ぶべきだ。」
しかし、カランコは気の抜けた声で話した。
「総統、私達はまだ他国との戦争なんかができるような状態ではありません。」
「一番危険な所はプライセンがやります。」
「いえいえ、もう私達は他国の領土は必要ありません。アルザスを滅ぼして分前を預かろうとは思いません。」
「リーグレが負けそうになれば参戦をするから、リーグレ領北部アヌンナキをくれと言ったのは、どこのどなたでしたかな?」
「いいえ、あの時とはもう状態が変わったのですよ。」
ヒトラーは痺れを切らしていった。最早この会談に時間を割く理由はなくなった。
「いかがですか、闘牛でも。」
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次の日ヒトラーは、南部リーグレの総帥であるパタン元帥と会談したが、対アルザスへの積極的参戦は見送られた。軍事物資を送るのみになり、ヒトラーは意気消沈した。結局プライセン一人でやることになるのかと…
そんな時、日頃ヒトラーを妬んでいたエルウェーウィンは…
「ヒトラーはいつも私を利用している。ようし、今度は俺が同じ手口であいつの腰を抜かしてやろう。」
エルウェーウィンは、ギリジア奇襲攻撃の日を十月二十八日と決めてから、ヒトラーへ自分の計画を伝えた。驚いたヒトラーは会談を要求した。
「総統共々の進軍です。本日、勝ち誇った勇ましい我がカタリカ軍はアルベニア境界線を超えました。」
ヒトラーは既にアルザス最終計画の準備をしていたので、びっくりした。
「エルウェーウィン君。大丈夫かね?」
「ははは。我がカタリカの真の力を見せつけるのです!」
彼はご機嫌だった。
しかし、たった三日でカタリカの軍勢は壊乱状態になってしまった。全軍が撤退すると、世界中の笑い者となった。
11月12日、ブリヤートのモロトフ外相がプライセンを訪れた。
「アルザスはもう敗れた。時間の問題だ。」
「それはもうどうでもいい。次の質問に答えてください。プライセンはフェネックで何を目論んでいるのか?また、いわゆる戦後の世界で私達はどのような役割を与えられているのか?それに大三国同盟とバルカン問題。」
「ブリヤートはフェネックに何を望んでいるのですか。」
「まあ、ルークウェルの時と同じです。」
「それは併合ということではないか。そんなことをしたら国際的立場を失うのはあなた方だ。」
「ほう、プライセンはよくってブリヤートがやるとダメだというのですか。」
「なんだと。」
そこへリューネスブルクが割って入った。
「まあまあ。プライセンとブリヤートがフェネック問題で喧嘩することはないでしょう。単なる誤解です。」
「さてモロトフ殿。ブリヤートはアルザス崩壊後の領土分配についてどんなお気持ちですか。私としてはバーラト・ペルルアをブリヤートに与えましょう。」
「総統、オスト大陸は鳴神にでも任せれば良いことです。もっとゴースランドに密接な問題を討議しましょうや。例えばプレーンやルークウェルとか…はっきり言って、あなた方政府がルークウェルにやっていることは我がブリヤートの利益対抗策でしょう。保障を撤回していただきたい!」
ヒトラーは突っぱねた
「お断りだ。」
「ではブリヤートがプレーンに同じことをしたらどうするのですか?」
「それはともかく、そんなことをプレーンがブリヤートに要求したとは聞いていません。」
「万一、ブリヤートとの戦争のタネを私が探しているのであればそのために何も赤海への海峡など必要としないだろう。」
「お二方、アルザス軍の空襲があるといけませんので…会談は防空壕の方で。」
「空襲だと!?」
モロトフが驚いた声で言った
「どこの国が空襲を?」
「アルザスです。」
追い打ちをかけるようにモロトフが言った。
「総統のお話では、アルザスは壊滅したと…負けた国がまだ抗って爆弾を落とすのですか。ハッハハハ。」
モロトフは嫌味を散々言って帰っていった。それから二週間後…ゴースランドから手をひけとのプライセンからの要求に対し、ブリヤート書記長ヒョードルから返事が来た…
「総統、ヒョードルはフェネック・プレーン・アラヴィア・ベルジアの油田を渡すのなら要求に応じるとのことです。」
偶々居合わせたヴィルムもこれには突っぱねた
「なんとずる賢いやつだろうか。」
「このままでは領土要求も時間の問題だろう。出来るだけ早く屈服させないとキリがない。」
「ブリヤートはいつルークウェルの油田に手を出すかわかったものではありませんな!」
「ややもすれば、秘密裏にブリヤートとアルザスは組んでいるかもしれない。いずれにしても、例の作戦を行う前にエルウェーウィンのやったヘマを片付ける必要がある。」
「彼はアヌンナキにてもう戦力が低下しています。」
ヒトラーはエルウェーウィンに対してアヌンナキから手を引くか自国だけで大陸を制覇するかどちらかを選ぶよう通告した。カタリカは長引いた戦争によって財政危機に陥っており、エルウェーウィンは迷うことなくアヌンナキから兵を引いた。
その三日後、ヒトラーの元に一通の手紙が届いた。
「総統!ヘル副総統が新型戦闘機にてアルザスへ飛びました!」
「何っ!?」
ヒトラーはこの時、官邸中に悲鳴を出した
「気が狂ったのか?」
「なんでも、彼の友人の占い師から彼に平和の使徒としての役割があるというのを言われ本気にしたらしく…また彼の大学時代の教授も似たようなことを言ったようですから、本気で思い詰めたらしいです。」
「いずれにせよ、我が国に悪魔が舞い降りたようなものだ。もし帰ってきたのなら即刻その場で殺せ!」
2041年10月1日
ヒトラーはついにアルザス攻略へ移るべく、国内9割の軍力をアルザスへ向かわせた。エルウェーウィンも一週間後に続き、アルザスは二カ国からの攻撃に耐える必要になったのである。
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