第四話 狼煙は上げられた

カタリカ・ダンティッシュの女性蜂起から一ヶ月が過ぎた。

ダンティッシュの総統ファルフィンは、プライセン・カタリカからの援軍と国防軍を指揮して蜂起を鎮圧することに成功。しかし、蜂起によって生まれたダンティッシュの復興には3年がかかることから、ヒトラーは大戦争の枠組みからダンティッシュを除外した。


リーグレでは、帝政時代への復古が進んでいた。

ルイーズの手腕はヒトラーも認めるほどで、各地から知識者や力のあるものをかき集め、政権掌握から僅か半年で旧帝政時代の国力を凌いだ。その繁栄の影では、男性たちが奴隷のような扱いを受けられているにもかかわらず…


「崩れた計画を今一度立て直さなくてはならない。」


ヒトラーは総統官邸に、軍の将校たちを集めて会議を行なっていた。

エアオーベルングの事件で半年もの時間を奪われ、侵略するはずだった国々の情勢も変わってしまい、ヒトラーは大戦争計画を書き直すことになったのだ。


「リーグレ・アルザスを攻めるのは後半からが良いかと思われます。ブリヤート連邦をリーグレらと共に滅ぼし、我々が赤の防波堤だと知らしめる必要がある。」


「いや、リーグレを先に落とすべきだ。あの国はアルザスよりも、ひいては我が国よりも国力が高い。アルザスと手を組んで、リーグレを滅ぼすべきだ。」


各将校たちが論戦をする中、宣伝相のゲルウスが口を挟んだ。


「私はダンティッシュと共にカタリカを滅ぼすべきだと考える。」


これにはヒトラーも驚いた。現状最愛の友人であるエルウェーウィンを裏切ることになるからである。


「ゲルウス、それは流石の私も反対だ。何故カタリカを滅ぼさなくてはならないのかね?」


「総統、エルウェーウィンの側近に私の独断でスパイを潜り込ませています。そのスパイからの情報がこちらです。」


渡された資料には、カタリカが大戦争で疲弊したプライセンを侵略する計画書や、エルウェーウィンがプライセンを裏切ろうと模索している音声テープが入っていた。


「総統、何よりも怖いのは敵ではなく味方です。今カタリカを屈服させなければ、我が国はカタリカに塩を送ることになります。」


ヒトラーは部下たちが提出した資料を見て、嘲笑った。


「ははは。これはアルザスかリーグレが離間のために作ったんだろう。エルウェーウィンはこんな喋り方ではないからな。」


「しかし、万が一ということもあります。」


「カタリカがアルザスやリーグレと秘密裏に連絡を取っていれば、我々はお終いです。昨今の情報漏洩も、そうかもしれません。」


「くどいぞ!親友を怪しむのは、私は嫌いなのだ。」


ヒトラーは怒って自室へ行ってしまった。


残ったゲルウスと将校たちは、カタリカへの対策で論戦になった。


「もし滅ぼすのなら、FPに任せよう。彼女たちならばきっとやってくれる。」


「いや、反対だ。このような事にFPを使うのならばまだEPを使うべきだ。」


「そもそも、カタリカを滅ぼしては総統の命令と計画に大きな狂いが生じる。ここでカタリカを滅ぼして喜ぶのは、アルザスらだけだ。」


_________________________________


その頃、FPではEP隊員との給与差是正でストライキが起きていた。


この頃からヒトラーは、もっぱらムヒラーとの会談でFPを国内から国外へ回すように進めてきていた。増えすぎたFP隊員と能力者を減らすため、大戦においてはFPを主要にするようにしていたのである。


だがこの事が、京香にもれてしまった。この件以来、京香もヒトラーへの態度や忠誠が様変わりした。


京香はヒトラーやムヒラーの指令を無視し、独断で指令を次々と発令した。

元々EPの仕事だった警備や統制を行い、時にはFPをも動かすことがあった。


当然ヒトラーがこの事を見過ごすことはなかった。

ヒトラーはムヒラーに命じて、FPの規模縮小を行わせた。自分は自らEPを指揮し、反抗的な隊員を粛清したり時にはEP隊員のモノにした。


だがこれが、FPの反感を買った。

京香はFPの完全独立を求めて、国会へ法案を提出。この法案を通さなければ、クーデターを行うとの最後通告をヒトラーに送った…


「むむむ…まさかここまで強大なものになっていたのか。」


「国民もFPへの支持が圧倒的です。どうでしょう、いっその事…」


「ふむ…致し方なかろう。」


そして迎えた、法案採決の日。

この日ヒトラーは、国会においてこの法案を不採決とするようにする演説を行う。

次に、京香が壇上に上がり演説を始めた途端…


バン…!!!と銃声音が鳴り響いた。

次の瞬間、壇上にいた京香は頭から血を流し倒れた。


勿論、撃ったのはEP隊員。ムヒラーは計画通りに国会周辺をEPによって封鎖し、ヒトラーは安全にその場を離れた。


翌日、ヒトラーは新しいFP総司令官に親ヒトラー派のジークルーン・ハミットを雇用。それを機に、全ての反ヒトラー派の幹部・隊員を逮捕し尽く処刑した。


これにより、約20万の軍勢だったFPは5万までに減った。


「総統閣下、計画は成功に終わりました。」


「…ご苦労。」


ヒトラーは、ただそうつぶやいた。

だがこの時ヒトラーは、一つの失態をした事に焦っていた。

それは旧FPの総隊長を、みすみす逃した事である。


各総隊長たちは、リーグレへ亡命していた。

リーグレ政府は彼女たちを手厚く保護し、対プライセン防衛軍の最前線に置いたのである。


もう後は、ヒトラーの大戦を待つだけであった。

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