第三話 崩れ始めた均衡
女性が、特殊能力を手に入れるようになり一ヶ月が過ぎた。
FPの活動も軌道に乗り、国内の人間女性の殆どが何かしらの能力を得ることになった。
「総統、少しよろしいですか。」
「今作戦の考え中だ。後にしてくれ。」
この頃ヒトラーは、官邸の執務室で戦争計画の練り直しを図っていた。
今や列強の首位を狙うプライセンは、アルザスやリーグレとの戦争に勝つ事が最大の目標だからである。
「それが…大天使様がお見えに…」
「…分かった。すぐに行く。」
総統官邸 応接室
扉を開けると、怒りの顔のミカエルと静かに座るガブリエルが待っていた。
「これはこれは御二方、一体何の用でしょう?」
「とぼけるのもいい加減にしろ!貴様は我々天使や、天界の者を裏切ったな!」
「はて…何のことですかな。」
「貴方に授けた力は、人を救うためのもの…決して人を傷つけるものではありません。」
「ハハハハ!何を言っておられる。人間は他人を傷つけなければ生きていけない…そう!パンドラの箱が開いた瞬間、あなた方の求めた人間像は崩れ去ったのです!」
その言葉を聞いたミカエルは、ヒトラーに剣を突き立てた。
「今すぐ地獄で許しをこうか、それとも我々を倒すかだぞ。」
「ご安心を…もうあなた方のお力添えは必要ない。」
ガブリエルの背後には、FP隊員が立っていた。
一人の能力でガブリエルの生命力を奪い、もう一人の兵士はミカエルの思考を停止させた。
「偉大なる大天使よ、我ら人間、其方との契約を結ぼう。」
______________________________
カタリカ エマヌエーレ
カタリカでもプライセン同様、特殊能力を持つ女性が増えた。
だが、カタリカの女性はそれまで持てなかった男性との谷をうめたかのようにズイズイと権力を欲した。
こうした事態に、カタリカ政府は男女平等法を制定。
だが時すでに遅かったのか、力を手にした女性たちは国の重要職に付いている男達を次々に襲撃、挙句に国会へ押し入り女性帝国カタリカの建国を宣言してしまった。
エルウェーウィンは第二の都市アリスベリテに臨時政府を建設。
エマヌエーレ一帯を囲うように陣を敷き、女との戦争を始めた。
カタリカの蜂起をきっかけに、ダンティッシュでも蜂起が起こった。
ダンティッシュの女性は元々男っ気が高い。それが拍車をかけたか、国家機関に就く全ての男性を解雇。女性ファースト主義を取り、男性は奴隷のような扱いを受けた。
ブリヤート連邦は、これを好機にエマヌエーレとダンティッシュを国家承認。
国交を樹立し、更に国内の女性を頻繁に二カ国へ送らせた。
当然、ヒトラーがこの事に黙って見てる訳がなかった。
ヒトラーはアリスベリテへ赴きエルウェーウィンと会合すると、プライセン軍がカタリカを解放すると約束。これにより、ヒトラーの世界大戦計画はまたも頓挫したのであった。
「ブリヤートは何もわかっていない。彼らはあの技術を欲しい為に女性を利用している。」
「しかし、ブリヤートが兵を派遣しているということは我々は間接的に連邦との戦争を行う可能性もあり得ます。」
「ふむ…此処はFPに任せるべきだな。」
京香はFPから選りすぐりの兵を動員し、自ら指揮した。
彼女たちは自らが持つ特殊能力を駆使して戦い、まだ制御に慣れていないエマヌエーレの反乱兵を圧倒させた。
この活躍により、FPは国防軍にもEPにも属さない独立部隊としての地位を確立。
それまでの制度を残しつつ、各部隊から選りすぐりの100名が選ばれた。
これを10に分け、それぞれに部隊長を設けた。
部隊長に選ばれたものは、次期幕僚長に選ばれる。
あくまでもヒトラーと、国家のためとして…
_______________________
カタリカでは、エマヌエーレの反乱からの再出発となった。
エルウェーウィンは一般人への接種を中止し、エアオーベルングの接種は国防軍本部中将以上に制限された。
「ふうっ、まさかこんなことになるとは思いもよらなかった。またしてもヒトラーの荷車となってしまったわけだな。」
「我が国のプライセンからの信頼度は低下する一方です。」
「あぁ…これ以上なにか失態を起こせばヒトラーは我が国への援助を断ち切ってしまう…それだけはいけない。我がカタリカの夢、エマヌエーレ帝国の復活は幻になってしまう。」
エルウェーウィンは、ハナからプライセンを好んでいたわけではなかった。
彼の野望であるエマヌエーレ帝国の復活のために、頭角を表したヒトラーを有効活用してるにすぎない。
だからこそ、ヒトラーと信頼を深めているだけである。
エルウェーウィンはヒトラーから大戦争の計画を聞いていた。その計画を利用し、アルザスとリーグレを倒した後、プライセンを倒すのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます