間章 鳴神

所変わり、鳴神。

鳴神はプライセンが開戦した5年前から、隣国の漢紅民国との泥沼の戦争を戦っていた。


元首は鳴神ではカミサマと呼ばれ、軍隊もカミサマが統帥権を持っていた。

カミサマは鳴神を創生した人物の末裔とされ、今日に至るまで末裔の血を継ぐ者が新しいカミサマとなる。


しかし、現実は違う。今や行政管理はカミサマから委任状を受け取った何名かの人間が行い、軍部も三名の将軍によって統制されていた。


また、長引く戦争によって議会議員の半数以上が女性になっていた。今や重職の殆どは女性が担当しており、男性は大臣職に一人しかいなかった。


鳴神 行政最高責任者

東條 初音

「プライセンから新しい外交文書と、協定の申し込みが届いた。協定の内容は昨今拡大を見せる共産主義拡大阻止のための防共協定である。」


東條の招集の元 大蔵・陸軍・海軍・宮内の四人の大臣が集められた。


大蔵大臣

金子 澪

「総理、それは結ぶべきでしょう。これを機に、我々が世界を手に入れるのです!」


陸軍大臣

野口 美鶴

「現在主力な兵や武器は大陸にいる、大陸の戦争が終わってからプライセンの方へ歩み寄るべきです。」


海軍大臣

大塚 李

「ならば海軍だけでも行かせましょう。日数はかかりますが、必要な物資さえあればプライセンまで辿り着きます。」


宮内大臣

緑川 結衣

「お待ちください。この事はまずカミサマの耳に入るべき問題です。国の今後を占う事を、カミサマに目もくれず行おうというのですか。」


宮内省はカミサマや、その一族の事務を司るにすぎない。

だが、宮内省発足から今に至るまで宮内省の大臣はカミサマの血を継ぐ家の者が務めていた。緑川家は分家ではあるものの本家から絶大な支持を受けている。


「つっ…だ、だが。今はそんなことをしている時間もないのだ!法令にもあるように、急務の際はカミサマの謁見及び御前会議は開かなくとも良いと…!」


「それを決めるのは、総理及び宮内省だ!軍部が決めることではない!」


「両者静まれ、この事はカミサマに報告する。今日はこれでひらく。」


翌日、御前会議が行われた。

カミサマの御尊顔を拝見出来るのは、総理を始めとする主要な閣僚と軍部の首脳のみである。


カミサマ

「事のあらすじは東条から聞いた…この事は我が祖国を二分するものである。私は、今も続く大陸での戦いにおいて、国のために命を尽くしている兵の事をいつも思う…これ以上、無益な血は流しとうない。協定を結び、平和の為には尽力をすべきだ。」


結局協定は採決され、外務大臣の九条がプライセンへ飛んだ。

九条は現地で「ハイル九条」の歓迎の嵐を受けご機嫌だった。


リューネスブルク

「九条様、遠路はるばるありがとうございます。しかし現在我が総統は病でして…」


「そうでしたか。一日も早い回復をお祈りします。」


「協定はこちらで済ませよとの指示もいただきましたので、こちらへ…」


九条は協定を結んだ後、リューネスブルクと会談した。


「総統は鳴神に対して友好を望んでおります。また、近隣諸国への攻撃をすべきとも言っております。」


「全くその通りだ。だが私は鳴神の支配者ではないのです。」


「なるほど、ご安心を。総統は鳴神がユナイテッドとの戦いをするならば全面協力も辞さないと言われておりました。」


「全くの歓迎です。それとリューネスブルクさん。私は帰りにリーグレと不可侵条約を結ぼうと考えているのですが。いかがでしょうか?」


「ブリヤートと!?そんなのは不可能でしょう。」


「できたら?」


「出来るわけがありません。」


プライセンは、鳴神には絶対にヒトラーがいない事を漏らすわけにはいかなかった。もしバレたら、ヒトラーが構想している計画が破綻する為である。


何も知らない九条はブリヤートに寄って中立・不可侵条約を結んだ。


帰国後、東条に諸々の説明をし席を立った。


「そうか、いやご苦労。帰って休みたまえ。」


「では失礼致します。」


夕暮れの光を背中に浴びる東条の顔には、薄ら笑みが描かれていた。


特別高等警察総監 葵 美宏

「何?それは本当ですか。」


内務大臣 佐々木 希

「はい。ですので、明日は全国の主要地や人が多くいる場所に人員を派遣してください。それと…未だ逃げ隠れているアカには、発砲が許可されています。」


「分かりました。すぐに指示を出します。」


「了解…通話終了。」


翌日、首相官邸の前に特高警察が配備されていた。


「佐々木!これはどういうことですか!なぜ特高が…!」


「総理…カミサマの判断なのですよ。貴方が悪いのです。」


佐々木が懐から出した紙は、神書。カミサマが直筆で書いたものだ。

これはあらゆる法的措置を超え優越される。例え相手が総理であろうと、逮捕するよう書かれば逮捕される。


「何故だ!?私は今日だってカミサマへの信仰も、国への愛も捨ててない!」


「カミサマは長引いた大陸での戦争を終わらせるよう指示なさいました。東条首相は近衞首相から引き継いだ戦争を終わらせる義務がある…だが貴方は、今やユナイテッドを敵に回そうとしている。」


「それは…!ユナイテッドが我々との会談を放棄したから…!」


「もう無駄です。東条内閣及び一部の大臣は既に辞任いたしました。さあ、辞任書にサインを。」


東条には何もできなかった。ただペンを持ち、自らの名前を書く。手は震え、息は荒く、目から涙が溢れた。


「よろしい、彼を連行…収監しなさい。」


「くっ…佐々木…!貴様もいつか道連れにしてやる!」


東条を始め、佐々木派以外の大臣は皆罷免させられた。

佐々木はカミサマから推薦状を賜り総理となると、陸海の大臣と元帥に紫電の使用許可を与えた。


紫電とは、鳴神の雷神の名前からあやかった武器である。

空気中にあるプラズマを一挙に集中させ、放つ。着弾地点からは紫色の雷が放たれ、その地を最も簡単に平らにする威力だ。


「これで戦争が終わる…」


漢紅民国の総統、朴 儒寿は鳴神に降伏。

漢紅大陸の領土は鳴神に譲渡され、鳴神は莫大な資源と人材を手に入れた。

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